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我が愛しの守護天使様  作者: ハタケ


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 駅前のカフェに入ろうとしたけど満杯だったし、俺の苦手な意識高い系がノートパソコンでこれ見よがしに勉強だか仕事だかをしているのがウィンドウ越しに見えて入りたくなかったので、

「無難にミセスドーナッツ行こう」と俺は、繁華街から少し離れた所にあるために客足が鈍くなりがちな店を提案した。

「そうだね。あそこ、静かだし、よく友達と行くんだ」

 ……その友達の中に赤坂は含まれてるのだろうか。というのも、くだんの店から少し歩いた所には比較的規模が小さめな宿泊施設が数軒立ち並んでいて、もちろん学生は利用禁止だがバレないよう大人っぽい私服姿でそのしかるべき施設で休憩(意味深)する輩がうちの学校の生徒にもいると噂に聞き及んでいたので、中野さんもそれを利用したことがるのか、わたくし、非常に気になっている次第でして……。だが本人にこんな気持ち悪いことは絶対に直接訊けっこない。当たり前だよなぁ?

 というわけで我々は無駄に丈の高い街路樹に囲まれているせいで日当たりが悪くなってしまっているドーナッツ店へと入ったのだが、さすがにフルスロットルタイム(アイドルタイムの反対語がわからなかったので即席で造語した)だから割と込んでいて座れるかどうか不安だったが、運良く二階の窓際席に座れた。たまたまポンデリングを頼んでいた俺はその窓際席に座った際に、「ここがアキバだったら双子VTuberの聖地だった」などと口にしそうになったが、今まで散々VTuberなんか興味ないとか言っておきながら引き合いに出す資格は俺にはないなと思って自重したのだった。それにオタクコンテンツに疎い中野さんにこんなことを言っても「は?」の一言で終わるに違いない。

 じゃあ何話そうか何話そうか何話そうかズズズズズズズ。

「すごい喉渇いてたんだね」と中野さんは俺の飲みっぷりを見て含み笑い。

「そそそそうだね。最近熱いし、俺、こういう骨が溶けるような炭酸好きだし、ていうかこれ飲みまくって俺の存在自体溶けさせたいっていうかね」

 言ってからだいぶ後悔した。陽キャで前向きでネガティブ発言がゼロのキャラであらせられる中野さんに対してこのような卑屈な発言をし、場の空気をしらけさせて不快な思いをさせて誠に申し訳ありませんでした、と俺は心の中で謝罪会見を開いた。

「溶けちゃダメだよ~」と中野さんは太陽のようなポジティブパワーで以て俺を励ました。「明日、勉強会するんでしょ? それまで人間のままでいてよ」

「いいですとも! ……それよりyouはなんで部活をサボったの?」

「つまんなくなったんだもん」中野さんが口をとがらせる。「私さ、大会の成績どうとかじゃなくて運動して汗を流したいタイプなんだ。でも顧問がさ、そんなんじゃ甘いよ、試合に勝てないぞとか、うるさくって。だから頭に来て今日はサボった」

「ぷっ」

 俺は思わず吹き出した。このようなネットスラングに一切毒されていないであろう穢れなき陽キャ様の口からまさか例のアレ語録が飛び出すとは夢にも思わなかったので。

「なんで笑うの~?」

 だが俺が失笑した理由がわからなかった彼女はイラッときたようで。

「あ、大変申し訳ございませんでした。君はてっきり部活に全力ネキかと思ってたんで。俺や赤坂と同じエンジョイ勢だっていうのが意外というか。まあ俺はエンジョイどころかリタイア勢なんですけどね」

「私もずっと前からエンジョイ系だったよ~。ただ、バスケずっと好きだったから、厳しい練習もあんまり苦じゃなかったってだけ。でも最近はさすがに、ね。進路とかいろいろある中で、望まないパワハラ指導なんかされたくないんで。だからもう辞めようかなって。どっちにしろ三年はもうすぐ引退だし」

「うーん」と俺は真面目な気分になった。「それで後悔しない?」

「しないよ、まったく。実は私、部のみんなから微妙に思われてんだよね。私以外みんなガチだからさ、適当な気持ちでやってる私が疎ましいんだろうね、多分。だから居場所がないっていうかさ」

