表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第11話「林間学校の肝試し、中二病がお化けにビビり倒し、私が悲鳴を上げたら森が浄化された件」


大型魔導バスに揺られること数時間。

車内は、遠足気分ではしゃぐ生徒たちの熱気で満ちていた。

お菓子交換、トランプ、恋バナ。青春の1ページだ。


――ただし、私の周辺を除いて。


「……重い」


私は座席で押しつぶされそうになっていた。

バスの座席は2人掛け。

普通なら、隣に一人座るだけだ。

しかし、現在の私の状況はこうだ。


 右隣: ルミア(満面の笑みで私の腕に絡みついている)

 膝の上: フェンリル(丸まって爆睡中。よだれが私の服に……)

 通路を挟んで左: アリス(鋭い視線で周囲を警戒中。手にはいつでも魔法を撃てるよう杖を握っている)

 後ろの席: ノア(背もたれから顔を出し、私のお菓子を狙っている)


人口密度が異常だ。

私の周りだけ「美少女のすし詰め状態」になっている。


「お姉さま、あーん!新作の『激辛ハバネロポテト』です!」

ルミアが赤い粉末のかかったチップスを差し出してくる。


「いや、それ辛いから。……あと、バスの中でボロボロこぼさないで」


「フッ……甘いな、ルミアよ。コーデリアが求めているのは、もっと高貴な甘味……この『闇黒のショコラ(カカオ99%)』だ」

ノアが後ろから苦そうなチョコを突き出してくる。


「苦いってば。ノアちゃん、それ自分で食べられないから私に押し付けようとしてるでしょ」


「うぐっ……!我が邪眼には全てお見通しか……!」


「……静かにして。敵に位置を悟られるわ」

アリスが小声で注意する。

バスの中だよ?敵って誰?運転手さん?


私はため息をつき、膝の上のフェンリルの頭を撫でた。

この子だけが癒やしだ……と思っていたら。


「……肉……もっと肉をよこせ……」

フェンリルが寝言と共に私の太ももを甘噛みした。

痛い!そこはお肉じゃない!


「……ふふ。皆様、仲がよろしいようで」


通路の最前列から、冷ややかな声が飛んできた。

特別講師のクロノスだ。

彼は銀縁メガネを光らせ、マイクを持ってこちらを見ていた。


「間もなく目的地、『精霊の森』に到着します。……そこは古来より、強力な精霊たちが住まう聖域。ですが……夜になると『別の顔』を見せるとも言われています」


クロノスが意味深に笑う。


「どうか、迷子にならないように。……“神隠し”に遭うかもしれませんからね」


車内が一瞬、静まり返った。

冗談めかしているが、その目は笑っていない。

私とアリスだけが、その言葉の真意――「教団の罠」を理解して、背筋を凍らせた。



精霊の森。

そこは、樹齢数百年を超える巨木が立ち並ぶ、深緑の幽玄な場所だった。

空気は澄んでいて美味しいが、どこか肌にピリつくような濃密な魔力が漂っている。


宿泊施設は、森の中に建てられた大きな木造ロッジ。

荷物を置いた後、私たちは広場に集められた。


「さて、夕食も済みましたし……林間学校の恒例行事を行いましょうか」


夜8時。

辺りは完全な闇に包まれている。

焚き火の明かりだけが揺れる中、クロノスが楽しげに宣告した。


「――『肝試し』です」


うわぁ。

やっぱり来た。

林間学校といえばこれだ。

生徒たちからは「キャー!」という悲鳴と、「やったぜ!」という歓声が上がる。


私は絶望した。

無理。絶対無理。

私、悪役令嬢だけど、中身はただのビビリな女子高生だよ?

お化け屋敷で腰を抜かして、係員のお兄さんに運ばれた前科があるんだよ?


「ルールは簡単。森の奥にある『古の祠』まで行き、そこにある『お札』を取ってくること。……ただし、森には『イタズラ好きな精霊』が出るかもしれませんので、お気をつけて」


クロノスが指を鳴らすと、森の入り口に怪しげな青い人魂(魔法?)がポゥっと浮かび上がった。

演出がガチすぎる。


「では、くじ引きでペアを決めて――」


「待ちたまえ!」


私が抗議しようとする前に、アリスが手を挙げた。

ナイス、生徒会長!


「この森は魔力が不安定です。2人組では危険すぎます。……安全を考慮し、私の班は『全員』で行かせていただきます」


アリスがクロノスを睨みつける。

『貴方の罠になんて乗らないわよ』という意思表示だ。


クロノスは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。


「ほう……。生徒会長自ら、特例を申し出るとは。……いいでしょう。ただし、人数が多い分、恐怖も倍増するかもしれませんよ?」


許可が出た!

よかった、一人じゃない!

私は安堵でへなへなと座り込みそうになった。


こうして、私たちの班――コーデリア、ルミア、アリス、ノア、そしてフェンリル(犬枠で同伴)――の5人での肝試しが決定した。

最強戦力だ。お化けなんてワンパンだ。

……そう思っていた時期が、私にもありました。



森の中は、想像以上に怖かった。


月明かりも届かない鬱蒼とした獣道。

風が木々を揺らし、ザワザワと不気味な音を立てる。

遠くでフクロウ……いや、もっと別の何かの鳴き声が響く。


「……ひっ」

「……」


私はルミアの腕をギュッと掴んで歩いていた。

怖い。無理。帰りたい。


「お、お姉さま?そんなに強く握られると、血が止まりそうなんですが……でも幸せです!」

ルミアは顔を赤らめてデレデレしている。この子には恐怖心というものがないのか。


「……フン。これしきの闇、我が『深淵』に比べれば児戯に等しいわ」


先頭を歩くノアが、震える声で言った。

彼女は眼帯を押さえながら、めちゃくちゃ早足だ。

そして、アリスの服の裾をガッチリ掴んでいる。


「ノアさん、歩きにくいんだけど」

「ち、違う!これは結界を維持するための接触であって、決してビビっているわけでは……!」


ヒュ~……ドロドロドロ……。


その時。

木々の隙間から、青白い半透明の何かが現れた。

幽霊だ。

ボロボロの服を着た、首のない騎士の亡霊。


「「「ギィヤアアアアアアアッ!!」」」


私とノア(とフェンリル)の悲鳴がハモった。

フェンリルは「キャンッ!」と鳴いて私の頭の上に飛び乗った。お前、神狼じゃなかったのかよ!


