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正直デートはつまらなかった。会話が、ない。趣味が全然合わないからね、しょうがないね。デートが盛り上がらないのはもちろん愛美のせいではなく俺の責任。無気力、無趣味。こんな男の口から出るのはため息のみ。
適当なカフェで黙々とアイスコーヒーを飲んだ後の帰路、俺は思わず言ってしまった。
「もう無理して付き合わなくてもいいぞ。俺といてもつまんないだろ」
「えっ」
そうね、別れましょ。と言われる可能性も充分あったのに、彼女は意外にも目を見開いて驚いていた。
「別につまらなくはないけど」
「もしかして、『あなたと一緒にいるだけでいい』とか、そんな感じですかね」
「まさにそんな感じなんだけど、タマくんはそういうの、嫌?」
「んにゃぴ……一人より二人の方がいいですよね。今みたいに」と俺は歯の浮くようなセリフを言った。
「じゃあこのまま契約更新ってことで」
「じゃあ自動更新に設定しときますね」と俺は言った。
その後、俺は愛美を家まで送った。俺の家から彼女の家は学校を挟んで正反対にある。だからまた学校に戻ってから家に帰るような遠回りをしなければならず、家に着いた頃には辺りは真っ暗。
うちはほとんどの時間、親は不在だった。頭の悪い父親は、下の妹が産まれた後に消えた。地方新聞社勤務の母親は、平日は仕事に忙殺されているし、休日は自室に籠もっている。よってこの物語に親はほぼ登場しない。つまりエロゲーでよくある家庭事情である。
夕飯は子供達でなんとかしている。俺や三つ下の妹の夢花が料理を作る。それにしてもなぜ夢花は、『ゆめか』と読むのではなく、『むか』と読むのだろうか。うちの親は一体どういうネーミングセンスしてるんですかね……(呆れ)。役所にいるネミングウェイに申請すれば名前を変更できるのに、妹本人がそれを利用する気がないということは、自分の名前に特に不満を抱いていないのだろう。
何もすることがないから夜はかなり苦痛だった。
アホ共とアホなトークをすることもできない。
学校にいる時はもちろん、休日も頻繁に会う愛美をソロになってまで束縛したくないので、できるだけ電話やメールやラインはしたくない。あいつは俺と違って本気で好きなこと――音楽に取り組んでいるようだし、その邪魔をするのも憚られる。
だから夕飯を食べた後はすぐに入浴して部屋に戻って早々に電気を消して布団の中に入る。ろうそくの消費を抑えるために早寝する中世の庶民のように。
「兄ちゃん、起きてっかー?」
しかし暗闇の部屋のドアが突如開かれた。
「なんだよ」
俺は布団から顔を出した。
「暇だから、なんかやろっ」
「帰れ」
「いいじゃん」
夢花は部屋の電気をつけた。
「寝てばっかいるとそのまま永遠に目を覚まさなくなるよ」
「別にいいっす。もう人生でやることないんで」
「私はあるんだよなぁ。だから一緒にこれやろ」
妹が携帯型ゲーム機を懐から二台取り出す。
「ボルケーノクラフト、一緒にやろうよ」
「興味ないね」
俺は布団を被って不貞寝した。
「私のお兄ちゃんがソルジャーファーストに転生した件」
妹はそう言って部屋から出ていった。電気消して行けよ。
『うわー、テンプテーションの見切り覚えてないのにボス前でセーブしちゃったああぁぁぁ……どうしよ~もうおわりだーーーー……』
そのとき、どこかの部屋から叫び声が聞こえてきた。わざとらしい叫び声が。
俺は布団から出ると廊下に出て、廊下の壁に思いっきり跳び蹴りを食らわせた。




