第7話 影神団の妖姫③
亜美紗が指定した、ダークファンタジーをコンセプトに掲げたカフェに指定時間ピッタリに現れたのは三人の黒いゴス系ファッションに身を包んだ男女であり、中央のいかにもゴスロリ、というよりは美少年にも似合いそうなユニセックス的なデザインの衣裳に身を包んだ青い瞳の美女が本人であることは明白であったが、脇を固める凸凹コンビ──左側に立つ、ロングコートを羽織った長髪赤目の青年は180センチをクリアするスマートな肉体(隙の無い身ごなしと全身から立ち昇る殺気から何らかの体術を会得しているものと紺堂は判断した)の持ち主で、右端の緑色の双眸の、これもコート姿の若者は165センチ前後と目される亜美紗よりやや背が低いが肩幅は187センチ・91キロの武彦に匹敵するほど発達しており、一見穏やかな表情と相俟って只ならぬ強者感を醸し出している……。
簡潔な自己紹介はむろん影神団側から始まり、対する三人組はまず久堂亜美紗、続いて緑目=犀原正昭と赤目=北崎玲市の順で行われた。
こうしてコーヒーを啜りながらの奇妙な会談が始まったのだが、まず影神団総帥が切り出したのはそのカラコンは普段から装着しているのかというありふれた質問であった。
「いえ、そういう訳でもないんですけど、やっぱり人前に出る際にはマストアイテムですね……特に今日は夜にライブが入ってるので、より気合いを入れる意味で……ふふ」
九州最大のゴス系コスプレサークル【ダークネスリング】のリーダーにしてヴィジュアル系バンド【夕星城】のメインボーカルを務める亜美紗が微笑みながら答えるが、景之は感に堪えたように頷くと、「……早速聴かせて頂きましたよ、張りつめた緊張感と努めて抑制されながらも全編に横溢する高踏的なエロティシズム、そして迫りくる危機に慄きながらも決して頽廃的な敗北主義に陥ることなく、凛然と戦い抜く戦士の心情──それらの要素が圧倒的な技術力の歌声と演奏の渦の中で渾然一体となるに及んで、このジャンルには完全に門外漢ながら不覚にも熱いものがこみ上げてくるのを禁じ得ませんでした……」
この手放しの讃辞に面映そうに俯いた亜美紗は、「そうですか、満足頂けたのなら何よりですわ……クラシック鑑賞がご趣味だという阿津間さんのお気に召すかとても不安だったんですけど……」
「いやいや、 買い被らんでください──あくまで生噛りの知識と耳しか持ってない半可通に過ぎんのですから……。
まあそんなことはともかく、ぜひとも日本武芸館か横浜ビッグホール辺りの大会場で、とことん演出にも凝った豪華なステージ上における皆さんの渾身のパフォーマンスを観てみたいものです……」
「武芸館か……もちろん夕星城にとっても、あそこに立つのは文字通りの悲願ですわ……でもいつかは、きっと実現してみせるつもりです」
ここで堪えきれずに紺堂武彦が軽く咳払いするが、構うことなくそこから実に20分近くも続いた音楽談義に渋々耳を傾けている内に、彼は衝撃的な事実──亜美紗たちが影神団に加わろうとする真の動機を知って慄然としたのである!
彼女はこう断言したのだ、
「阿津間さんからの誘いは、私たちにとってまさに天啓でした──何故ならば、あなたが現に戦っておられる異世界における強大な侵略者たちとの戦いとは、まさに音楽のみならずダークネスリングが手がけるあらゆる芸術活動に通底する永遠のテーマ……即ち、“外部の、そして自らの心に潜む闇との闘争とその勝利”の具現化に他ならぬからです!
つまり、私たちは無意識下で完璧に理解し、予感していたのです……自分たちが選ばれし世界救済の戦士であることをッ!そしてそうであるからには、それがいかに過酷なものであろうとも、この天命に背を向けることなどあり得ようはずがないではありませんかッッ!!」
──この凄艶なまでに凛然とした宣言に魂を震わされた紺堂武彦は、今この瞬間、生まれて初めて恋に落ちたことを覚ったのであった……。




