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我が愛しの守護天使様  作者: ハタケ


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5

 最近、疲れがひどい。今日は遅刻ギリギリだった。朝起きて下に下りると夢花様が作られた朝食がテーブルの上に用意されていた。それもダークマターではなく極めておいしそうな朝食。まあトーストと目玉焼きとスープだけなんですけどね。

「兄ちゃん、最近だらしないよね」とセーラー服姿の夢花が言った。

 夢花は俺たちとは別の高校に通っている。生意気にも俺らよりも上の偏差値の高校に。

「夏バテっすね。すべてがダルいっす」

「まだ梅雨入りすらしてないんですがそれは」

「梅雨入り前で体が熱さに慣れてない時期だから真夏よりキツいんだよなぁ。ていうかこの時期なのにこの暑さってこれもう地球十年以内に滅びるな。まあどうでもいいけど。勝手に滅びりゃいいんだよ。あ、その前に核戦争で絶滅するかな。ゴミコンテンツが溢れ返ってる今の世の中って詰まるところ、ろうそくが燃え尽きる寸前の最後の一発なんすかねぇ」

「そんな人生終わった引きこもり中年こどおじみたいなこと言われましてもねぇ。私にどう慰めて欲しいわけ?」

「ヤらせろ」と俺はラインを越えた。

「うわー、昭和的」と夢花はジト目で言った。「あ、それだと昭和に失礼か。原始的って言い換えるね」

「原始人に対しても失礼だと思うんですけど」

「原始人は無能な仲間を殴殺してたし、多少はね? それよりさ」と夢花は唐突に言った。「莉茉(りま)にご飯持っていってから学校行ってね」

「……お前が持ってけよ」

「私はお兄ちゃんのご飯作ってあげたんだけど」

「わかったよ、俺が持っていく。じゃ、お前はさっさと学校に行って、性欲持て余した男子達と乱交してこい」

「はい、はい」と夢花は真剣味の欠ける返事をした(天丼)。


 俺は朝食を載せたトレイを手に持ち、躓かないよう気をつけながら階段を上がり、二階最奥の部屋のドアをノックした。

「……ごはん持ってきたぞ」

 しかし返事はなかった。

「ここに置いておくぞ」

 勢いよくドアを開けたらトレイのスープがひっくり返るように、トレイをドアの真ん前の床に置いた。

「あんまり学校サボるなよー」

 適当に言って踵を返そうとしたとき、


『ああああ……やっとラスボス前に戻ってきたあぁぁぁぁ』


 中から徹夜明けみたいなダルそうな声が聞こえてきた。


『指示厨のみんなのお陰でいい技を覚えられたよぉぉ。ありがとー。じゃ、改めて最後の戦い、イクゾー! デッデッデデデデ(カーン)』


 俺はスマホを取り出してリマエルのチャンネルを開いてチャット欄に、『カーンが入ってる+114514』と書き込んだ。

 くだならい。

 俺は持ってきた朝食のトレイを壁に向かって投げつけた。


 学校に着いた。着くぅ~。

「で、ダブルデートはどこに行こうか」

 着くやいなや、俺は赤坂に尋ねた。

「どうすっかなー。四人で行ける所っていうと、どういうとこがありますかね」

「昨日チラッと言ったように、海は? どっか泊まりで」

「泊まりって言ってもなぁ。そんな金、悪いけどないわ。うち、やることないから子作りばっかしてた親のせいで兄弟が多くて小遣いが少ねぇんだワ」

「ならバイトして、どうぞ」

「まだ働きたくないでござる(懐かしのミーム)。というのもワイ、大学行かずに就職する予定だから、今のうちに目一杯遊んでおこうと思ってさ。もう半年ちょっとで学生生活終わりだからなぁ……」

