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我が愛しの守護天使様  作者: ハタケ


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「うわあああああああああああああああっ!?」

 俺はベッドから飛び上がった。布団がずぶ濡れだったから豪雨で雨漏りしたのかと思って天井を確認してみたが、悪夢を見て滝のような汗を掻いたんだとわかって安心した。新築で大量雨漏りとかそれもう欠陥住宅だろ。

 あああああ夢でよかったああああああああああぁぁぁぁぁ……。死ぬような思いだった。あんな悪夢がもし現実だったら、俺はすぐに自殺しますね……。本当にキツい現実だった。思い出すのも嫌だ。この前見た悪夢より一段とひどかった。前のは中年になってやさぐれた俺を心配する妹が登場するだけだったが、今度は家族から見捨てられた無気力敗残者の独り身中年という設定だった。しかも今のこの状況がそいつが書いた小説というね……。あまりにも痛々しい。

 時計を見ると午後三時。とりあえず部屋から出て下に下りた。

 夢花はまだソファに座ってゲームをやっていた。しかも隣には赤坂。なんかカップルみたいに仲良くしてんな……。

「おーい、お前らいつまでゲームやってんだよ」と俺が呼びかけると、

「あー、わりぃわりぃ、つい夢中になって」と赤坂は振り返って照れ笑い。「もう三時かぁ、ちょっとやりすぎたかな。俺、そろそろ帰るわ。ありがと、夢花ちゃん」

「赤坂さんのお陰でいろいろ助かりました~」と夢花は猫なで声。

 なんだこいつ気持ちわりぃな。お前今まで散々こいつのこと嫌ってただろ。

「ところで愛美と中野さんは?」

「あのお二人ならお兄ちゃんたちに呆れて帰ったよ~」と夢花がジト目。

「あきれ……た?」嫌な予感がよぎる。「お、俺、あいつらになんかしたっけ?」

「自覚ないの~? 兄ちゃんは眠いって言って上に行くし、赤坂さんは勉強中断してずっとゲームやっちゃうから、愛美さんと中野さんはお兄ちゃん達を見捨てて二人で勉強することにしたんだよ~、ばーか」

「で、あいつらは今どこに?」

「中野さんの家に行くって言ってたよ。兄ちゃん達も今から行ってみれば?」

「俺はパ~ス」と赤坂。「もう充分勉強したし、テストはバッチリ。受験勉強もフヨウラ!」

 そうして彼はさっさと帰った。

 俺はどうするか異様に悩んだ。まあ、悩むってことは行かない方がいいってことだからやめておくことにして、夕飯の支度に取りかかった。

 その日の夜は夢を見ることなく熟睡できた。悪夢もおやすみのようだった。


 特に何もない平日。

 しかし少し事件があった。昨日四人で交流したことで謎の積極性が身についた俺はその勢いに乗って昼休み、中野さんのクラスまで行った。別にストーキングではない。呼びつけて、よう、調子はどうだい? と訊きたかっただけだ。

 で、いざ教室の前まで来て、中から出て来たモブキャラ(女)に、「中野君を呼べ」と偉そうに命令したところ、

「中野さん? 謹慎してるよ~」

「え」と俺は固まった。

 突然の事実に動揺して理由を訊きかねてる俺に、このモブ女は、なんやねんこの男偉そうに、といった批難の一瞥を投げてそのまま去った。

 このことは赤坂も知らなかったようで、中野さん、なんか謹慎してるみたいなんだけど、と俺が彼に伝えると、どっひぇえええええっ! と極めて昭和的なリアクションをした。こっちは深刻なのにふざけやがって、とムカついたのだが、それよりも一応彼氏である赤坂にすら伝わってないというのはおかしいのではないか、と中野さん杞憂民勢である俺は心配になった。


