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赤坂も中野さんも細かいことをくよくよ考える性格じゃなかったので、翌日からあっさりと元の仲に戻った。つまり元の仲に戻った=彼氏彼女の関係が続いている、ということだ。ふざけんな!(悔し涙)
一学期の期末テストは問題なく終わった。まあみんな頑張って平均点は取れたんじゃないですかね。俺は取れた。
そして夏休みに突入。まったりな日々が始まる。その貴重な最後の夏休みの一日一日を大切に過ごすために、俺たち四人は毎日会った。絶対に一日も無駄にしない、と決意するかのように。
初日は俺たちの家に集合した。赤坂は毎日俺の家に来る宣言をした。その理由がこれ。
「俺が働いてPS5買えるようになるまで、ここでやらせてくれ~」
「いいよ」と俺は了承。「その代わりプレイした分の電気代を後で請求するからな」
もう10Wでゲーム機を動かせる時代じゃないんですよね。しかし我が母は、電気代なんか気にせず遠慮なくゲームやっていいから(良心)と赤坂に言った。というのも、うちのPS5は元々母親のもので、増設SSDには母がセール時に買いだめした積みゲーがぎっしり詰まっている。仕事が落ち着いたらまとめてプレイするつもりらしい。その日は定年まで来なそうなので、それまでの間お前ら自由にいじり倒せ、ということらしい。故に逼迫している赤坂家の住人はそのおこぼれにあずかるつもり満々なのだ。
「私も赤坂お兄ちゃんとゲームやりたぁぁい」と夢花様もなぜか歓迎していた。
ゲームを通して二人はいつの間にか急接近していた。夢花はかつてあれほど赤坂を毛嫌いしていたというのに。やっぱりゲームって最高のコミュニケーションツールなんやなって。
夏休み初日の午前中は、そうしてまったり俺の家でみんなでゲームをやった。昼は俺がみんなに冷やし中華を作ってやった。ここで例の歌を歌うべきなのだろうが、申し訳ないがテレビ番組はあまり好きじゃないのでパス。リスペクトなきパロネタはただのおちょくりってそれ一番言われてるから。
「これからみんなで水着買いに行こうよ」
昼食後、中野さんがいきなり提案した。
「ああ~いいっすね~」と赤坂。「でも俺はもう持ってるからパスで。君たちだけで行っておいで~」
「俺はスク水でいいっすね」
「え」と愛美が硬直。「なんでスク水なんか持ってるの? もしかして……私に着せるつもりでネットで買った、とか?」
「男子用のスク水って意味で言ったんですがね」
「でもこの変態クソ兄ちゃんならネットで旧スク買ってそうだよね~、ぐひひ」と夢花様がゲームをやりながら言う。
俺は夢花からコントローラーを奪って設定画面を開いて、あらかじめセットされている○と×の入れ替え設定を選んでから、夢花に返した。
「あああっ、なんか決定ボタンがどっか行っちゃったよ~???」
母親はPS5をプレイする時、いつも○を決定にしていた。長年の癖が染みついているから、今更×決定にできないんだそうだ。
「学校の水着ってあの紺のハーフパンツみたいなクソダサ水着だよね? あんなんじゃ海水も冷えちゃうからさ、新しいの買いに行こうよ、ね? ほら、行こ」
中野さんが俺の腕を取る。
「あのー、タマくんの生殺与奪を握ってるの、私なんだけど」と愛美はなぜか急に独占欲を発揮した。
「あ、ごめーん。つい」と手を離す中野さん。
「んじゃ、善は急げだから、駅前まで行くか」
俺が立ち上がったそのとき、インターフォンが鳴った。
「おっ、注文してたスク水が届いたみたいだな」とバカ坂が言った。
「いや、お前の誕生日プレゼントのために買っておいたプリ○ュアのパンツが届いたんだよ」
「ええっ!? まじぃ!? そんないいものくれるのっ!? ひゃっほーっ! ぷいきゅあのおパンツくんかくんかするぞーっ! うぇーいっ!」
「……」
「……」
愛美と中野さんは無表情になることで、つまり感情をカットすることで赤坂に対する嫌悪感をシャットアウトしようと思ったらしいのだが、
「プリ○ュアのおぱんつなら昔私が穿いていたのがいっぱいありますよ? 欲しいんだったら全部あげますけど」
なんと夢花様が秘宝進呈の意を表明してくださった。
「え、いや、冗談なんですけどネ、ははは」と赤坂は普通にドン引き。