 珍しく赤坂の表情がアンニュイになる。

「大学行かないのか? なんでまた」

「なんでって金ねーし」

「奨学金とか、ご利用なさらないんで?」

「そこまでして行きたくないっすね。まず勉強が嫌いだからさ。こんな底辺校にいる時点でお察しだと思うんだけど、お前もその口だろ?」

「その口ですね。でもやっぱ大学くらいは行こうかなって」

「モラトリアムの延長、羨ましいゾ~コレ。とりあえず大学行くっていうのはまだ学生でいたい奴の常套手段だよな。俺も金さえあればね~」

「結局世の中、金だな」

「お、そうだな。正確には、金、暴力、○○○だな。その為の拳、あとその為の右手」と赤坂は右手を振り上げた。

「……そういや昨日、リマエルの配信観たか?」

「りま……? ああ、昨日は観れなかったなー。家帰ったの遅かったから」

「おそ……あ、ふーん(察し)」

「ま、いろいろあったから。お前も愛美ちゃんと今のうち仲良くしとけよしとけよ~」

 赤坂が俺の背中を叩く。

「どういう意味だよ」

「禍福はあざなえる縄のごとしってやつ? 彼女といちゃつけるのも学生のうちだと思うんだワ」

「そうかもな……」俺の背中に冷や汗が滲む。「そういやこの前体育の山田が言ってたな。社会人になるとヤって終わるだけの関係になる、みたいな恐ろしいことを」

「あいつそんな生々しいこと言ったっけ? やべ、聞いてなかったわ」


「おはよ」


 そこへ、愛美さん登校。

「ギリギリだな。今日休みかと思った」

「寝坊しちゃった」

 セットもままならなかったのか、髪がボサボサだった。いつもの綺麗な黒髪ロングが台無しだった。

「ピアノの練習頑張ってたのか」と俺は訊いた。

「ううん、なんかいろいろ考え込んじゃって、眠れなかったから」

「そういうときはタマくんに電話だルルォ? テレフォンで性行為してスッキリするんだよ」と赤坂が茶化す。

「死ね」と愛美は無表情で一蹴。「そんなつまらないことで電話したくない」

「ちょっと真面目すぎんよ~。あ、そうだ。くさくさした気持ちをスッキリさせたいなら、昨日教えた罵倒バッチコイ系VTuberの守護天使リマエルに暴言投げつけるんだよ、あくしろよ」

「そんな興味も恨みもない配信者にコメントなんか投げてもしょうがないんだけど」と愛美は呆れのため息。「ところで次の日曜日にみんなでタマくんの家に行こ」

「俺の? youは何して我が家へ」

「テスト勉強。そろそろした方がいいと思って」

「あーあ、もうそんな時期か。テストなんか就活目前の俺には、フヨウラ!」と赤坂。「もうこれ以上無駄な知識を頭に詰め込みたくないっすね」

「わかる」と俺は心底同意。

「お前は進学するんだろ? なら受験勉強して、どうぞ」

「え、結局進学することに決めたの? 勉強嫌いなのに」

「いや、俺は名前さえ書けば入れるような世紀末的大学を受験する予定だから、受験勉強なんか、フヨウラ!」

「バカくさ」と愛美がクソデカため息をつく。「だったらこいつみたいに働けばいいじゃない」

「俺みたいな社会不適合者を雇う企業なんかないんだよなぁ」

「じゃちゃんと勉強しなきゃね……あ、そうだ」と愛美が唐突に言った。


「中野さんも勉強会に誘おうよ」


「え」俺の心臓が跳ねた。「そ、そそそそうだな」

「どした? 体調悪いのか?」

 赤坂が俺の顔を覗き込む。

「いや、噛んだだけ」

「そうか。なんかの病気発症したかと思った」赤坂の顔は至って真剣だった。「でもあいつは多分来ねーな~。練習が佳境だから」

「テスト期間に練習なんかしないでしょ」

「あ、それもそっか。クソバスケ部の活動体系なんか忘れてたわ。なら誘ってみるかっ」

 意外にも赤坂はバスケ部だった。とっくに辞めてはいたが。

「そ、それより中野さんにダブルデートの件、言ったのか? 予定開いてるかどうかとか……」と俺は微かに震える声で尋ねた。

「あ? ……ああ、まだ言ってねーわ」

「言えよ。お前昨日デートしたんだろ? そんとき訊いとけよ」

「何怒ってんだよ。そんなのいつだっていいだろ、まだ先の話なんだし。そんなに気になるならお前があいつに訊いてこいよ」

「訊いて欲しけりゃ訊いてくるよ(震え声)」


「はーい、席に着いてー」


 その時、クソ女が教室に入ってきた。チビでぽっちゃりで中途半端にオシャレしてる髪型の、ギリ二十代のプライドの高い女。

「ほらー、赤坂君、田尾君、お喋りはもう終わりねー」

「はーい、大先生。永遠に口をつぐみまーす」と赤坂が言う。

「つぐんでてくださいねー。はい、今日は連絡事項はないので、早速授業に移りまーす」

 そうしてクッソくだらない国語の授業が始まった。俺は国語がこの世で一番嫌いな授業だった。ほんとは全居眠りしたいところだが、この女がいちいち注意してくるからうるせぇのよ。だから俺は一時間、拷問に耐えなくてはならない。