「く、来るな!結界!ダークネス・バリア!」

ノアが杖を振り回すが、恐怖で魔力が安定せず、花火のような火花が散るだけだ。

中二病キャラはお化けに弱い。これは世界の真理だった。


「落ち着いて。……これは幻影よ」

アリスが冷静に杖を構える。


「『幻影看破ディスペル・イリュージョン』!」


アリスの魔法が亡霊を照らす。

しかし、亡霊は消えない。

それどころか、剣を抜いて襲いかかってきた!


「なっ……!?実体がある!?ただの幻影じゃない!」

アリスが焦る。

これはクロノスの仕業だ。イタズラ用の幻影に紛れて、本物の「低級死霊レイス」を召喚しているんだ!


「シャアアアアッ!」

死霊騎士が剣を振り下ろす。


「させません!」

ルミアが前に出る。

しかし、物理攻撃は霊体には効きにくい。彼女の剣がすり抜けてしまう。


「くっ……手応えがありません!どうすれば!?」


絶体絶命。

このままでは切られる。


その時、私の脳内で何かが切れた。

恐怖が限界突破し、逆ギレモードに移行する音。


(もうヤダ……!暗いし、怖いし、お化けとか意味わかんないし!)


私は涙目で叫んだ。


「出ていけええええええっ!!私の視界に入るなぁぁぁっ!!」


私は無意識に、右手を突き出した。

イメージしたのは「部屋の電気をつけるスイッチ」。

あるいは「スマホのライト」。

とにかく、この怖い闇を払いたい一心で。


「『閃光フラッシュ』ッ!!」


カッッッッッ!!!!


私の掌から放たれたのは、懐中電灯レベルの光ではなかった。

それは、真夏の太陽を至近距離で爆発させたような、超高密度の「聖なるホーリー・レイ」。


森の闇が一瞬で消し飛んだ。

真昼のように明るくなる視界。


「グオオオオオオオッ!?」

死霊騎士が、光に焼かれて絶叫する。

いや、彼だけではない。


森の中に潜んでいた無数の悪霊、瘴気、そしてクロノスが仕掛けた罠の数々が、私の光に触れた瞬間、ジュワワワッと蒸発していく。


浄化。

圧倒的な光による、強制成仏。


光が収まった後。

そこには、清々しいほどに浄化され、キラキラと光の粒子が舞う、幻想的な(そして全く怖くない)森が広がっていた。


「……あ」


私は自分の手を見つめた。

またやっちゃった。

「ちょっと明かりをつける」つもりが、「森ごと浄化」しちゃった。


「……す、すごい……」

ノアが腰を抜かしたまま、震える声で呟いた。


「これぞ『聖女の鉄槌』……!闇を統べる我ですら、直視できないほどの輝き……!コーデリア、貴様、何者だ……?」


「……だから、ただの生徒だってば」


アリスが呆れたようにため息をつき、それから優しく微笑んだ。


「……でも、助かったわ。実体のある死霊なんて、私の魔法でも手こずったはず。……ありがとう、コーデリア」


「お姉さま!かっこいいです!お化けを一撃で倒すなんて!」

ルミアが尻尾を振って抱きついてくる。


「……まぶしい。目が潰れるかと思ったぞ」

頭の上のフェンリルが文句を言う。


こうして、私たちは無事に(?)祠に到着し、お札を手に入れた。

恐怖の肝試しは、私の発光現象によって、ただの「夜のピクニック」へと変わったのだった。



一方その頃。

森の監視塔から、その様子を見ていたクロノスは。


「……ははっ」


乾いた笑い声を漏らしていた。

彼の手元にある水晶――森の罠を制御する魔道具――は、過剰な聖属性魔力を浴びて粉々に砕け散っていた。


「面白い……。実に面白いですねぇ、コーデリア様」


クロノスは、割れたメガネの位置を直した。

その瞳には、獲物を狙う冷徹さは消え、代わりに奇妙な熱が宿っていた。


「私が召喚した死霊騎士は、上級魔術師でも苦戦する代物。……それを、恐怖の悲鳴と共に『浄化』するとは」


彼は思い出す。

先ほどの光。

それは、教団が崇める「邪神」の力とは対極にある、純粋で、暴力的なまでの「聖なる力」。


「彼女の力は……我々の計画を阻む障害か、それとも……」


クロノスは、森の奥から戻ってくるコーデリアたちの姿を見下ろした。

楽しそうに笑い合う少女たち。

その中心にいる、銀髪の少女。


「……もしかすると、彼女こそが、この腐った世界を浄化する『女神』なのかもしれませんね」


クロノスの口元が歪む。

それは、敵意とも、崇拝とも取れる、危うい笑みだった。


「明日の『儀式』……予定を変更しましょう。貴女がどこまで『神』に近づけるのか……特等席で見せてもらいますよ」


森のざわめきが、不穏な旋律を奏で始める。

肝試しは終わった。

だが、本番――「大災厄の魔獣」の封印を巡る戦いは、夜明けと共に幕を開けようとしていた。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