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我が愛しの守護天使様  作者: ハタケ


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8

 土日は暇すぎてキレそうになってくる。毎日平日でもいいんじゃないですかね。将来働くようになったらあえてブラック企業に就職して休みと給料は腹黒社長に献上して自分は掘った穴を無意味に埋めるだけという囚人の拷問並の苦痛な仕事を倒れるまでしてましょうかね。それで俺の人生、終わり! 閉廷! 来世はなくてもいいよ! まあ嘘ですけど。

 そういった頭に鉛を詰んだような重たい頭の状態で部屋から出て下に下りて台所に行って冷蔵庫を開けてミネラルなウォーターを飲んでリビングに行くと、なんか見慣れない子供がウロウロしていた。しかも二人。男の子と女の子。迷い子ですかね。

「おーい、ここは君たちの家じゃないゾ」と俺は優しく言ったのだが、根がどこまでも子供嫌いにできてる俺は本当は蹴りの一発でもくれてやりたかったがホワイト社会でそれをやると家そのものが炎上しかねないほど世間様から批難されそうなので仕方なく優しく諭してやったのだった。

 すると子供二人は声を揃えて、「こんにちわー!」と元気よく挨拶した。

「お、おう」と拍子抜けするワイ。

 で、誰よこの子。

「お兄ちゃん、やっと起きたの?」

 そこへ我が上の妹の夢花様登場。昨日は短パンと子供っぽいデザインのTシャツを着ていたのに、今日は薄手のカーディガンを羽織っていて、なんか十歳くらい歳取った感じがした。

「なんだよ、今日はどっか面接でも行くのか? ていうかこの頑是なき子供は何?」

「は? 何面接って」と夢花はキョトン。と同時に子供二人を「ほらほら」とあやしていた。

「いや、急に大人っぽくなったというか、そういや髪も違うな……」

 夢花様はいつもの子供っぽいお下げではなく、軽く茶色にした髪をひっつめにしていた。なんか主婦みたいな印象だった。

「おいおい、もしかして子供ができたとかいうんじゃないだろうな」と俺は二人の謎の幼子の頭を適当に撫でながら言った。

「今更何言ってるの? あ~、まだ寝ぼけてるみたいだね~。たまには家から出なよ~。あっ、ちょっと待って」

 会話の途中で子供二人が、わーっ、とか言いながらリビングから出ていった。うるさい子供は苦手なんで俺はほっとした。

 俺はリビングのソファに座ってリモコンを手に取ってテレビの電源を入れた。土曜の昼だから微妙な番組ばっかだった。

 そうしてぼーっとしていると、

「よう、タマ」

 背後から男の声が。俺は座ったままふり返った。

 リビングの入り口に、爽やかな短髪で薄く無精髭を生やした長身の男が立っていた。寒色のYシャツに清潔そうなズボン。なんか立派な社会人って感じしますね。或いは良きお父さんといった印象。

「誰?」と俺は純粋に疑問を口にした。

 しかしすぐに誰であるかわかった。

「……赤坂?」

「久しぶり」と彼は、はにかんで言った。「夢花ちゃんに頼んで、ここに寄せてもらったんだよ。お前に久しぶりに会いたかったから」

「うわっ、なんだいきなり気持ち悪いこと言って」と俺は軽く引いた。「いつも会ってるのにどうした?」

「あ、いや、そうだったかな」目を泳がせる赤坂。「隣、座ってもいいか」

「ダメ」と俺は普通に断った。なんか一人になりたかったから。

「そっか」明らかに困った様子を見せる赤坂。「まあ、頑張れよ」

 そう言って彼は気の進まなそうな動作で、リビングを出ようとした。

「ちょっと待った」と俺は引き留めた。「さっきの子供、誰かわかるか?」

「あ」ふり返った彼の表情は明らかに戸惑っていた。

 ……なんでそんな顔をする。おいおい、まさか俺が誰かを強姦して作った子供とかじゃないよな。トラウマになってるから俺が覚えてないだけで。いや、そんなわけないか。

「そのことは、また今度、な」

 なんかおっさん臭くなった赤坂は、逃げるように出ていった。

 なんなんですかね。


 そのままリビングでぼーっとしていると尚更ぼーっとしてきたので外の空気を吸いに行くことにした。謎の子供はもう戻ってこなかったので安心した。よくわからないものと関わりたくない。