 その場でラインを送りたかったが、家に帰るまで我慢した。

 帰宅するや緊張で震える指で、

『中野さん、学校謹慎してる?』

 と送ってみると、

『そうだよ~。黙っててごめんね~。三日ほど休みま~す』

 とあっけらかんとした文体の返事が。

 一体何があったのか。まさかまさかまさか肌が合わなかったというのは実はそのままの意味で、本当に顧問と肉体関係にあってそれがバレて謹慎になったのだろうか……と薄い本的内容の物語を渉猟してきた我が歪んだ思考がそのような発想を頭に思い描いたのだが、心に闇の兆候ゼロのあの中野さんに限ってそんなことはないな、と俺は変な想像をしてしまったせいで少し反応してしまった我が息子を慰めながら思い直したのだった。


 つまり顧問に無理矢理させられる彼女を頭に描きながら、抜いてしまったのである(は?)。


 まあそんな気持ち悪い話はいいとして、いずれにせよ本人に理由は聞けそうにないので、俺は次のイベントが発生するまでの間、座して待つことにした。ゲーム内時間を進めるために俺がソファに一休みしていると、なんかまた赤坂の野郎が家に来た。そしてまたリビングで夢花様と和気藹々ゲームをやりだした。

「なんだお前、よっぽど夢花のことが気に入ったんだな」と俺は言った。

 重度のロリコンであらせられる赤坂が気に入ってる夢花の部分といえば、顔と胸と尻とお腹と太ももと小さなサイズの足だけであって、交流なんかしなくてもいいと思ってそうだったけど、そうではなかったようだ。夢花も赤坂と楽しそうにゲームをしていた。

 夕飯時まで二人はずっとそうやって楽しそうにしていたので、なんかムカついた俺は、

「赤坂も夕飯食ってくか~?」とわざとらしく尋ねた。

「いや、そろそろ帰るよ。ありがと夢花ちゃん」と意外にも遠慮して帰っていった。

 つまりぶぶ漬け当てつけが効を奏したのである。


 テストは来週だが、あの勉強会で完全に力を使い切った俺にもう勉強する気など残っていなかった。つまり燃え尽き症候群である。赤点取ろうが知ったことではなかった。退学したっていいしね。

 というか謎の謹慎をしている中野さんは大丈夫なのだろうか。もし彼女がいきなり退学するとか言い出したら、推しのVが引退したのを期にその箱の他のV全員のチャンネル登録を解除する付和雷同Vオタの如く俺も退学しますね……。まあしないけど。

 するとその夜、メッセージが。

『明日の放課後、会おうよ』

 中野さんからだった。


「謹慎なのに出かけていいんですかね」

「いいに決まってるじゃん、放課後なんだしさ。軟禁は学校の時間だけ」

 俺たちはまた駅前繁華街をうろうろしていた。今度はこの前行けなかった店にでも行こうか、という話になったが、しょぼい繁華街に残されたそのような選択肢はBARや居酒屋やデスコや三大欲求の一つを解消してくださる店(意味深)などに加えさらにさらにさらにしかるべき休憩施設などといった高校生が入ってはならぬ所しか残されていなかった。

 だから俺は言った。ちょっと歩き疲れたし、あそこで休憩してかない? 千五百円でなんかドリンクとか飲み放題みたいだし。だが俺の言葉は中野さんの、「図書館行こうよ」の言葉に打ち消されてしまったのだった。つまり俺の言葉がパリィされたのである。まあ彼女が本当に同意したとしても俺は冗談として取り下げますがね(ほんとー?)。

「でも俺、図書館行くと眠くなるんだけど」

「最近の図書館はいろいろあるよ~。楽しそうだから行こうよ」

「中野さんは行ったことないんだな」

「ないから行ってみたいんすよー」

 それもそうだな。というわけで我々は駅から少し歩いた所にあるやたら巨大な市立図書館へと向かった。

 昼時だったので、まずは図書館に併設されているカフェで軽食をとった。正直オサレなカフェは窓越しから見るだけで全身に蕁麻疹が出てくるが、仲のいい人とだったら足が痒くなる程度まで症状を抑えられた。

「なんで謹慎になったの?」と俺はサンドウィッチ伯爵の考案した食べ物(誤解)を口に運びながら尋ねた。

「顧問殴ったから」

「ぶっ」

 口の中のサンドイッチが鼻から噴き出た。まさか中野さんも俺のような壊滅の運命を歩んでいる者だとは思わなかったので、驚いたのだ。

「な、なんで殴ったの?」

「私が部活辞めるって言ったらなんかキレだしてさ。しかも、『お前バカな男と遊んでるからそんな腑抜けになったんだよ』みたいなふざけたこと言うからムカついてさ。多分赤坂とタマのこと言ったんだろうけど、それと部活はまったく関係ないのにバカじゃねこのクソ教師と思って殴っちゃった」

