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我が愛しの守護天使様  作者: ハタケ


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「はあ……」と俺は思わずため息をついた。

「なんかタマってさ」そんな俺に中野さんは言った。「芸術家肌だよね。よく言えば繊細で、悪く言えば神経質っていうか」

「俺が芸術家? それはない」と俺は即答した。「それはそう見えるだけで、単に豆腐メンタルなだけなんだワ。よく繊細で傷つきやすい性格の奴が、『俺はこんなナイーブな性格だから創作の才能があるに違いない! なぜなら天才的芸術家はすべからく繊細で傷つきやすいからだ!』って思い込んで常に鬱々としている自分の弱った心を慰めようとするけど大抵は自己陶酔に終わるだけで何も生み出さないし何も結果を残さないんだよなぁ。だから自分を過大評価して創作の才能があると思い込んでクリエイティブな仕事を目指して道を踏み外したりしてはいけない(戒め)」

「いや、タマに芸術家としての才能があるよ、って言ったんじゃなくて、芸術家肌だよね、って言ったの。性格がそれっぽいなって思っただけで。まあでも、タマには本当にそういう創作の才能があるかもしれないから、なんかやってみたら? 例えば和泉さんだっけ? あの子みたいにアニメっぽい絵でも描いてみれば?」

「中学の頃に書いてみたよ。んで、俺の描いた絵をいずみんにも見せたんだけど、珠海さんはセンスないんでもう描かない方がいいですよ~、って言われておしまい。お、そうだな、って俺も思いましたね。大体絵なんか描いてても面倒くさいだけでつまらんかったし。そう言われて逆にスッキリしたね」

「んじゃ、音楽は? 愛美ちゃんに影響されて何かやる気は?」

「もっとやる気しないっすね。だいたい普段音楽を聴いてすらいないし、それを創ろうとするなんてとんでもない。じゃけん大人しくぼーっとして日々を過ごしましょうね」

「そっか。ま、そういう私も何もしてないけどね、今は。バスケも完全燃焼したし、後は普通に生き続けるだけだね。まあちょっとつまんない人生になりそうだけど」

「……」

 普通に生き続ける。

 果たしてそれを生きている、と言えるだろうか。

「いや、言える!」と俺は席を立ちそうになるのを堪えながら強く言った。

「いきなりどした?」と中野さんは再々苦笑。今度の苦笑はかなりデカかった。

「昔さ、特に90年代はそういう悩みが多かったんだよな。僕は一体なんのために生きてるんだろうか、僕は一体なんの役に立つというのだろうか、僕の存在意義とは一体……うごごごごみたいな、今考えるとクッッッッッソ贅沢でおごり高ぶった悩み。バカ野郎、生きてるんだ、じゃなくて、生かされてるんだルルォ!? 神が貴様に生を与えたもうなのに、なんで自分の生殺与奪を自分だけが握ってると思い込んでんだか。自分の意志で生まれてこなかった=自分の意志で死ねないだと思うんだワ。要するに人間の生とか運命なんて人間自身の力で決めることは絶対にできなくて、全ては必然、つまり全ての選択肢は自動選択であり、全ての人生は一本道のRPGなんだわ。人生はRPGってそれJRPGの唯一神であらせられるHRYJつまり口にはできぬ四文字さんが一番仰ってたけどあれは誇張でも比喩でもなくてストレートな真実なんだよなぁ。つまり俺という人間である田尾珠海っていう人間をコントロールしているのは『俺の意思』ではなく、俺をロールプレイングしている誰かが動かしてるんだワ。だからこの世界はゲームなんだよね。つまり○○○である(さすがに某名作RPGの重大なネタバレになるから伏せ字にさせてもらったゾ……)。とにかく、結論を言うと、夕方の誰もいない電車内で僕はなんのために生きてるだとかグダグダ悩むのは完全に時代遅れで、令和の今は生きることそのものがゴールであり意義であるっていう考えが一般的だから、90年代の中高生みたいな痛々しい自己陶酔じみた懊悩呻吟は『中二病』の一言で一蹴されてしかるべきなんだワ。だって貧窮する我が国の経済に加え、緊迫する世界情勢、壊滅に向かう環境などといった不穏因子盛りだくさんの世を生きる上で自己問答なんかフヨウラ! そんなこと考える暇があったら働け、働け○○(ここには自分の名前を入れよう)」

