第17話 Scene:翼「翼ともう口きかないー」
「望、俺、今から颯のとこ行くけど、お前どうする?」
「光が居るのー?」
「そゆこと」
「じゃ、私も行くー」
まったく、あの大バカ者には言いたいことがたくさんある。
そもそも逃げ出すようなら最初っからテレビドラマの出演なんてやるなっつーんだよ。
逃げるにしても、当日はないだろうよ。望が捕まんなかったらどうなるとこだったか……
「さっきも言ったけどさぁ、私はちょー感謝なんだから、光のこと怒んないでよねー」
「約束はできない」
「じゃ、行かせないー」
「何だよそれ」
「怒らないって約束するなら、行ってもいいーよー」
「分かったよ」
とりあえず、会ってから文句の一つ二つ……
「文句言うのとかも無しねー」
「出ちゃったらごめん」
「出ちゃったら許さないんだからねー」
「許さないと、どうなるんだ?」
「翼ともう口きかないー」
「それは困るな」
しまった、笑っちまった。
「ねぇ。アイス買って行こー」
「嫌だね」
「望が食べたいのー。今日頑張ったご褒美買ってー!」
にっこり笑って、首を傾げるなんてズルい事、どこで覚えたんだよ……
「仕方ねえな」
コンビニで大量のアイスを買わされた。
「そんなに要らねぇだろ」
「だってどれが食べたくなるか、分かんないだもぉーん」
「なんだそれ」
颯の家のチャイムを鳴らす。
誰も出ない。
「いーれーてー!アーイースー、溶けちゃうよー」
開いた。
まじか。
「翼、あのさ……」
颯が用心深く、少しだけドアを開けた。
そこに小さな望が切り込んで、ずかずかと入って行く。
「あ……」
颯が振り返った瞬間、ドアをガッと開けて、俺も入る。
「ひーかーりー、ありがとうー!」
望が光に抱き付いている。
「あのね、あのね、キスシーンやったんだよー!望ね一発オーケーもらったよぉ!それでね、それでね、ご褒美にアイス買ってもらったんだー!どれにするー?いっぱいあるよぉ!」
もう、怒る気が失せた。
「食えよ」
泣きそうな顔してる光に言った。
「許してやってよ」
颯に言われた。
「怒ってねえよ」
望と約束したからな。
「それでね、翼ともキスしたんだー」
「は?おま、何言ってんだよ!」
いきなり暴露を始めた望の口を塞ごうと後ろから肩を抱く。俺の手を交わしながら、望は口を閉じない。
「だって、ほんとーだよ。2回もー」
「2回も?!」
颯が食いついてんじゃんかよ、やめろって。
「え?撮影所で?」
光、お前に聞く権利はなくないか?
「違うよぉ。車で。撮影の前とぉ、後でぇ、1回ずつー」
「おいっ!」
とうとう望の口を塞ぐ。この、おしゃべり!颯にそんなこと言ってどうすんだよ!
「え、お前ら付き合うことにしたの?」
颯の奴め……ほら、誤解されちゃったじゃんかよ!俺の手に収まっている望に目をやる。
「ちげえよ、全然!練習みたいなもんだろ?な?望?」
ふんぐふんぐ言いながら、望は首を横に振っている。
「練習なら、撮影の後にキスするのはおかしいよね、望?」
光まで調子に乗りやがって、この野郎!
「うん。そーそー。練習じゃないもーん」
俺の手から逃れた望が光に飛びついて言った。
何考えてんのかさっぱり分からない。
もう知らない。放っておく。俺もアイス食う。
「これ食ったら帰るぞ、望も送って行くから」
「私はいー。ここ残るから、光と二人で帰っていーよ」
気になる三角関係だが、俺がしゃしゃり出るところじゃない。
「分かった。次のスケジュール、確認したら送るから」
「わーい。よろしくー」
光は車で何も話さなかった。
置いてきた、颯と望が気になるよな……
「より戻したのか?」
「ううん」
違うのか。てっきりやり直したのかと思ってた。
「今後の活動、どうするんだ?」
「私はあんまり向いてなさそうだから、望に代わってもらえそうなやつは、そうしてくれない?」
「分かった」
思いつめたような暗い顔。俺、あんまりその顔見たくないんだよな。
「翼さ、望のこと、本気で頑張ってくれない?」
「なんだそれ」
「望だってさ、翼のこと好きになると思うよ」
「お前と颯が晴れてめでたしめでたしになる為に、望が邪魔ってか?」
「そうは言ってないけど……ぶっちゃけ、そう」
珍しく辛辣だな。
「俺は俺でやれることをするけど、望だって颯に仕掛ける権利はあるだろ?」
「分かってる」
「だから、より戻さなかったのか?」
「まあね。望が颯にフラれてきちんと諦めてくれたら、それはそれで……でも、みんな幸せになって欲しいし。翼が望を幸せにするって、本気で思うし」
「そんな上手いこといくか?」
無言で微笑んだ妹はちょっと綺麗だった。
「なんか、強くなったな」
「全部欲しいの。私、バカなだけじゃなくて、そうとう欲張りみたい」
「ん?」
「友達も恋人も家族も、みんな、みんな欲しい。全部、幸せでいて欲しいの」
「大きく出たな」
笑ってはいるけど、馬鹿にはしてない。
「よし、あの鈍い二人がお前の……じゃないなよな……俺たちの、願いを叶えてくれるまで、一緒に頑張るか」
「うん!」