 外へ出て見知った道を歩いていろんな店が並ぶ駅前まで来た。だが俺のよく知るそのいろんな店のいくつかはテナントが変わっていた。ラーメン屋が別の屋号になってたりコンビニが訪問介護施設になってたり近所にあった最後の本屋はとうとう死んでコンビニになってたりパチンコ店がなぜか洋服店になってたり花屋が百均になってたりと、店舗がコロコロ変わる地方あるあるの現象を目の当たりにしたことで俺は不覚にも胸が痛くなった。やっぱ地方は衰退し続けるんやなって。しかしもう絶対潰れてるだろうなと思っていたアニメ専門店は全国展開している有名店だけあって健在だった。久しぶりに冷やかそうかなと思ったがとっくにオタクを辞めた俺がそんなことしたら完全な嫌がらせになってしまうからと一度は躊躇したが、なぜかどうしても入りたくなって現金も持っていないのに店に入ってしまった。すると入り口すぐ脇の目立つところにあったVTuberコーナーに嫌でも目が行き、そして俺は棚一列全部占領している守護天使リマエルのグッズを見てさらに嫌な思いをしたのだった。金髪ボブカットのロリアバターが印刷されたマグカップやクリアスタンドやクリアファイルやノートやペンや消しゴムや下敷きやキーホルダーや缶バッチといった将来ゴミになるのになんでこんなの量産してんだよといったアイテムがずらりと並んでいた。値段も普通の筆記用具の二倍だった。誰が買うかこんなの、と思ったとき、その実用的なグッズが並ぶ下の棚にVTuberのCDやBDが目に入り、ん? と俺は首を傾げた。オタク引退から久しいだけあって俺の知らないVTuberばっかりだったのだが、リマエルのオリジナルソングCDやソロライブのBDがあるのはおかしいと思った。

 あいつ、いつの間にこんなの出したんだ??? CDは俺に知られずしれっと発売できるかもしれないが、ソロライブの映像なんていつ収録した? ていうかいつそんなライブなんかやった???

 あ、これはアニメーターがライブ映像風に作った3DCGアニメなんだな、と無理矢理納得し、店から出ようとしたところですれ違ったいかにもVTuberが好きそうな中年男性二人の会話を聞いたとき、俺が薄々感じていた嫌な予感がいよいよ現実味を帯びてきた。


「リマちゃんすげーよなぁ、来年で十五周年かぁ」

「そうだよなぁ。ていうか周年でソロライブやればよかったのにな」

「周年はアリーナでやるんだろ。にしても長らく天下だった有名箱の○○と○○が解散して完全な個人Vが国内トップになるなんて誰が予想したよ」

「そうだよな。企業Vはまさかの創始者様が返り咲いたし。世の中わかんねーわ」


 これは夢だな、という俺の予感は彼らのこの会話によって確信に変わった。夢花と赤坂がなんか夫婦みたいな雰囲気を漂わせていて、しかも二人の子供もいるっぽいこの世界は夢みたいっすね。

 というわけでこんな悪夢はさっさと終わらせるに限ると判断し、俺は店を出てまっすぐ家に向かった。しかし外に出ると街並みが2000年代前半のゲームのCGみたいなクオリティになってて、やっぱ俺の描画力じゃこれが限界なんすね、と脳の処理能力の低さを改めて実感したところで目の前に天使が降り立った。金髪ボブカットに白いワンピースを着た小学生くらいの年齢の少女。

 その少女は言った。

「これ、実は現実なんですよ」

「帰れ」と俺は言った。

「帰りません。なぜならここがあなたのあるべき所だからデス。くひひ」

「イミワカンネ。ここが俺の居場所なのはまあ理解できるけど、お前は違うだろ。お前、VTuberのリマエルだろ? ならさっきの店にいたオタクのために配信やってろよ」

「配信はしてますよ、ここではないどこかで。でもここにいる私はあなた自身なんですよね。だから私はここにいるんです。ふひひ」

「あ、それ聞いたことある。我は汝、汝は我ってやつだろ? 有名RPGのセリフパクるのはやめちくりー。不用意な引用は作品を一気に稚拙にするから」

「いいじゃないですか、結局あなたの創作や妄想なんていつだって稚拙極まりなかったんですからね、今更ですよ。うぇひひ」

「お、そうだな。だからこそニートみたいな中年なんだよな、今の俺って」

 俺は店の入り口脇のショーケースのガラスに映る自分の姿を見た。一見すると高校時代と全然変わっていないように見えるが、それは精神年齢がまったく成長していないからそう感じるだけで、よく見ると頬がこけてるし皺が微妙に増えてるし白髪もチラホラ。さっき見かけた中年オタクと同世代っすね、多分。

「ということはここって未来予知の世界、いや、予知夢の中なんすかね」

「まあそんなとこですね……と言いたいところですが、それも違いますね」とリマエルらしき金髪ロリはニヤリ。「ここが現実で、高校三年生だったさっきまでの話が夢。つまり逆なんです」

「あっそ。まあでも、どっちでもいいよ。どうせつまんない日常なんだからさ。お前の正体とかもどうでもいいです。じゃけんこんなクソ物語、伏線放り投げたまま終わりましょうね」

「それもそうですね。じゃあ今一度、夢の世界に戻りましょうかね……くひひひひひ……」

 守護天使リマエルの不気味な笑い声が、徐々に遠ざかっていく。同時に光も消えていく……。

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