「ご高説ご苦労様です」と中野さんは普通に感心していた。「でも、もうちょい声抑えた方がいいと思うよ」

「あ」

 カフェの中心で人生論を叫んだからみんながすっげぇ注目してるゾ……。でも図書館には変わり者が集いやすいから、ああ、よくいる文系の変な人だね、みたいな空気になって助かったぞ。

 それから俺たちは逃げるようにしてカフェから出た。俺は制服姿だが中野さんは私服(今更)。だから妙なカップルに見えたかもしれない。

 ん? カップルだと?

「前も思ったんだけどさ」と俺は歩きながら中野さんに小声で言った。「なんで俺を誘ったの?」

「そりゃあ、タマが一番話し安いから」

「マ? それは意外っていうか、赤坂氏とかを念頭には入れてらっしゃらない? それと教室でよく喋ってる女子仲間とか」

「あの子達は楽しいこと喋るときはいいんだけど、なんていうのかな、落ち込んでるときはあんまり寄り添ってくれなさそうなんだよね。言い方悪いけど」

「まあ、赤坂はそんな感じかも。なんも考えてないからな、人の悩みにあんまり共感してくれないかもしれない。って、じゃあ中野さん、なんか悩みでもあるの?」

「いや、ないけど……なんとなく、タマと話してると落ち着くから」と中野さんはなんとなく照れくさそうな表情をして(俺の思い込み)俺から目をそらした。

 落ちたな。

 というのは冗談だが、今の中野さんの言葉は非常に嬉しかった。一緒にいて楽しい相手よりも、会話はないけど一緒にいると落ち着く相手の方が俺も好きだった。まあ俺にとってそれはまさに愛美なんですけどね。だからわりと長い期間公認カップルになってるわけで(性的行為をしたとは言ってない)。

「中野さんは本読むの?」

「まったく。だからタマが普段読んでるお勧めとか教えて?」

「申し訳ないが俺も読書しないからNG」

「えぇ~? そうなの? じゃあしょうがない、自分でなんか選んでみるよ」

「あ」

 中野さんはさっさと館内の奥まで歩いていった。まさかのパーティー離脱。装備剥がしとけばよかったなってことに後でならなきゃいいが。まあこれで二度と会えなくなるわけでもないだろうから、種返せみたいなことにはなるまい。次リメイクするなら誰かさんに与えた種のステータスをアイラに加算するようにしてくれよなー頼むよー。ていうか俺が生きてる間に1~8を現行機向けにリメイクして、どうぞ(2025年7月追記・リメイク版3があまりにも納得のいかない内容だったので、やっぱリメイクしないで原作版や過去のリメイク版をリマスターするだけでいいです。バカ野郎)。

 で、特に目的もなくウロウロしていたら、ティーンコーナーに数年前に発売されて今は名前すら忘れられている、おそらく誰かが寄贈したであろうラノベが棚に適当に入れられていた。名前だけは聞いたことがあるラブコメラノベを適当に読んでみたら、意外にも面白かった。まったく興味関心なく読み始めたのになぜか内容が頭にすんなり入ってくるから不思議。特に文章テクニックが優れているわけでもなさそうのに、なぜだ……? 自分なりに出した答えたは、出来の悪いネット小説のような痛々しい文章と違い、読者を楽しませようというサービス精神が豊富だからかもしれない。これがプロの力か。尚、自分の感情を他人にぶつける能力しかないワイ。

「ああああああ面白くねぇぇぇ……」

 帰る。

 このイライラする気持ちをぶつけるために、スマホを取り出してちょうどライブ配信していたリマの配信を開いてチャットに、『もう二度と観ねぇよ!』と書き込んでリアクションが帰ってくる前にさっさと閉じてYouTubeアプリも削除した。こりごりなんだよ。


