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ところが物語も終盤だというのにいずみんが俺に猛アピールを仕掛けてきた。一つ屋根の下で暮らしているから、ラッキースケベやりたい放題で、風呂には乱入してくるし、俺が作った料理に何かの液体を混入させてくるし(とてもではないがそれが何かは言えない)、布団に潜り込んでくるし、私がおしっこするところを見てくださいとかしつこく言ってくるし(しょうがないから見てやった)、八月に入って本格的に熱くなると全裸で家の中をウロつくようになった。つまりコールド・ビズである。そんな下品な姿を見せられても嬉しくないし、そういう自分は他人とは違って特別なんだアピールがかなり痛々しく、寒々しかった。
それでもいずみんはちゃんと仕事をしているようで、俺への嫌がらせ行為は、一日分描くと決めている分のイラストを描き終え、莉茉のチャンネルで一緒に配信をし終えた後に行われた。律儀というかなんというか。
「なんでそんなに俺を攻略する必要なんかあるんですか」と俺は全裸で俺にしがみついてくるいずみんに尋ねた。
「全ては珠海さんのためです。もしあなたが中野さんとくっついてしまったら、あなたは地獄を生きることになるんですよ? 家族のために、毎日毎日やりたくもない仕事をする羽目にね。途中で嫌になっても降りることなんかできないんです。家族が路頭に迷いますからね。でも私と莉茉ちゃんについてくれば、楽園への扉が開かれるでしょう……ぐへへ」といずみんは俺の首筋をペロリ。
「要するに、危ないクスリをキメ続ける状態みたいになるんだな」
「なるわけないじゃないですか。そんなこと言ったらヒモに失礼ですよ」
「ヒモ以下の扱いだと思うんですけど」
「そうですね、正確に言うと私と莉茉ちゃんの三大欲求解消マシーンですね」
「俺らの性別が逆だったら大問題だと思うんですけど」
「お、待てい。今は男性も性的搾取されたって訴える時代だゾ」
「お前のそういう発言とかも、まさにそれだな。ていうか淫夢ネタいい加減やめたら?」
「お、そうだな」といずみんは言った。
俺はいずみんの背中に大きな紅葉を作ってやった。
結果的にこのバカが俺を散々おちょくってきたせいで、俺は、『真人間として生きよう』と決意したのだった。あんなクレイジーな人間になって一般人から白い目で見られるくらいなら、好きな人と結婚して堅実に生きた方が絶対にいいと確信した。庶民という虫を食らって生きる不気味で強欲な食虫植物よりも、アスファルトにひっそりと咲く草花の方が美しい。多分。
海へは8月下旬に行くことになった。昔ならそんな時期に海に行くなんてありえないことだが、9月まで猛暑日が続く現代なら、盆を過ぎても海水温はお湯のような温度のままだ(大袈裟)。それにその時期なら海水浴客も少ない。
そして俺たちは当時を迎えた。




