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我が愛しの守護天使様  作者: ハタケ


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 夕飯食べて風呂入ってさっぱりして、ベッドでゴロゴロしながら瞑想していると、電話が鳴った。なるべくスマホをカスタマイズしたくないので、着信音はデフォルトにしている。

「Hello(ネイティブ発音)」

『あっ、タマくん、だよね?』

 愛美からだった。心なしか声が震えて聞こえる。

「どうした?」

『あのね、今日中野さんの家に行ったんだけど、赤坂君と中野さん、すごいケンカしちゃって……』

「えっ、ケンカ?」

 俺はベッドから起き上がった。

『そうそう、原因はよくわからないんだけど、いきなり二人が言い争い始めたと思ったら、もう取っ組み合い始めそうな勢いで罵り合って、びっくりしちゃった。あの二人すごい仲いいと思ってたのに……タマくん、中野さんと最近二人っきりで会ってたりしたんでしょ? 何か相談とかされなかった?』

「い、いや、相談はされなかったな」

 つーか俺が中野さんと二人きりで遊んだのが原因なのか……? いやでも別に疚しいことなにもないし……。

「どういう内容の口ゲンカだったの?」と俺は尋ねた。

『中野さんが、都合よく私を利用しないで、みたいなこと言ってたわ。タマくん、あなた一回二人のどちらかに電話してみて。このままだとなんか、嫌なまま卒業を迎えそうだし……』

「……そ、そうだな。わかった、知らせてくれてありがと」

 通話を終えた。

「……」

 俺はスマホを持ったまま黙考。どっちに電話するべきか? どっちも電話すべきか? 考えた末に出した結論は、どっちにも電話しない、だった。


 赤坂は学校で普段どおりに振る舞ったから安心した。リマエルが完全復活したことへの歓喜も手伝っているのだろう。

「夏に向けて勉強しまくろうぜ、友よ! そして青春について熱く語り合おうぜ!」

 昼休み、奴は俺と愛美を図書館に誘った。

「いや、図書館は私語禁止だし、部室に行こうぜ。あっちの方が落ち着くし」と俺は提案した。

「ああ~、いいっすね~。いずみん先生の強烈なモチベのおこぼれにも預かれるしな」

 学校の図書館は苦手だった。なんか陰の者が多くて、雰囲気が暗いので……(自分のことを棚に上げまくり)。


 昼休み、三人で我がオタ部の部室へ。

「いずみ~ん、仕事の邪魔しに来たぞ~」と俺は部室の扉をガラッと開けた。

「三人はどういう集まりなんですか?」

 メガネをかけた本気モードのいずみんが、モニターから顔を上げる。片手にはサンドイッチ。食べながら作業してたらしい。

「おういずみん。俺らの雑談を作業用BGMにして仕事しないか~?」と赤坂。

「申し訳ありませんが私は雑談配信をラジオみたいにして流しながらイラストを描くような二流絵師とは違うのでNG。私はVTuberの配信にコメントしまくりながら仕事をする○○や○○○○○○みたいなのには絶対なりたくないです」

「こえぇ……。それ配信で言ったりするなよ? 訴えられるぞ」と赤坂は震え声で言った。

「何を訴えるっていうんですか? 個人的にああはなりたくないって言ってるだけなのに訴えられたら、それもう世紀末でしょ」

「お、おう」

「お邪魔だったら私達、遠慮するけど」と愛美が言った。

「いいですよ全然~。でもモニターはなるべく見ないようにしてください」

 俺たちは部室中央に机を設置しているいずみんのモニターの裏側にイスを並べ、そこで各々ランチを食べ、大声を出さないようにしてとりとめのない会話をした。そのとき中野さんの名前が出ることはなかった。

(それにしてもいずみん、ものすごい真剣な表情で作業してるな)

「いずみんっていつから絵を書き始めたんだ?」と俺は尋ねた。

「物心ついたときに既にですよ~。幼稚園のときから絵が上手いって褒められてましたね」

「プロ目指そうと思ったのはいつ?」

「小四くらいですかね。ちょっと練習すればそれっぽいイラストが描けるようになって、しかもそれをネットに上げたらやたら評判もよかったんで、じゃあ人一倍努力すれば食えるようになるんでは? と思い立ったその日から目標に向かって邁進し始めましたよ~」