 そうして俺は明日に向かって歩き出したのだった。つまり帰宅したのである。

「タマーーーっ!」

「あ」

 後ろから中野さんに呼びかけられたことで、彼女の存在を今、思い出したのだった。

「どしたの~? 私を置いてかないでよー、もう!」

 中野さんが俺に冗談っぽく抱きつく。

「あっ、きのこる先生が来た」

「は? なにそれ、きのこの先生? 私きのこにはそんなに詳しくないよ」

 じゃあ手始めに僕のきのこを研究してみるかい?(ボロン)などという最低な下ネタなど言わずに、

「いや、中野さんだったら、迷える子羊たる俺の人生を導いてくれるんじゃないかって」と俺は真面目にそう言った。

「いいよいいよ~、導いてあげるよ~」と中野さんは俺と腕を絡め、「ちゃんと勉強して大学行って就職しな~? ね、これで迷いがなくなったでしょ」

「お、そうだな。完全に正論ですねそれは……」と俺は本当に納得した。

 俺のような凡人にはそれしか道がないし、それが嫌なら死ぬしかない。

 図書館前の道路を、二人で腕を組んで歩きながら、仕事をする以外にもう一つ必要なものがあるな、と俺は考えた。

「でも自分のために働いて稼いだってすぐ飽きると思うんだよなぁ。だから生涯を共にする伴侶が必要だと思うんですよね……」と俺はチラッ。

「それもそうだよね。自分のために仕事するより子供をそだて――あっ」

「ん? どうし――あっ」


「なにしてるの?」


 正面から歩いてくる愛美とバッタリ会ってしまったのだ。中野さんと腕を組んで歩いている、この時に……。

 中野さんは焦ったようにパッと俺から離れ、

「ごめんね~、愛美ちゃんに無断でタマ、借りちゃった」と舌を出しておどけた。

 焦りに焦っていた俺はおおおおあああああみたいな言葉にならぬ音を口の中でもごもごさせるのみ。

 で、彼氏を勝手にレンタルされてしまった愛美のリアクションはというと、

「そう」という半ば無関心なもの。

「おおお怒ってない?」と俺は頑張って日本語を発音した。

「怒るって何を」と愛美は真顔で言った。「二人で遊んでたんでしょ。それで私が何を怒るのかな」

「あー、だって、俺、一応愛美の恋人だし」

「そうね。じゃあ今度からは私に無断でタマくんを借りないで」と愛美は俺の腕を引っ張っぱりながら中野さんに言った。

 こえ~……。

 別に浮気なんかしてないし、単に気の合う仲間と外で二人きりでちょっと遊んだだけだから後ろ暗いことなんかまったくないんだけど、でも愛美に内緒でこそこそしてた節は否定できなかったので、俺も中野さんも反論しなかった。それにここで揉めてダブルデートがおじゃんになるのだけは絶対に避けたかった。アホみたいな話だが、いい加減俺も童貞を捨てたかったので(本当にアホ)。相手はもちろん中野さんですね(は?)。というのも、愛美相手ではどう考えても無理だった。たしかに美人だけど、中野さんと二人で二度遊んで痛感したことだが、俺は愛美にまったく恋心を抱いていない。それなのに体を抱くとかそんなのはあり得ない。好きでもないのに抱かれる愛美の方も迷惑だろう。ということは別れ話を切り出すべきなのだろうが、そもそも今も付き合ってるのか怪しいこの状態で、ここで別れよう、などと切り出すと関係がこじれるだけでなく没交渉になりそうで嫌だった。かなり男らしくない考えなのはわかっているが……。俺は愛美と赤坂、中野さんの四人でいるときが一番幸せだった。ついでに妹も加えてもいいが(何様)。

 そんなことをグダグダ考えながら横を歩く愛美の横顔をチラチラ盗み見した。その後、俺たちが何をしたかは覚えていない。

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