第23話 Scene:望「お、起きてるから!」
撮影の日だから、翼が連れて来てくれた。
セリフはあるけど、難しいシーンは無くて、一発オッケーだったのに……
今、見てる光景が、受け入れられない。
「あ、の……」
私の声が聞こえないみたい。
翼ってば、脇役で来てた女と話してる。親しげに。なんなの?
「そろそろ……」
どうして。喉の奥が詰まったみたいになって、なんかあんまり声出なくって、困ったな。
あっ、ちょっ、なんなの。あの女、翼に触った!
「休んでるからー!」
届いてるかどうか分からない言葉を放って、控室に走った。
頭が熱くなって、体がぼーってなって、早く帰りたい、もう眠りたい。
「待たせたな」
やっと来た。抱っこして欲しいから、寝たふりする。
「よっと」と言って、私を抱えて車に移動している……と、思う。
わーい、お姫様抱っこ。「あれ?」と思った時には遅かった。まさかの後部座席!
「こいつ降ろしてから送りますね」
はあ?誰に言ってんの?
薄っすら目を開けたら、さっきの女が助手席に乗ってる!なんでなの?許せない!
翼ってば、なに、私を連れてナンパしてんの?
「うふふ。月岡さん、大変ですね」
「いえ、別に、慣れてるんで」
はあ?はあ?私がいるのに、私の悪口言うなんて、絶対許さないんだから!
怒っていたはずなのに、気づいたら寝てしまっていた……疲れてたから。
また、お姫様抱っこされそうになった。
「お、起きてるから!」
「そっか、じゃ、一人で部屋に行けるな?」
翼んちの駐車場で、私だけ先に行けって言われてる。
「……いる」
「は?」
「このまま寝てるから、送ってあげればいーじゃん」
女を助手席に乗っけたまま、私は後部座席に座ってドライブの延長した……なんか気まずいけど、そんなの関係ない。
女の指示に従って翼が運転をして、ようやく到着したらしい。
「ここでいいの?」と翼が言って、「ありがとう」と女が言って、行った。
去り際にキスとかしなくてよかった……ほっ。急いで助手席に移った。
「なんで送ったのー?」
「マネージャーいないって言うから」
「なんで、ここに座らせたのー?」
「お前、寝てただろ?」
「そうだけど、私の席かと思ってたー」
「光も座るし、誰でも座るよ、何か問題?」
おーありです!いやだもん!
「望の特等席じゃねぇよ」
分かってるけど、それを言われると……悲しいよ。
シートを倒して寝たふり。
のつもりが、本当に寝ちゃった。
「のぞみ」
聞こえた気がするけど、眠くって。
やった、お姫様抱っこ。
もうベッド?
放さないよ。
この手は絶対に放さない。
ぼんやりする、とっても眠い。
あ、これ好き、気持ちい、良い匂い。
唇がふわふわってなって、翼の香水の匂い。
もっと触って欲しいな、いろんなとこ、撫でて。
「望……」
「なにー?」
「もう、無理だ」
翼は私のおでこにチュッてして、行っちゃった。
分からない、分からない。私には分からない。
本当は光に相談したい。けど、光は私には恋バナしてくれない。颯で我慢するしかない。
昨日はあのまま寝ちゃって、起きたら双子はいなくって、一人で学校に来た。
メッセージ送って颯を探す。
「望!」
颯が見つけてくれた。
「あのさ、大変なんだよー」
「二人は?」
「朝からいないんだよー」
「連絡は?」
「ないよぉ」
二人で授業受けた。
颯はノートの端っこに、ずっとクルクル丸を書いてる。インク、もったいない。
作戦は大失敗。
嫌われちゃった。
光にも翼にも、見捨てられた、私も颯も。
お通夜の帰り道みたいになっちゃった。
黒いワンピース着てくるんじゃなかったな。
「颯、帰り寄っていいー?」
「夜バイトあっけど、それまでいいよ」
お家に上がる。
「あのね、翼がね……」
「翼?」
「女の人送って行ったのー」
「はあ」
「私を後ろに乗っけてたのにね、私だけ先に帰れって言ったのー」
「ほお」
「助手席に座ったらね、そこは私の特等席じゃないって言われたのー」
「あら」
「そんでね、お姫様抱っこでね、放さなかったらね……」
「えっ」
「もう無理、って言われちゃったのー!」
「げっ」
なんか、もっと言ってよ。
「どう思うー?」
「さあ」
颯じゃ、相談相手にならない。
「光に連絡ってしたー?」
「既読にならないんだ」
「避けられてるのかなー」
「避けられてるよな」
きっと、今日はお葬式だ。
私たちの友情が死んじゃった日なんだ。
「そろそろバイト行くけど、送ってく?」
「うん。今日は自分ち帰るから、一緒に行こー」
颯のバイト先のコンビニは、私の家のすぐ近く。
「じゃねー」
「また、学校でな」
そう言って手を振る。店に入った颯を見送った。
「あ、あの……!」
コンビニから声がした。颯じゃない方の人。時々いる金髪のバイトの人。
「あ、の、風間さんの彼女さんっすか?」
「私がー?颯のー?」
颯はもういない。着替えに行っちゃったと思う。
「違うよー」
「そ、そうっすか」
なに?この人?
「ま、前から可愛いとか思ってて……よかったら、と、友達になってくれませんか?」
「いーよ」
スマホを出す。
「え?いーんすか?」
は?どーしたの?自分が言ったんじゃん。
連絡先を交換した。