「その割に教室でいつも仲間に囲まれてるように見えるんだけど」

「教室のあの子たちはバスケ関係ナッシング。だから私もタマみたいにおんなじ人とだけ喋ってるだけなんだよ~」

「そ、そうか」

 しばらく沈黙が訪れた。咀嚼と嚥下と店内の喧噪の音を鑑賞する時間がしばらく流れた後、

「ところでVTuberって知ってる?」と俺は今が旬のコンテンツを取り上げることによって旬の野菜をふんだんに使った料理を食べて爽やかな気持ちになるような方向に空気が傾くことを期待してそんなことを言った(壊滅的稚拙比喩)。

「あー、なんか友達がハマってるね~」と中野さんは明らかに興味なさそうなそぶりを見せた。

「じゃあいいです」と俺は話題中断を決意した。

「タマは好きなの? そのVなんとかっていうのが」しかし中野さんが話題を継続した。

「いや、にわかだけど、守護天使リマエルとかいうチャット欄が罵詈雑言だらけになるカオスな配信者がいて、それはちょっと面白いなって思ってたとこなんすよね~」

「そう」と中野さんの無関心度はいよいよマックスになった。「んじゃそれ、今度観ておくよ(観るとは言ってない)」

「いや、まあ、無理に観なくてもいいけどね? 低俗とかいうレベルじゃないくらいクレイジーな配信者だし。まあ暇なときに観るといい感じに時間潰れるかなって。でも時間が貴重な場合はくれぐれも観ないように。人生もったいないから」

「タマって不思議だよね」

「いきなりどうした」と俺は戸惑った。

「不思議なキャラじゃん、タマってさ。赤坂みたいなわかりやすいミーハーオタクでもないし、いろんなことに興味ありそうだけど実際なかったり、博識そうだけど異様に知識偏ってるし、勉強も全然なのに、うーん、知的ってわけでもないけど変な研究者みたいな雰囲気漂わせてるよね。そういうとこが不思議。そう、掴み所がないっていうのが一番的確かな」

「だって俺、実際掴む所がなんにもねーんだわ。何もやってないしなんにも興味ないからね。長所も短所もなし、それはつまり短所しかないって言ってるようなもんなんだワ」

「そんなことないけどね」と中野さんが微笑む。

 なんか微妙な空気になったが、その後は無難な雑談へと変わった。


 俺達は店を出た。

 そして趣味の合わない二人がこれからどこへ行こうかと議論する時間が訪れたわけだが、それを言葉にしてしまうと、我々は趣味が合いませんねぇ、といよいよ宣言することになってしまうので、俺は彼女に対して、次に俺とどこへ行きたいか言ってくれるよう目配せしたのだった。つまり他力本願である。どうせ暇だしカラオケ以外ならどこだってよかったが、彼女が、「この店の裏通りにあるしかるべき休憩施設に行こうか」と億が一の確率で言おうものなら僕ちんは、「我が生涯に一片の悔いなし!」と叫んでその施設のベッドで我が悔いだらけのこの生涯をしかるべき腹上死で以て終えてもいいですね。そういうくだらないことを考えていると、俺の足はゆるゆるとその裏通りの方向へと進んでいった。つまり引き寄せの法則である。

「そっちは行かない方がいいんじゃない?」

 だが中野さんは割と真剣な表情で俺の袖を掴んで制止した。まずい……俺の下心がバレてしまったか? しかしそうではなく、

「そっち行っても何もないからさ、駅前まで戻ろうよ」と彼女は無邪気な微笑で以て言った。

 というわけで俺達は駅前でいろいろなことをして遊んだ。楽しかったです(小並)。別にふざけて言ってるわけじゃなく、本当に楽しかった。趣味が合わないから下手するとずっと無言タイムが訪れるかな、と危惧したが、お互い無趣味という共通の趣味があったので、とりとめのない話題が面白い話題に格上げされて普通に会話するだけで楽しかったし、たいして興味のない店も口コミレビュー☆5へと昇格された。例えば駅前のゲーセンでクレーンゲームをやってアームの弱さにイライラしながら千円でなんとか小さいぬいぐるみをゲットしたり、ファッションショップで服を見たり(買ったとは言ってない)、オシャレな文房具店で学業に必要な道具を買ったり、おもちゃ屋で中野さんがぬいぐるみを見てかわいいと言うのを見て心の中で「おまかわ」と言ったり、ゲームの試遊台で対戦アクションゲームを二人でプレイしてみたらほとんどゲームやったことのない中野さんに負けて、やっぱり運動神経のいい人はゲームもうまいんやな、なお、劣等遺伝子持ちのワイ、何をやってもクソな模様、と絶望したり、子供の頃から散々食ってるからとっくに飽きてる県の名産品を駅中のお土産屋で買って食べてみたり、駅前噴水広場でぼーっとしながらその辺の自販で買った缶コーヒーを飲んだりといった場当たり的で計画性のない行動を取っても心の底から楽しめた。正直、愛美はもちろん、赤坂といるときより盛り上がったかもしれない。しかしそれは初めて二人きりで遊ぶ二人がお互いに気を遣って相手を楽しませようと努力した賜かもしれず、こういうデート(?)を何回か繰り返した末には倦怠期が訪れるかもしれない。

