第43話 狂獣児 STARTINGOVER⑥
急襲部隊リーダーとの決着を一旦置いて、彼を救出に訪れる敵機を閃王のバルカン砲で撃墜すべく身構える白琅狂真──そして戦闘機の可動式カメラと連動させた髑髏のヘルメット内のスクリーンにそれが映し出された瞬間、すかさず右腰のコントロールボックスの発射ボタンを押そうとしたのだが、それよりも早く信じられない光景が目に飛び込んできた!
空中にばかり注意を向けていたせいで気付かなかったが、いつの間にか墜落兵は救助を待ち焦がれるあまり岩陰から飛び出しており、地上100メートル付近に滞空する味方機へと全速力で駆け寄っていたのだが、急降下して収容すると思われた侵襲機から青白い破壊光線が一閃し、彼は一瞬にして火だるまとなっていたのである!
そして地面を転げ回る断末魔の戦士が切れぎれに、「何故だ……オレは……ミレ……」と口にして事切れたのをたしかに耳にした覚えがあったのだ……。
されどその刹那の狂獣児の行動は敵を殲滅することに集中していた。
ありったけの弾丸を撃ち尽くした後は刈谷ら援軍に運命を委ねる腹積もりでバルカン砲を猛射した結果、撃墜はせぬまでも不時着に追い込むと、怒りに任せて岩穴を飛び出して、爆発を恐れるあまり慌てて殺光矢銃を握りしめて降機してきた卑劣な味方殺しを殲光弾ライフルの乱射でズタズタに誅戮したのである!
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「なるほど、そういうことだったのですか……。
たしかに当時、我が軍の一部に微小な失敗をも赦さぬ〈無謬主義〉が蔓延っていたのは事実であり、その最も過激な主唱者であったダヅコーニ空戦将軍がミレジェス戦死後に汚職問題で罷免・投獄されておりますが、どうやらこの一件も絡んでおるのは間違いなさそうですな……」
これで合点がいったとばかりにしきりに頷く軍器開発部副長官であったが、尚更に先刻の娘の行き過ぎた振る舞いへの慚愧の想いが募ったらしく、被害者を抱え込むようにしてデスクの前に据えられている、長テーブルを囲んで対のソファに着席を促すが、それを待ち構えていたかのようにベルナが開いたままの別室から銀盆に3つの青いカップを乗せた空色の人型ロボットが入室してくる。
「どうぞ、お口に合うか分かりませんが……。
ところで白琅さん、実は私は界帝様から幾つかのメッセージを託されており、貴方を無事陣営にお迎えできた今こそ開示すべき機会なのですが、その内容はかなり衝撃的なものです……。
それでは単刀直入に始めさせて頂きますが、現在我々がその渦中にある、闘主なる有機物とも無機物とも判然とせぬ怪生物が率いる鳥人族及び三次元人で構成される異空遠征軍との果てなき抗争──その“真の原因”について述べさせて頂きましょうか……」
いきなり核心に切り込んできたルキロスに些か気圧されつつ、カップに満たされたほんのり甘い紅茶を連想させる温かな液体を一口含んだ白琅狂真は固い表情で次の言葉を待つ。
「ははは、まあそう身構えずリラックスして聞いてください。
一方、リゴレック統衞官には既知の話題が殆どだろうが、辛抱して聞いてもらえれば幸いだ──それではザビュヌよ、始めてくれ……」
飲料を持ってきたロボットが盆を小脇に抱えて卓の傍らに立ち、 「畏まりました」と耳に心地良い中性的な音声で応じ、聴き手の狂真に配慮したものが地上式に深々と一礼する。
「──それではお話させて頂きます。
さて、まず長らく謎とされてきた闘主の正体についてですが、実は4代目界帝様の時代──即ち現在からおよそ3200年前にこの3.5次元世界の侵略を期して深宇宙より襲来した半霊半肉の知的生命体の残党であることが〈界帝宮超古代資料室〉秘蔵の【万刻総覧盤】によって明らかとなっておりますが、その際に実にエクルーガ帝国民の実に1/4を死に追いやるという史上最悪の大災厄をもたらしたばかりか、現在に至るまで闘幻境と名付けられた〈永久交戦地帯〉の武力占拠を許してしまっているのは嘆かわしい現実であります。
ならば何ゆえに断固として殲滅せぬのかという問いに対しましては、先ほど申しましたとおり闘主自体がほぼ実体を有しておらず、侵攻当初より自律的破壊兵器や洗脳を含む強化改造措置を施した隷属生物を傀儡として用いるという戦法に徹しておるためで、これらをいかに撃破しようとも本体には文字通り掠り傷一つ負わせることができぬからなのです……」
「……」
「さて、現在ではほぼ純粋意識体へと進化(あるいは退化)した闘主がその用途で使役してきた生命体はおよそ6種に及びますが、地上時間に換算しておよそ20年前より闘主は史上最強の尖兵を獲得することに成功しました──もうお分かりでしょうが、それこそが三次元世界の覇者=地上人類なのです……!」
「たしかに……自分のことを棚に上げて言わせてもらうなら、これほど凶暴で執念深い〈戦闘種族〉は宇宙でも稀な存在じゃねえかな……」
こう呟いてカップの残りを飲み干した白琅狂真は、「ま、その中も無限に近えほどランク分けされちゃいるが……」と続け、二人のエクルーガ人は意味深な表情で頷く。
「大変興味深く、含蓄に富んだご指摘です。
ですが、地上人はたしかにこれ以上ないほどに強力な手駒ではありましたが、十数年後に闘主も予知し得なかったおそるべき事態が出来致しました──ゆくゆくは異空遠征軍の総司令…いいえ自己の分身として白羽の矢を立てた阿津間景之なる若者に対し、初めて憑依という形式を採って一体化を図ったものの、逆に彼の怪物的な精神力に圧服されて、あろうことか自身が下僕へと成り下がってしまったのですッ!!」




