26
うちには入れ替わり立ち替わり友人達がやってくる。今日は元彼女となってしまった愛美だ。
「元気だった? タマくん」と彼女は俺が玄関の扉を開けるなり言った。
「そこそこですね。昨日の夕方からなんか記憶が曖昧だけど」
「そ、そう」と愛美が俺から目をそらす。「体調は、どう? 気分悪くなったりしてない?」
「バッチェいいですよ~。つーかさ、俺に幻滅したはずなのになんで会いに来たの?」
「それは……タマくんが心配だったから」
「なんの心配が?」
「なんか、一人にしておけないのよね」と愛美は歯切れ悪く言う。
「まあとにかく、上がれよ」と俺は元彼女を招じ入れた。
「あ~、今日も赤坂君、来てるのね」
リビングのソファでゲームをしている赤坂と夢花を、呆れたように見る愛美。
「こいつら隙あらば一緒にいるからな。実はもう結婚してるんじゃないかな。子供もいたりして」
俺がそう言うと、二人は電気ショックを受けたかのようにビクッと一瞬尻を浮かせた。
「な、へ、変なこと言うなよ~。こ、こここ子供なんかいるわけねーだろ~?」と赤坂は震度8の震え声で言った。
「そそそそうだよクソバカ兄ちゃん! なんで高一の私が子供産まないとダメなの?」
「何慌ててんだか」
それから俺と愛美は部屋でペチャクチャ喋った。とりとめのない話を。
そのときふと思った。
「そういやダブルデートの件はどうなりますかね……」
「あ」と愛美は一瞬硬直した後、「もちろん、予定どおりやるわよ。もう宿も予約してあるし」
「カップルが一つ消滅したのに決行するってマ? それだとあいつらが気まずくならない?」
「大丈夫、向こうもカップル解消したみたいだから」
「マ!?」と俺は飛び上がる勢いで歓喜した。「じゃあ二つのカップルが消滅したから0×0は0になって、つまり問題も0になったってことだから予定どおりダブルデートができるな(謎理論)」
「そうね。でもさすがにそれはデートとは言えないから、夢花ちゃんたちも呼んで普通に泊まりで海に遊びに行くってことになったんだけど」
「マ……」と俺はがっかり。「さすがにうるさい妹連中はここに置き去りにしておきたい所存なんだけどなぁ」
「うーん、たしかに、そのときだけは高校生の仲間だけで遊ぶ方がいいかもしれないわね。前からずっと計画してたことだし」
「だろ? だったら今すぐ夢花様に直訴しに行こうぜ」
俺はやる気満々、立ち上がった。
「あっ、ちょっと」
「おーい! 夢花様ぁっ! お前は海に来ないんだよなぁー?」
相変わらずリビングでゲームやりまくってる妹に向かってがなり立てた。
「はえ? なんか言った?」
「とりあえずゲームやめろ」
「あ、はい」
俺の迫力に押されたのか、コントローラーを一旦置く。
「どうしたんだよ、いきなり怒鳴ったりして」と赤坂。
「例のダブルデートは俺らだけで行くことになってるから、お邪魔虫は寄ってこないで、どうぞ」
「えーっ? 私も海に行きたいんだけどー! なんでダメなの?」
「なんでって俺がそこで初体験をする予定だからな」
「うわっ」と夢花様はドン引き。「マジで言ってるそれ? ちょっとキモすぎんよ~」
「そ、そうだぞ」と赤坂が震え便乗。「いくら高校生活最後の夏だからって羽目外しすぎだろ」
「中野さんと別れたお前にどうこう言う資格なし。よって俺は中野さんを簒奪する資格を得たのだった」
「あ?」と赤坂はキョトン。「え、ちょっ、じゃあ何、お前美加子狙いだったわけ?」
「リアクションちょっとわざとらしすぎんよ~。みんな勘づいてたのに、お前だけ勘づいてないわけがな~い」
「いや~知らなかったぁ~。それならお前のためにさっさと別れたのにな~」と赤坂はどこか白々しく言う。「つーことはあれかな。お前は何が何でも美加子をものにしたいから、俺ら高校生組だけで海に行きたい、と。それには妹ちゃんたちがいると邪魔だ、と」
「説明セリフやめちくり~。物語が稚拙になるから。超有名マンガ編集者も言ってただろ。説明セリフを書く奴は、才能がないからじゃなくて怠慢だって。生まれつきの文才なんかじゃないんだよ。最近のゴミみたいなJRPGのセリフ回しに説明ゼリフが多いのは、だから甘えなんだよ。わかる? あんな低レベルな会話劇作ってるのはアジアだけだからな。おっぱいが大きいアニメ調3Dキャラ出せば客がなんでも全肯定すると思ってんだろうな。実際そうだし」
「なんの話だよ」と赤坂君、唐突な俺の語りに大苦笑。「そんなことより、さっきのお前の話には賛成できないからな? 下心丸出しにしたせいで自分勝手な行動に出て、せっかくのお泊まりイベントを台無しにするようなことはよせよ。みんなで純粋に楽しもう」
「それにはどうしても美加子が必要なんだよなぁ。なぜなら俺は中野さんガチ恋勢だから」
「あのなぁ……」
「別にいいんじゃない? 中野さんもタマくんが好きみたいだし、そのお泊まりイベントで晴れて筆下ろしさせてもらえばいいと思うわ。部屋も一緒にさせてあげましょう」と愛美が俺の背後で突っ立って腕を組んで言った。
「それだと攻略しがいがなくなるから、元のカップル同士を同じ部屋にしよう。だから俺と愛美を同室にしておいて、夜、SO2の最終決戦前夜のラクアの浜辺イベントの如く美加子を浜辺に呼び出して、そしてエンディングは俺と美加子のカップルエンドを迎えるという段取りでオナシャス」
「あなたと中野さんの親密度が高ければそうなるでしょうね。だから今のうちに数値を調節することをおすすめするわ。例えば本を書いて相手に読ませるかしてね。そうしないと間違って妹エンドに突入しちゃったりするから」
「お、そうだな。でも申し訳ないけど俺は原作原理主義者なんで親密度じゃなくて愛情値って表現したいですね。でも俺と中野さんの愛情値と友情値は多分カンストしてるだろうから、今更対策する必要はなし」
俺は余裕の構えを見せた。
「わかったわかった。じゃあ海には俺たち四人だけで行こうぜ。悪いけど妹ちゃんたちはお留守番ってことで」
「ふぁっきゅー! ふぁっきゅふぁっきゅーっ! ふぁっっっきゅーーーっ!」と夢花が元祖VTuberのものまねをして言った。。KZNネキ生き返れ生き返れ……。