「そりゃムカつくわな、殴って当然。ルールは破るためにあるってそれ銀河打者が一番言ってるから。……と思ったけど、もうちょい感情は抑えた方がいいんじゃないでしょうかね」と俺は中野さんにもう少し清楚キャラになって欲しいが故にそう進言した。

「そうだね。こんなことが許されるのは学生の時っていうのもあって、ちょっと暴走しちゃった。そんなことより楽しい話しようよ。この前の話、いろいろ調べたんだけどさ、安くて気軽に泊まれるとこ見つけたから、私が予約しておこうかなって」

「え」


 ――安くて……気軽に泊まれる……だと?


 え、ということは中野さん、いよいよこの僕ちんとしかるべき休憩施設に洒落込もうという気になったのかい? ……ゴム持ってたかな。実は愛美と二人きりで遊ぶときは財布に必ずしかるべきフォースフィールドを用意しておくのだが、さすがに中野さんとのときにそれを用意するのはあまりにも気持ち悪すぎるので自重しておいた。ところでしかるべき避妊具をついフォースフィールドと例えてしまったが、極パロのこいつ(キャラ名)のバリアで例えるのが当意即妙だったなと今気付いた。だって見た目がまんまアレだし。ところで極上パロディウスの現行機への移植、まだ時間かかりそうですかね? 俺が生きてる間にエムツーかハムスターがどうにかBGMそのままで移植して、どうぞ。

「一人あたり五千円くらいだから、まあそのくらいなら大丈夫だよね」

「ぶえっ? え、あ、はい」

「ちゃんと聞いてる?」と中野さんは苦笑。

「あ、ははははい。しかるべき民宿の値段ですよね、多分」

「うん。お金足りなかったら私が出すから、安心して」

「いや、それはちょっと……」

「いいよ気にしないで。全然使ってない貯金がいっぱいあるから」

「え」と俺の余計な脳がまたも余計な想像をした。


 ――全然使ってない貯金……だと?


 それは例えばバスケ部の活動が上手くいかなかった時期にやさぐれる気持ちを抑えるために衝動的に行ったしかるべきパパとの活動で得た資金だったりするんですかね……。

 まあそんなわけないか。それにしても俺の妄想力ってすごいな。このシチュで十万文字くらいエロ小説書ける自信があるゾ。もちろんこの中野さんをモデルにしてね……じゅるり。

「さっきから何ニヤニヤしてんの?」と中野さんは再苦笑。

「え、あ、はい。みんなとの小旅行があまりにも楽しみだから、つい」

「ねー、楽しみだね。高校最後の夏の想い出だし……」と中野さんは遠い目。

 オサレなカフェの窓の外の街路樹を見つめている。ああ、青春の日って木の葉が落ちるような儚さが、ありますねぇ!(一次落ちレベルの拙劣文章表現)。でもたしかに、この日が二度と戻らないと考えると苦しくて死にたくなりますね……。学校自体はまったくどうでもいい存在だけど何が一番嫌ってこうして仲間達と気軽に会えなくなるのが一番堪える。社会人になると忙しくなったり新しい仲間ができたりするから旧友とはどうしても疎遠になる、という話をネットで聞く度に俺の心胆は寒くなった。正直社会に出てから赤坂や愛美や中野さんのような気の置けない人間と出会えるような気がまったくしなかった。それは杞憂なんかではなく、強烈な直感だった。その理由は俺が社会や会社というものを学校以上に心底から忌避しているからで、そんな心構えだと悪い出来事や相性の悪い人間しか引き寄せられないのではないか、と俺は予想したのだ。なら前向きに社会に出りゃいいだろ、と指摘されそうだが、自分の感性や性格を矯正するのは非常に難しい。それができたらみんな幸せな社会人になれるんですよね……。


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