 まあいいやこんなくだらねぇ話は。嫌な奴のことなんか思考の埒外に投げてやる。


 昼休み、いつのも三人でご飯を食べた後、

「ちょっと一人で散歩行ってくるわ」と俺は席を立った。

「珍しいなぁ。いや、そうでもねーか」と赤坂が適当な感じで言う。

「私もちょっと図書館でも行ってくる」愛美も席を立つ。

「どうすっかな~俺もな~」

 二人がいなくなった後、俺は一人で呟いた。まるで緊張をほぐすかのように。

 心の中で自分を奮い立たせた後、席を立ち、二つ隣の教室に向かった。

 こっそり中を覗いた。何人かが席に座ってランチや談笑している。盗み見るようにして窓際の席で固まっている女子グループに目をやる。その中に彼女はいた。数人の女子と何やら楽しそうに喋っている。手には紙パックのジュース。

 入って話しかけるのはさすがに無理だと判断した俺は、自分の教室に戻るべく踵を返した。

 しかし数歩歩いた後、気が変わって踵を返して再び教室を覗き見た。端から見たら完全に危ない人。

(やっぱやめ)。

 これ以上チラ見していると誰かに絡まれそうだったので、また諦めて教室に戻る決意をした。

 そうして三度目の踵を返したとき、


「訊いてきたかぁ?」


「どわっ!?」

 俺は飛び上がって驚いた。振り返った先に赤坂がいたのだ。

「び、ビビらすなよ……っ!」

 全身から汗が噴き出る。

「そんな驚くようなことかぁ? で、あいつは……」赤坂が大胆にも教室の中に首を突っ込む。「おーい、美加子(みかこ)ーっ!」そして中に向かって大声を出す。

 教室奥の女子が一斉にこちらを向く。そのうちの一人が、困ったような表情をして立ち上がり、まっすぐ赤坂を見ながらこっちに向かってくる。

「でっかい声で呼びつけて、何」

 ショートカットのスポーティな視線の女子が、腰に手を当てて呆れたように言う。背が高く、俺と同じくらいだった。加えて少し筋肉質な体。しかし余分な贅肉はなし。

「こいつがな、話があるんだとよ」

「……!?」

 赤坂が少し離れた位置にいた俺を引っ張り、中野さんの前まで押し出す。

 俺はキョドった。

「あっ」と俺の存在にようやく気付いた中野さんが口に手を当てて大げさに驚く。「タマ? なんか久しぶりに見た」

「そうだっけ」

「最近、全然会ってなかったじゃん。どう、元気?」

「普通だな」

「じゃあ元気だね」と中野さんはニッコリ。「で、話って?」

「それは……えーと、だな」


 ――俺たちとダブルデートしないか?


 そんなこと訊けると思うか? スポーツに青春をかけるこの穢れなき女生徒に。

「ん? 何かな?」

 中野がわざとらしく言葉を聞き返すように耳を俺の顔に近づけてくる。いい匂いがした。香水かな。

「い、いやぁ、前みたいにまた一緒に遊びに行こうかなって」

「私も行きたいけど、あー、試合終わったらでいい?」

「もちろん」

 俺はその言葉を聞いて一旦満足したのだが、ふと愛美の提案を思い出し、

「あ、それと、次の日曜は空いてるか?」

「日曜? ……うーん、ちょっと練習に参加した後、テスト勉強しようかなって思ってたんだけど」

「じゃあそのちょい練が終わった後でよ、こいつの家、来いよ」と赤坂が俺の肩に手を回して言った。

 中野さんは一瞬、俺たちから顔を背けた後に、

「んー、いいよ。たまにはタマの家もいいよね」

 俺に体を寄せ、俺の腕を軽くタッチする。

「お、おう」と俺は震え声で言った。

「じゃ、今度の日曜日にね」

 中野さんは清々しい笑顔で俺たちに手を振り、教室に戻った。

「やっぱり……中野君の笑顔を……最高やな!」と赤坂が言った。

「お、そうだな」と俺は心底便乗した。

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