第19話 Scene:望「いたずらが過ぎるぞ!」
昨日から翼が送ってくれた台本を必死で読んでる。
脇役とは言え、ほぼ毎話、出番があるし、セリフも少なくないよーな……
「ちゃんと頭に入ってるか?」
「おう!ばっちりよー!」
やる気満々、テレビドラマだしね。華々しいデビューだよね。
「よろしくお願いしまーす!」
大きな声で挨拶する。常識だよね。
「お前の方が、光よりやりやすいかも」
「ホント?私、めっちゃ、頑張るからー!」
「ああ、分かってるって。望はいつも頑張ってるよな」
こういうこと言ってくれる翼、好き。
「それでは収録始めまーす!」
「行ってくるねーっ!」
セリフはちゃんと言ったけど、テンションが違うってやり直しをくらってしまった。
でも、2回目にOK出た。ほっ。
「初のNGだな」
「初めては誰にでもあるもーん」
「その通りだな」
翼はずっと見ててくれる。
途中でいなくなっちゃったら、ちょっぴり不安かも。
「ずっと居てくれて、ありがとねー」
「どういたしまして。楽しんでるよ」
「私のこと、見てて、楽しいのー?」
「楽しいよ。目指してたって言うだけあって、芝居、上手いのな」
「ホントー?」
「本当、本当、光のは冷や冷やして、見てらんなかった」
わーい!褒められた!嬉しいなっ。
「ねぇ、それさ、颯にも言ってよー」
「は?」
「私のお芝居上手って、颯にも教えてあげてー」
「分かった。今度、言っとくよ」
最初からやる気は満々だったけど、さらに頑張るぞーって気になってきた。
それから時間を空けて、呼ばれて芝居して、また時間を空けて、呼ばれて芝居して、を繰り返してやっと解放された時にはもうヘトヘトだった。
「動けるか?」
翼が優しい。
「おんぶして」
ダメもとで言ってみた。
「ほれ」
翼がしゃがんで、こっちに背中を向けている。
「わーい」
翼の背中に乗った。
眠くなってくる。もう、少しも動きたくない。
車の前で降ろされて、後部座席に乗せられそうになった。
「助手席がいー!」
「分かった、分かった、はい、どうぞ」
ドアを開けて待ってくれてる翼は、執事のようだ。
座ってからは意識が飛んで、さっぱり覚えてない。
「のぞみ、のぞみ」
何度も呼ばれて、目を開けた。
「着いたけど、俺んちでいい?遅いから、お前んち、連れてけないわ」
いいよ。
「おい、起きろって」
むり。
「のぞみ」
抱っこして、連れてってよ。
そう思ってたら、なんか、ふわっって、脇と膝の後ろを持ち上げられて……ちょっと、怖くなって、翼の首に手を回した。落っことさないでね。
「なんだ、起きてるのかよ」
無視。
「別にいいけど」
この匂い好き。くんくん。
「おい、それ、やめろ」
やだね。
「落っことすかもだから」
それはまずい。
「光が寝てるから、静かにな」
頷く。顔は首にくっつけたまま。
「空いてる部屋あるから、そこで寝ろ」
動かない。
「聞いてんのか?」
動かない。
「寝たのか……?」
私をお姫様抱っこしたまま、鍵を開けたのが分かった。
「靴、脱げるか?」
足をバタバタして、靴を脱ぐ。
「なんだ、起きてんじゃねえか」
バレてしまった。
「なんか食うか?」
無視。
「風呂入るか?」
無視。
「じゃ、そのまま寝ろ」
ドアを開けたのが分かった。
私をそっと、ベッドに置いた。
「ほら」
翼の首に回した手をほどかない。
「寝ろ」
絶対に放さない。
「いい加減にしろ」
だって、ずっと、こうしていたい。
「放せって」
いやだね。
「いたずらが過ぎるぞ!」
翼が強く言ったから、放しちゃったじゃん。
「いたずらじゃないもーん」
「だったら、これも颯に言っていいのか?」
「それはだめー」
「そういう事だろ。後悔することはやめとけ」
いたずらじゃない。噓じゃない。ずっとああしてたかった。でも颯には言って欲しくない。
いろんな思いがぐるぐるって胸の中で回って、どうしたらいいのか分かんない。光に話したい。相談したい。だけど、聞いてもらえないよね。光は好きな人のこと、私には話してくれないんだもん。
「おはよ」
「ひーかーりー!」
「昨日、遅かったんだって?」
「うん。翼がね、お姫様抱っこして、ここまで連れて来てくれたんだよー!」
「そっか」
光と翼と一緒に朝ごはん食べて、一緒に学校に行った。
授業の合間に、翼が私に言った。
「今日、お前んち寄っていい?」
「なんでぇー?」
「おばさんに望がこっちで生活していいか聞いてみるわ」
「え?いーの?」
「まだちょっとしか経験ないけど、撮影の時間っていつ終わるか分かんないんだよ。昨日みたいに夜中に送って行けない時間になると困るからさ。せめて撮影が続く間、家で一緒に生活していいか聞いてみる。光もいるし平気じゃね?」
それって、お嫁さんになったみたいじゃない?