「おお、やっぱりすべからく努力おじの言ってることは本当だったのかぁ」と赤坂は感心。「元々才能ある奴がそんな早くから努力してりゃ、そりゃ結果出るわな」

「じゃあ逆に、まったく絵心がない人がプロになるっていうケースはないの?」と愛美。

「(そういうケースはほとんど)ないです。最初の数年間、どんなに描いてもラクガキ程度にしかならなかったっていう人は、その後どんなに練習してもなかなかものになりませんし、仮にプロになっても二流止まりです。私は子供の頃、何も練習しなくても直感でこう描けばいいんだと頭でわかってましたんで、間違いなく才能があったんです。こういう、誰から教えられてないのになんとなくできちゃうっていうのがまさに天からのギフトだと思いますね。音楽のプロもみんな子供の頃、こんな感じみたいですよ。楽器を一度も練習してないのに、なんとなく弾けちゃって、しかもちゃんと音楽になるっていうね」

「なるほどね」と愛美はため息交じりに言った。「私はピアノの練習日の初日は何もできなくて泣いちゃったな」

「それは愛美ちゃん、怖い先生に怒られたとかだろ?」と赤坂がフォローする。

「先生は街一番優しくて優秀な人だったよ」

「そ、そうか」

「愛美」と俺は言った。「放課後、一緒にCDショップ寄ってかないか?」

「この辺にぃ、商売が上手くてなかなか潰れないCDショップがあるらしいっすよ。じゃけん放課後行きましょうね」といずみんがニヤニヤしながら言う。

「黙ってろチビ」

「お~こわっ。私も一緒に連れてって、って言おうとしただけなのに~」

「それでなんでそのミームなんだよ。冷やかしならお前は来るな」

「冷やかしじゃないですよ~。私も買いたいものがあるんで~」と言っていずみんは席を立ち、俺の傍に寄って、俺の腕を取って立ち上がらせ、「怒らせたらごめんなさい。代わりにかわいい後輩がハグしてあげますね」と俺を軽く抱擁した。

「はいはい、かわいいかわいい」

 なんだこいつ人の愛情に飢えてんのか? と一瞬気持ち悪くなったが、突き飛ばすほどでもなかったので抱きしめて頭撫で撫でしてやった。そこで思ったんだけど……。

「お前、痩せすぎじゃね? 腰も腕も手首も細すぎ」

 俺はいずみんの手を取って検分した。そういや胸も夢花に比べるとだいぶ小さくて、完全に貧乳の領域。栄養足りてないんじゃないか。

「あっ、珠海先輩っ、そ、そんな優しくされると、いずみん潤っちゃいますっ!」

 はははははっ、とバカ笑いする赤坂の傍で俺をジト目で見つめる愛美が怖かったので、俺はいずみんから離れた。

 いずみん、ちゃんと食って寝てるのか? 無理しすぎない程度に頑張れよ。


 結局、放課後は赤坂も含めた四人でCDショップに赴いた。ゾロゾロゾロゾロ。ウィーン。

「いらっしゃいませ……おぉ?」

 高校生が四人も来店したことに歓喜したのか、レジにいた店長の顔が緩んだ。

「さぁて、VTuberコーナーに行きますかっ」

 わざとらしく声を上げてスキップしてアニメコーナーの方に向かったいずみんを見た店長の眉間に幾分皺が刻まれた。ちっ、結局アニソン目当てか……みたいな感じで。

 ぼくもしゅるー、と赤坂がいずみんについていく。

 俺は迷わずジャズ・クラシックコーナーへ。

「で、タマくんは何を買いたいの? 私の影響で何か聞きたくなった?」

 ジャズのCDが並ぶ棚を指で差した愛美に、俺は買いたい物を伝えた。

「えっ、交響曲全集? いきなりそんな高価なの買うの?」

「買います買います。僕は決断しました。というわけでカラヤン指揮ベルリンフィルって、どれ?」

「これだと思う」

「よし、んじゃ買いますか」

 俺はレジにおもーいボックスセットを持っていった。

 するとレジの中年店長の眉間の皺がいよいよ渓谷レベルに。

 それになんかイラッときた俺は、

「なんか文句ありますかね」とストレートに不快感を表した。

「輸入盤とかの方がいいのでは? そっちの方が安いから」

「いや、輸入盤だと解説が英語だけだったりするんでは。よく知りませんがね」

「そ、そうですね……」

 素人がいきなりこんなん買って大丈夫かね、みたいな余計な杞憂所作で以てバーコードを読み取る。

 お金を払った俺は、袋いりませんと言ってボックスセットを鞄にしまって鞄がパンパンに膨らんだところで、いずみんたちの所へ行った。ふたりはやはり最近流行りのVTuberが出したCDを物色していた。