「なんだお前、もしかしてファッションロリだったのか?」
「そうだよ(ここぞとばかりに便乗)。もしロリだったとしてもこんな女性陣が揃ってる中で性癖むき出しにするわけないだろ? ガチだったら陰でこっそりおパンツコレクション眺めてニヤニヤしてるから」
「とりあえず貴様はここでお留守番しててくれない?」と愛美は赤坂に厳命した。「一緒に街を歩きたくないから」
「おかのした」
「すいませーん、和泉ですけど。クッソセンスのないこの会話劇が終わるの、まだ時間かかりそうですか?」
玄関からいずみんの声が。
「なんだ、あいつだったのか……」
俺は来客者を出迎え、リビングまで案内した。なんか手に荷物いっぱい持ってるぞ。
「なんのようだ(古のRPG店員並感)」と俺は言った。
「実は今日から夏休み終了まで、こちらに泊めていただくことになりましてね。まあ、仕事の関係です。莉茉ちゃんの部屋に寝泊まりしていろいろすることになったので……」
「あ、そうですか……」
そんな話、全然聞いてなかったんだけど。夏休み中、毎日配信する予定の莉茉のアシスタントでもするのかもしれない。
「がんばるんだぜ~。俺らはいずみん大先生達が社会貢献している間、我らが青春を謳歌してるからな!」と赤坂が敬礼する。
「がんばるんだぜ~、じゃなくて、あんたらも手伝ってくださいよ」
「いや、私ら凡人だし。邪魔になるだけっしょ」と中野さん。
「配信に出ろとかじゃなくて、莉茉ちゃんが快適な引きこもり生活を楽しめるようサポートしてください」
「すまん、無理」と俺は言った。「もうページ数も迫ってるしさ、それにこの物語に、『VTuberの妹が無事に夏休み耐久配信を終えられるよう兄の俺がサポートすることになったんだが』っていうテーマは含まれていないので。主役は俺で、テーマは俺の成長。んで、俺の成長に君らのVTuber活動はまったく含まれてないんだよなぁ。残念」
「たしかに、それもそうですね」いずみんが腕を組んで頷く。「でもそういったメタ発言の連発は寒すぎるんで、もうやめた方がよろしいかと」
「別にメタ発言じゃないんですがね。誰だって生きる上でテーマを、つまり目的を持ってるんだから、俺はそれを比喩的に表現したまでだ」
「テーマを設定して物語を創ることは駄作のレシピに従うようなものだってそれスティーブン・キングが一番言ってましたけどね」といずみんは反論。「人生の目的なんかチラホラ変わるんですから、テーマを決めつけると視野狭窄になるんじゃないですか」
「凡人は常に視野が狭いから心配するなって。というわけでお前はお前で勝手に頑張れ」と俺は愛美と中野さんの腕をそれぞれ取って、「行こうぜ」
「うわっ、なんか積極的」と中野さん。
まさに両手に花の状態で俺たちは駅前まで行った。
そしてみんなで水着を選んで買った。その際、試着中の愛美と中野さんを俺が見てしまうとかいうテンプレハプニングなど一切発生しなかった。なぜならこの物語のテーマと外れるからだ。今まで散々マンガアニメラノベなんかもう興味ないと言っていたのに、それらを雑にオマージュなんかできないからね、しょうがないね。なお、俺らがどんな水着を買ったかもカットで。そしてそれらが作中で描写されることもない。どうでもいいからだ。たとえば水着姿の中野さんを見て胸の大きさに改めて驚いたり、愛美の白い肌にドキドキして中野さんに傾いているこの気持ちが揺らぐとか、そういうくだらない展開もない。
俺が求めているのは、愛美と綺麗に別れた後、中野さんと付き合うことが決まり、且つ俺たち四人の交流に亀裂が生じないという都合のいいエンドだった。変な修羅場は勘弁。起承転結もどうでもいいっすね。文句あっか。
そのようにして夏休みの日々は過ぎていった。
いずみんは本当に夏休み期間中ずっとうちに泊まるつもりのようだ。ついに自分もVTuberデビューしたようで、連日のように莉茉とコラボ配信していた。要するに自宅に配信機材がないからここにいるんだな、と思ってそう尋ねると、
「違います。機材を買うお金なら余裕でありますあります。ないのは配信環境です。うちは珠海さんのこの家と違って極小ですからね、聞かれたくない人に配信内容が筒抜けになっちゃうんですよ」といずみんは不機嫌そうにして答えた。
家族と仲悪いって聞いてたけど、思ったより根が深そうだな。




