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その日が楽しみすぎて面白そうすぎて初体験したすぎていても立ってもいられなかったので俺は部屋中うろうろするだけではこの気持ちを抑えきれずみんなが帰った後自分の部屋に直行してパソコンの電源を入れていつものようにYouTubeを開いて守護天使リマエルのチャンネルを開いてレトロゲームをプレイしている生配信中のチャット欄にバカアホボケカスと勢いに任せて小並悪口を書きまくってこの燃え上がる青春の炎を燃え続けさせて燃料切れにさせて冷静になるのを期待したのだが不思議なことに悪口というのは言えば言うほどイライラが募ってくるもので小並悪口を百個くらい書き込んだところイライラも当初の百倍まで増幅されて故に俺はついこの前リマエルから他の人の悪口を言うなと釘を刺されていたにもかかわらずこの配信観てるやつ全員バカだろ貴重な人生の時間をこんなゲームにたいして興味ない奴が集金目的で昔のゲームやってるようなのをありがたがってるからねこんなの観るんだったら学生なら勉強するなり友達と遊ぶなり彼女作るなり就活するなりしろ社会人だったら仕事に励むなりしろ独身だったらこんなバーチャルな片思いは一切やめて婚活しろ既婚者なら子育てに専念しろ年金生活者なら終活しろとライン越えの発言を書き込みまくったところ自分を(お金で)支えてくれる大事な大事なリスナー様を傷つけたられたことでついにキレちまったリマエルがこの人許せないんでブロックしまーーーすと俺のアカウントをブロックしやがったのでムカつきまくった俺はパソコンを壁に向かって何度も投げつけてボコボコにして窓から投げ捨てて部屋から飛び出て今まさに世界に向けてみんなの心を癒やす(笑)配信をしている莉茉の部屋のドアに何度も何度も跳び蹴りを食らわせついにドアをぶっ壊して俺は中に侵入したのだがモニターの前で配信をしていた莉茉の姿が部屋の中になかったことに「は?」と驚愕したのだった。
部屋は空っぽだったのである。家具一つなかったのである。つまり空き室だったのである。まるで最初から誰も住んでいなかったかのようにね……。
「どういうことですかね……」
まるで幻影の敵と戦い続けた後のように、俺の体は疲弊していた。つまりダライアス外伝のクジラルートエンドである。
妙な焦りに襲われ全身冷や汗まみれになった俺は慌てて部屋から飛び出しついさっきリビングでソファーに座ってゲームをやっていた夢花様にこのことを伝えるべく転がり下りるようにして階段を下りたのだが突入したリビングはリビングではなかった。なんかものすごいごちゃごちゃした空間で壁も汚いし服とか古雑誌とか食べ終わった食品の包装やらで溢れていてなんかオワコン中年独身男性の末路みたいな空間だったのであれ俺の家ってたしか新築だったよなと急に不安になって、あ、これまた変な夢見てるんだなと思って二階に上がって自分の部屋に行って半永久的な睡眠状態に入ろうかと思ったんだけど家のどこをうろつき回っても階段が見つからなくてためにし外に出てみると街並みは知ってるけどいつも住んでいた新築の家の住所とちょっと違っていてそうだ中野さんの住んでた高層マンションがこの辺にあるはずだと思って辺りを見渡してみるとたしかに遠くにだけどそれは確認できてじゃあこれは夢じゃなくて現実か? と逆に不安になってきてこれもう俺頭おかしくなっちゃったんだなと思って家に戻ってごちゃごちゃになってる部屋の床に寝転んでそして僕は眠りについたのだった。
「起きてください」
ところが誰かに顔を踏まれたのだった。なんか小さな生足で。臭くはなかったが驚いて息をしようとすると、ふごっ、と足の裏に鼻を塞がれていたために息苦しくなってムカついたので手で何者かの足を払いのけ俺は立ち上がった。目の前には天使がいた。金髪の幼女の天使である。
「またお前か」
「そうです、私が守護天使リマエルです」
「お前が来るとややこしくなるから永久にどっか行ってて、どうぞ」
「じゃあ、あの時の続きをやりますか? ダブルデートで海沿いの民宿にお泊まりすることが決まってキャッキャと喜んではしゃいでいたあの黒歴史の日に戻りますか?」
「やめてください死んでしまいます」と俺は羞恥心で顔が真っ赤になった。「ところで今のワイって何歳?」
「この前と同じですよ。つまり中年です」
「また予知夢か壊れるなぁ。つまりあれだろ、ダブルデートが決まってテンション上がりまくってお前の部屋のドアをぶっ壊したりとか、そういう悪いことしてるとこんな感じで将来人生の敗残者になりますよ、っていう神からのメッセージなんだろ、この予知夢は」
「全然わかってないみたいですねぇ」とリマエルが肩をすくめる。「こっちが現実なんですって。いい加減認めましょうよ。証拠を確かめたければ、そのテーブルの上でゴミの中に埋もれているポテトPC(低スペックPC)の電源を入れてみてください。そこに真実が隠されていますんで。くひひ」
「どれどれ……」
俺はテーブルの上に乗っていた空き缶やカップ麺やらお菓子やら菓子パンの空の袋を手で払いのけてノートパソコンを掘り起こして電源を入れた。するといつもそうしているかのように勝手に動く手に意識を任せていると、パソコンがある小説投稿サイトにアクセスされた。そこには俺の実名で投稿された『我が愛しの守護天使様』という小説が存在して、読んでみると今までの物語が書かれていた。
「おいおいおいおい。じゃあ何かな、今までの話は頭が悪くて社会に出てもまったく上手くいかなかった俺が書いたゴミ小説だったってことかな」
「まさにそのとおり。だからクッッッッッソくだらなかったんですよね、今までの物語が。ふっひひひひ」
「どうりでねぇ。お、待てい。でもその設定は今までの物語が稚拙だったことを免罪符にするために今急遽拵えたんじゃなイカ? だったらちょっと卑怯だと思うんですけど。どうせ俺は才能ないし、かといって批判されるのも嫌だから、中年で文才ゼロで無能のニートが書いたカス小説っていうことにすればいくら内容がうんこでも批判はされないだろう、なぜならわざと駄作にする必要があるからな、っていう打算が働いてるようでちょっといやらしすぎんよ~」
「まあいいじゃないですかどうでも。どっちにしろあなたは人生の敗残者なんです。負け犬なんです。あなたが書いたその物語がすさまじく稚拙で、誰からも顧みられていないことは承知の事実なんです。まずはそれを認めましょう。そこからあなたの人生は歩き出します」
「もう立ち上がる気力すらないんですがそれは」と俺は言った。「じゃけんこのままここで餓死しましょうかね」
「まあ勝手にしてください。たしかに眠りにつけば、またあなたが妄想していたあの世界へと戻れますしね。人の脳はものすごく都合よくできていて、自分が現実だと思ったことが現実になるんですよ。だからあなたが書いた捏造自伝物語が真実だと思えば、それは現実になりますよ。おやすみなさい……くひひひひひひひひひ……」
俺の意識は途絶えた。