「先に帰ってるぞ」と俺が言うと、

「なんですかなんですか~。彼女を放って自分だけ帰るんですかぁ?」といずみんが言う。

「だって家の方向違うし」と俺は愛美に視線を向けて言った。

「違いますよ~、私が買い物終わるのも待てないんですか、って意味で言ったんですよ」

「お前は彼女でも二号でもないんで」

「じゃあ三号でいいです」

「じゃあ俺の二号は誰なんだよ」

「そりゃ中野さんでしょう」

「は?」と俺はドキン。「な、中野さんはこいつのだろ」

「いや、別に『俺の』ではねーし」と赤坂は苦笑。

「え、別れたんですか?」

「誰の『もの』っていう、そういう言い方あんま好きじゃねーんだわ。ま、そんなことより、これからタマの家に、イクゾー!」

「イク前になんか買ったらどうですか」

「いや、俺お金ないんで」

「お金なくても好きなら借金してでも買うんだよ。あくしろよ」いずみんが、さっき赤坂が手に取って棚に戻したCDを押し付け、さらに何枚かのお札を手の中に押し込む。「はい、お金。出世払いでいいですよ」

「お、おう」

 いずみんが自分が買う分をさっさとレジに持っていったので、赤坂は突っ返すタイミングを失ったようだ。


 そして三人が俺の家に来た。ゾロゾロゾロゾロ。ただいまー。

「おかえりー、オラッ!」

 帰るなり夢花様のキックが飛んできた。

「オォン!」

 しかし夢花様の尻キックを食らったのは俺ではなく赤坂。一番に人の家の玄関を開けて、ただいまー、とか言うから悪いんだゾ。

「うわっ、オタ坂さんを間違って蹴っちゃった、ふひひサーセンwww」

「大丈夫だって安心しろよ。夢花ちゃんのキックなら全身に浴びてもいいぜ」

「じゃあここにも一発。えいっ」

「んぎゃああっ!?」

 哀れ股間を蹴り上げられたオタ坂くん。ご愁傷様です。

「あっ……やべ、やりすぎた。ごめんなさい」

「赤坂が不妊になっちゃったら、お前責任取ってこいつを養えよ?」

「えっ、う、うん」

 でもって赤坂は睾丸への痛みが和らいだところで夢花様とリビングでいつものように二人でゲームしていた。

 俺は愛美と俺の部屋へ。母親のお下がりのCDコンポ(1999年製)の電源を久しぶりに入れて買ってきたCDをセットしたのだが液晶画面になぜかemptyの文字が出て愛美に、レーベル面を上にしてセットするのよ、と言われて恥ずかしさを堪えながらCDをひっくり返してセットし直して再生ボタンを押した。

 演奏中。

 そして演奏が終わった。

「ブラァボーーーッ!」

 終わった後、俺は立ち上がって一人拍手をした。

「すごい真剣に聴いてたね」

 愛美は俺の斜め後ろで大人しくじっと座っていた。伴侶を黙って静かに見守る日本の古き良き良妻賢母具合、いいぞ~コレ。

「俺はまさに宇宙と一体化してましたね……」と俺は意味不明なことを口にすることで感動を冷まそうと試みた。

「本当にそんな感じだったよ、無我の境地っていうかね。でもそんなに音楽に夢中になるなんて、意外」

「俺も意外。てっきりなんの感受性もないかと思った。というわけで俺の目的が決まりました。音楽を徹底的に研究する(評論家を目指すとは言ってない)」

「よかったね、好きなことができて。で、ジャズは?」

「んにゃぴちょっと俺には難しいですね……。俺が第九や運命に感動したのは、『旋律』が感動的だったからなんで」

「あ~、わかってないなぁ。ジャズのアドリブはその旋律を連続させることなんだけど」

「そんなふうにはまったく聞こえなかったんですがそれは。ま、とにかく、いろんなジャンルを聴いてみようっていう気にはなりましたね。あ、流行りの曲は結構です」

 そうして新しい興奮に夢中になっていたから、中野さんのこともすっかり忘れてしまった。


 夕飯の後、部屋でまったりしている時、俺はふと不安になった。中野さんと赤坂との仲がこじれてるんなら、ダブルデートがおじゃんになるのでは……?

 それはものすごく困る。俺が今、一番成し遂げたい目的が達成できなくなってしまう。いや、初体験がしたいとかじゃなくて、高校最後の夏の想い出作りをなんとかして完遂させたかった。勝手な願いだとは思うが。

 ベッドに寝転がりながら、中野さんから何か連絡が来ないかと期待してスマホをいじる。こっちから連絡するのは憚られた。相手は放っておいて欲しい状態かもしれない。その状態での「なんか揉めたみたいだけど、大丈夫?」みたいな心配メッセージはうざがられる。

 しかし思い直した。中野さんは、気落ちしているときに励まされるとイラッとくるようなタイプではないはず。

 俺はメッセージを送った。

『赤坂と口ゲンカになったと愛美から聞いたんだけど、大丈夫ですか。なんか心配事があるなら、俺でよかったら相談してください』

 するとすぐに返事が来た。

『今から会える?』

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