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翌日、約束どおりいずみんとデートに行った(は?)。もうここまできたらこいつと初体験を済ませようと思ったのだ(は?)。だから俺たちは中野さんと街で遊びに行った時にさんざんチラチラと気にしていたしかるべき休憩施設へと赴いた(は?)、というのはもちろん嘘だが、休憩施設がずらりと並ぶ、いわゆるラブホ街と呼ばれる街区に来ていたのは間違いない。いずみんが取材のために来たいと言ったのだ。もちろん建物の中に入ったりしない。いずみんは特徴的なデザインの建物を熱心にデジカメに収めていた。一体なんの参考資料にするのやら。また18禁マンガでも描くのだろうか。
「おーい、通報される前に早く切り上げるぞ。通行人がチラチラ見てるから」
「はいはーい。だいたい揃いましたんで、次、行きましょうかね♪」
「次はどちらですかねぇ」
「おいしいもの奢りますよ。私のわがままを聞いてくれたお礼にね」
「じゃあ遠慮なく奢られるわ。お前の方がお金持ってるからな」
「はい。お金なら腐るほどあるんで、遠慮なく♪」
殴りて~。あえて結婚して完全犯罪して遺産ふんだくってやろうかな。
というわけで我々はその辺のファーストフードに入店。ウィーン。俺は無難にハンバーガーセット。いずみん先生はさすが性欲過多なだけあって食欲も旺盛で、三人前くらい頼んでいた。そしてそれを一瞬で平らげた。
混んでいたが、二階席の上座といういい席にたまたま座れた。
「早いっすね」
「仕事に集中すると食事もおろそかになるんですよ~。だから珠海さん、結婚してください! 私、そのうち莉茉ちゃんと同居すると思うんで、お兄さんは私達のために家事育児をしてください! オナシャス!」
「お前のせいで愛美と別れることになったから訴訟します。示談金十万くらいで手打ちにするよ」
「え、たったそれだけでいいんですか? なら今すぐ銀行に行きましょう! 十万円ポンとくれてやるぜ! その後はホテルで処女膜もくれてやりますよ!」
「もういいよそういう後輩ビッチキャラ。古くさくて死にそうになる」
「失礼な。これが私の素ですよっ!」といずみんはプンプン。「まあいいでしょう。んで、珠海さんって働くのも嫌で、人と関わるのも嫌な人間嫌いで、その上なんの特技もない超絶無能人間なんですよね? だったら私と莉茉ちゃんが生涯介護して差し上げますよ♪ 昨日の私とのお風呂配信で珠海さんはみんなにダメなお兄さんキャラとして認識されたので、たとえ私達に養われることになっても誰も妬んだりしませんよ♪ だから私と結婚しましょ♪ そして私の食欲と性欲を常に満たしてください♡ あ、子供はウザいんでいらないです♪」
「楽な人生は楽でいいけど、楽しくはない、っていうどこかの一発屋芸人の至言を今、急に思い出したから、その魅力的な提案は断る」
「え? でも珠海さんってその一発屋芸人よりも芸がない人間ですよね? それなのにどうやって一人で生きていくんですかね。南さんにはもうフラれたことですし、早く次の寄生先を見つけないとあなたはこの先生きのこれないと思うんですけど。どうなんですかきのこる先生!」といずみんが俺にマイクを向けるようにして拳を口元に寄せる。
「お前が思ってるほど俺はダメ人間じゃないから安心しろ。普通に働いて普通に生きていくよ。そしてクレイジーサイコ女のお前とは全然違う、常識的で魅力的な人と結婚するからな」と俺は本心から決意した。
この無礼千万なサイコ野郎と喋るに従い、ついこの間の「あ~、無能な俺は果たして社会人として生きていけるのだろうか」という情けない悩みが完全に払拭され、こんな社会不適合なアーティスト様(笑)にはならないよう俺は社会のために一生懸命働こう、という情熱が湧いてきた。ありがとう、いずみん。
「おお~、言いますねぇ。せいぜい苦労してください! 愛する奥様と協力し合ってものすごいギリギリの生活をして子供をなんとか育て上げれば、可愛がって育てた親想いのお子様達から看取られて最後は安らかな死が訪れますよ! きっと!」
「そして今調子こきまくってるお前はその天罰として予想より早くオワコン化して仕事が激減して最終的にAIに仕事を全部取られて貯金を切り崩して生活する羽目になってその不安から逃れるためにホストにハマるんだけど見事なまでに悪いホストに引っかかって面白いように鴨にされて最後は身ぐるみ剥がされて全てを失って絶望して一人寂しく死んでいくんですねわかります」
「おもしろそ~! それこそ楽な人生とは対極な、リアリズム文学の主人公みたいな生涯じゃないですか! ぜひそういった刹那的な快楽に溺れて自滅するような人生を歩んでみたいです! つまり『刹那五月雨撃ち』です!」
「それじゃあ『切なさ乱れ打ち』の人生なんだよなぁ。ところで異聞録と罪・罰のリマスター、まだ時間かかりそうですか? あ、リメイクは結構です。あの無機質なローポリとシンプルな造りの2DMAPが神秘的なシナリオと見事に合致してて独特の雰囲気を醸し出しているし、それにオリジナルのあのすばらしいB・G・M(クソデカ主張)はあの名作を語る上で欠かせないので、アレンジBGMを収録するにしてもオリジナルを選べるようにしてください。オナシャス」
「何いきなり一人で喚きだしてんですかねこの人、ひくわー」といずみんはジト目。「ていうかあなたが生まれる前のゲームじゃないですかそれ。あっ、ふーん(察し)。前から思ってたんですけどあなたってやっぱり高校生じゃなくて四十代の中年だったんですね。メイクで若作りしてるだけで」
「は?」
「だと思ったんですよ。よく見ると肌がくすんでいますし、白髪もちらほら。要するに高校時代に未練があったあなたは、私達を役者として利用して昔を再現しようと試みたんですね。違いますかね?」
「相変わらずの妄想力。尊敬します。ホラー小説でも書いたら? いい叙述トリック作品ができると思うぞ」
「小説興味ないんで結構です。あ、ほら、お迎えが来ましたよ」
「は?」
「お兄ちゃん……ここにいたんだね」
すると店になんか大人びた感じの夢花が現れた。また未来の話かストーリー構成壊れるなぁ。パッといずみんの方を見てみると、こっちも多少年を取っているように見えた。でも身長と胸の大きさはそのまんま。
大人夢花が俺の隣に座って、
「夢衣ちゃん、お兄ちゃんと何話してたの?」
「何も話してませんよ。もうそろそろあなたの大切なお兄様を夢から覚ましてあげようかなって思っただけです」
「勝手なことしないでくれますか」
「でもみんなで口裏合わせて高校生ごっこするのもここらが限界なんじゃないんですかね。これ以上こんなことを続けたら、あなた方の大切なお兄様がいよいよ現実に戻って来られなくなりますよ」
「いいの! お兄ちゃんにはこれが必要なの! 邪魔するならあなたは抜けて!」
「わかりましたわかりました。じゃあ最後まで付き合いますよ。夏休み最終日だから……8月31日でしたっけ? その日までこの茶番を演じ続けますとも」
「そうしてね。忙しいのにごめんなさい」
「でもこうやって本人を目の前にしてペラペラネタばらししても大丈夫なんですかね」
「大丈夫、後で処理しておくから。さ、うちに帰ろ、お兄ちゃん……」
夢花が俺の手を握る。
「うん、ぼく、おうちかえりゅ~」と俺はおどけて見せた。