 というかなんで俺は、これから中野さんと付き合う予定、みたいな気持ち悪い妄想をしているのだろう。まるでストーカー。

 そもそも彼女はなぜ俺を誘ったのか。さすがにその辺の真意を問うても罰は当たるまい、と思った俺は、噴水広場のベンチで隣に座っている彼女に顔を向けて、そのことを尋ねようと思ったのだが、

「今日は楽しかった。ありがと」といった無難なお礼の言葉しか出てこなかった。

 というのも、急に俺を誘ったということは、彼女に何か嫌なことがあって、普段とは違う行動に出て気分転換をすることでストレス解消を試みたとも推測できたので、理由は言いたくないに違いなく、聞かない方がマナーだと思ったのだ。まあつまり、悪く捉えると俺は利用されたということだ。しかしそれでもよかった。今日が楽しかったというこの事実は変わらない。

「じゃ、帰ろっか。送るよ」と言って中野さんは立ち上がった。

「逆じゃね。俺が送るべきでは」

「だってタマの家の方が近いし」

「いや、距離の問題じゃなくて……俺が君を先に送ってから解散にしようかなって意味で――」

 そう言ってハッとした。もしかしたらこの人、自分が女扱いされるのを異常に嫌うタイプかもしれない。だとしたらワイへの好感度ダダ下がりじゃないか……やべぇよやべぇよ……。

「いいよ別に。まだ明るいし、この街って人も少ないしさ。私が送ってあげるって」

 中野さんはあっけらかんと言って気さくな感じで俺の手を握って歩き始めた。

「んなっ」と俺の口から変な言葉が飛び出た。

 そりゃ変な言葉の一つや二つ飛び出ますわ。なして突然恋人同士みたいに振る舞い始めた? というか手を繋いで歩くとかいうラブラブカップルみたいなこの様子をしかるべき知人達に見られたら危険がいかん危ない危ない危ない。特に愛美や赤坂に目撃されて、「お前ら二人っきりで手なんか繋いで何してんだよぉ!? 浮気か!?」というような修羅場が訪れるとかいう安っぽい恋愛ストーリーみたいな稚拙な展開にはしたくないっすね。ベタすぎるので。

 だが人少なき我が街でそのようなドラスティックな展開が訪れる可能性は少ない……と思ったけど、人が少ないとその分目撃される可能性が高まるな、と思い、

「とりあえず、手を繋ぐのはやめとこうか?」と極めて紳士的な態度で以て提案した。

「あっ、そうだね、誤解されちゃうかもしれないし」と彼女は苦笑気味に言った。


 それからの帰路、俺たちはなぜか終始無言だった。さっきまであんなに楽しくお喋りをしていたのに。俺たちだったら天気デッキとかいうベタすぎる会話も楽しめるというのに、我々の口から何か言葉が飛び出ることはなかった。

 我が家へと着いたとき、ようやく謎の気まずさから抜け出せることに俺は安堵した。つまりホーム・スイート・ホームである。

「じゃあね、また明日」と中野さんは言った。

 ということは、明日は予定どおり俺の家に来てくれるらしい。これには俺のテンションも、にぱーっ。

「きょ、今日は楽しかった、ありがとう」

 ガラにもなく臭いセリフを言ったので、背中と内臓が痒くなった。背中はともかく、掻きようのない内臓が痒くなるのは地獄そのものなので、慣れない言葉は口にするもんじゃないな、と後悔したのだが、

「私も楽しかった。また今度二人でどっか遊びに行こうよ」

 という彼女の屈託のない笑顔を見たら、自分に嘘をついてでも相手に感謝の気持ちを伝えるって大事なことなんやなって、と人生で成功する秘訣の一端を垣間見た気がした(これを機に俺の人生が上向いていったとは言ってない)。

 そうして俺はきよきよしい(テンションがあがりまくっていたが故の誤読)気持ちで我が屋の玄関扉を開けた。


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