第41話 狂獣児 STARTINGOVER④
界帝宮の内部構造は、まず〈基底部〉が中心に聳える初代界帝像を取り巻く形で直径500メートル超の円形広場になっており、外縁と巨像の丁度中間辺りに直径十数メートルの金色の巨柱が20本ほどグルリと取り巻いて天蓋を支え、それでも十分過ぎるスペースでは帝都民を楽しませるためのイベントが日替わりで催されるのであるが、本日は帝都少年団によるチーム対抗のロボットバトルトーナメントが盛大に開催されており、界帝像の足元にも設えられた、高さ20メートルの分厚い超硬化ガラスに囲まれた、一辺30メートル超の六角形の闘技台上では毒々しい紫色の、100本脚を不気味に蠢かせる全高15メートルほどの蜘蛛型ロボが更に奇怪な全長40メートル近いメタリックな銀色の百足型メカと絡み合いながら悪夢的な死闘を展開していた。
「ほええ……いきなり界帝様の両腿が目に飛び込んできたせいで気付かなかったが、足元でもどエラい光景が展開されてるじゃねえの……!
ひな壇状の客席もギッシリ満員だし、さぞや現場じゃ耳をつんざく大歓声が飛び交ってるんだろうな……」
「ははは、まあそれほどではありませんが、何しろ年に一度の【界帝杯】ですから民の熱狂は端倪すべからざるものがあるのは事実ですね──ちなみにこれから訪問する我が軍の兵器製造部門の責任者であられるゼスター=ルキロス特装軍器開発部副長官も帝国工学院少年部特級クラス時代にチームリーダーとして前人未到の5連覇を成し遂げられたものでした……」
「5、5連覇ですって!?
はぁ〜凄すぎる……文字通りの天才ですね……」
「仰るとおりです。まさに副長官こそはエクルーガ全史を通じても随一の天才機械工学者と申せましょう。
事実、あのお方が我が軍の進化発展に寄与された功績はまさに瞠目すべきものがあります──とはいえ敵もさるもの、闘主が創造したあの怪異なる鳥人族もほぼ同水準の技術力を擁するがため、ご存知のとおり闘幻境における戦局は完全なる膠着状態が固定化されてしまったのです。
ですが時局は変わりました。
これまで我が軍があえて抑制した武力で闘主軍(異空遠征軍)と渡り合っていたのは不幸にも動員された三次元人の殲滅は回避したいとの界帝様のご配慮であったのですが、白皇星メンバーに対する悪逆な所業からも窺えますように闘主はいよいよ本性を剥き出し、エクルーガとの決着を期すための総力戦を仕掛ける腹積もりのようです。
むろんこれは予想された事態であり、ルキロス副長官は敵の前線基地である超空大母艦はもとより、現在十数隻が確認され、更に増強の兆しがある鳥人族搭乗の戦闘艦を完全誅滅するための“確勝兵器”の完成を間近とされております……!」
冷静な語り口に秘められた焔のごとき戦意に触発されたか、もはや悪魔や死神と同一視するシュネビムへの殺意を改めて漲らせた狂獣児は拳を握りしめながら、『待ってろよバケモノめ──テメエだけは死んでも赦せねえ。たとえどんな手段を使っても必ずブチ殺してやるからな……!』と心中で宣告するのであった。
✦
界帝像の頭部を超えた途端に昇降機搭乗者の視界は黒く閉ざされてしまい、これより上方のエリアは中空設計ではないことを告げる。
『像の全長から判断すれば、現在界帝宮の1/5辺りまで上がったことになるな……だが建物の形がドーム型だから、このままだと昇降機が上限にブチ当たるはずだ──となるとそろそろ乗り換えかな?』
狂真の心中の呟きを肯定するかのように、統衞官が「着きました」と声をかけると同時に鋼の円筒が静かに停止した。
背後で扉が無音で開き、落ち着いた小豆色の床に足を踏み出して周囲を窺うと、入口に近い幅の廊下が緩やかに湾曲しながら遥かに続いている。
およそ200メートルも歩き、矩形の青い扉の前にドゥゼルが立つと、そのまま認証が完了してスッと開く。
彼に続いて入室する狂真は、界帝宮全体を統一する赤いトーンとは対照的なブルーの空間に軽い目眩を覚える。
およそ10畳ほどの、四方を隈無く本棚に囲まれた室内の奥には半月型の、壁よりも濃いコバルトブルーに彩られた分厚い鉱石製のデスクが設えられ、参謀部員とは異なるデザインの軍服に身を包んだ、やはり入念にセットされたブルーの髪の端正な中年紳士が立ち上がって出迎えてくれた。
「お忙しいところ時間を作って頂きまして恐縮です、副長官。
この若者が界帝様御自らエクルーガと三次元世界を繋ぐ【希望の鍵】の一人として選抜された白琅狂真氏です。
既にご存知のとおり、いよいよ目睫に迫りました闘主軍との〈最終決戦〉におきましても、敵の手の内を熟知する貴重な存在ならではの活躍が期待される、まさに我が軍にとっても希望の光と申せましょう。
しかも不幸なことに闘主の奸計によって敵対関係を強いられたこの数年間の交戦記録によって、白琅氏が空中戦でも白兵戦においても筆頭格に数えられる突出した戦士であることは証明されております──従いまして、将軍クラスのみに配備される新開発の【殲闘機甲】につきましても文句なしの有資格者でありますから、何卒善処をお願いしたく存じます──」
この言葉に頷いたルキロスは、穏やかな視線を一礼する狂真に向けた後、思わず聞き惚れてしまう深みのある美声で話しはじめる。
「──承知した。
白琅氏の生い立ちと我が陣営に加わるにあたっての経緯はユフェルス空戦師から詳細に伺っているが、一族ぐるみで異空間に拉したばかりかそこで終わりなき苦闘を強い、挙句の果ては生半な洗脳の域をはるかに超えた脳改造手術まで施して奴隷化を図った悪辣極まる手口には激しい憤りを覚えずにいられなかった。
もちろん喜んでご協力させて頂きますとも。
もしよければ、この場で幾つかある候補からじっくりと選んで頂こうか──そのつもりで現行の殲闘機甲全ヴァージョンを用意しておいたので……」
天才工学者がそこまで語った時、別室に続く扉が横にスライドしてルキロスと瓜二つのブルーの髪をなびかせた美少女が小走りで入室してきたが、脇目も振らず白琅狂真に突進した彼女は大きく右手を振り上げると、一切の逡巡なく彼の頬に強烈な平手打ちを炸裂させたのである!




