第36話 圧巻の影神団総帥!
阿津間景之と龍拳鬼の出現はほぼ同時であった。
まず母屋に接して設えられている物置小屋のスライド扉が開け放たれ、勢いよく飛び出してきた三体の全身を鮮やかな緑色の鱗に覆われた筋骨逞しい2メーター級の戦士──その頭部には長さ20センチほどの7本の黄色い角が生え出しており、獰猛な面構えは東洋の龍よりも西洋のドラゴンを彷彿させる。
剣等の武器は手にしておらず、両手首の青い金属製のリストバンド以外は装甲らしいものは纏っていなかったが、腰には左右4個ずつのポーチが取り付けられた黒いベルトが巻かれていた。
「──!」自分たちと同等のサイズを誇る敵の出現にラージェス親衛隊たちは即座に反応し、おそるべき超兵器である魔槍の穂先を一斉に突き付けるが、一体だけ異なる動きをする輩がいた。
あたかも盾のように三体の仲間を立たせ、背後で悠然と久堂亜美紗を抱き上げたノリス(かつてブレイブスターズに所属)とおぼしき隊員が翼をはためかせて地を蹴ったまさに刹那、突如真下に出現した金色の楕円形の光の塊からニュッと突き出した漆黒の怪腕がその右足首をガッチリと掴んでいたのである!
されど有翼戦士もさるもの、右腕に亜美紗を抱え直して左手で握った槍の先端を素早く景之に向けると、真空断裂波を放って腕ごとちぎり取ろうと目論む!
──シュパアアアアアッッ!!
されど必殺の見えざる刃が断ち割ってのけたのは芝土のみであり、およそ1メートル近い裂け目をノリスが確認した時、彼の特殊軽合金製のアーマーで保護されていたはずの右足首から先は消失していた!
「──勿体ないことをしたな。
大人しく着地していればよかったものを……!」
攻撃をかわすと同時に反撃に出た影神団総帥がいつもの冷徹な口調でこう言い捨てた時には黒く底光りする戦装衣で全身を固めた雄姿は露わとなっており、その右手に嵌められた籠手から滑り出しているのは長さ40センチ超の漆黒の二等辺三角形の刃【アイソスレスソード】であった!
されど強化改造によって痛覚を喪失させられているものか、ノリスは青紫色(!)の鮮血を滴らせながらも平然とした表情で戦場を後にしようとする……かに見えたが、それは叶わなかった──何故ならば、背中のモーターパックを起動して飛び上がった景之が左手(右と同様の籠手が装着されている)で彼の左翼をむんずと掴み、間髪入れず真ん中付近から寸断してしまっていたからだ!
しかも非情な攻撃はそれに留まらず、かつての異空遠征軍メンバーの首の裏にあたかも装甲など存在しないかのように10センチ近く刃先を埋めると、一気に腰の辺りまで斬り下ろして多大なダメージを与えるのだった。
こうして無言のまま3メートルほどの高さから墜落するエクルーガの尖兵であったが、既にその手中に獲物は無く、“夫”の左腕にしっかりと抱き抱えられていた。
『血液の色まで変化しているとは……想像以上の魔改造ぶりだな。
だがおそらく何よりも激変しているのは彼の内面だろう──とはいえオレの一存だけでコイツにトドメを刺す訳にもいかん、やはり艦長を通じてかつての指導者の最終判断を仰がねば……。
ん?まだ動く気なのか、全く驚くべき生命力…というか馬力だよッ!』
一旦地面に四つん這いになったノリスは、負傷前とは比較にならぬスローモーな動きで魔槍を敵に向けて構えようとするが、急降下した漆黒の戦士の凄まじいパワーで得物を蹴り飛ばされ、そのまま軌道を変えた爪先で顎に痛烈な一撃を食らって5メートル近くもブッ飛ぶと、ついでのように地面で後頭部を痛打して動かなくなる。
その頃には他の親衛隊員どもも凄まじいスピードで飛びかかってきた龍拳鬼らと大乱闘になっていたが、たちまち後者が残らず前者に馬乗りになってのけたことからも格闘能力の差は歴然としていた。
──ガシッ!ズガッ!バキッ!!
その名にふさわしく彼らの拳は異様に大きく、その破壊力も端倪すべからざるものがあるようで、顔面を執拗に狙うマウントパンチによって堅牢な青い半透明のフェースカバーにはピシピシと無残な亀裂が走る。
この光景を見下ろして半ば勝利を確信した阿津間景之であったが、陥穽は思わぬ所で待ち構えていた──持ち主の手から離れて芝上に転がっていた4本の魔槍がすーっと先端から持ち上がり、超高熱波を発射してきたのだ!
「ちいいいいッ!」
驚異的な反射神経で左へ飛び退きながら揃えた右手の指先をノリスの魔槍に向けると、青白い殲光弾が連続発射されて物騒な携行兵器をダイナミックに爆裂させる。
なお、この発射形式は影神団の宿敵であった死神将軍にインスパイアされて導入されたものであるが、これまで馴染んできた殲光弾銃も今のところ廃止には至らず予備兵器として引き続き使用されてはいたものの、総帥たる彼だけは独自の判断によって腰のベルトごとホルスターを除去していたのだった。
──されど油断があったか或いは根本的な判断能力が備わっておらず対応し切れなかったかは定かではないが、三体の龍拳鬼たちは尽く死の熱線を浴びてしまい、ある者は運悪く心臓部を直撃されて敵に覆い被さるように崩れ落ち、他の二体は即死こそ免れたものの、苦痛ではなく体内機構の破損による機能障害で地面を転げ回るハメとなってしまう。
『クッ、つまりあの槍こそが刺客の〈本体〉だということかッ!?
しかも生き残った龍拳鬼へのトドメを差し置いて攻撃対象をオレに絞ったものとみえ、3本の槍がこちらに向けられたな。
だが亜美紗を抱えている以上、あの熱線に毛筋ほどもこの身を掠らせる訳にはいかんッ!
かくなる上はモーターパックを一基オシャカにするつもりでフルスロットルの〈稲妻飛行〉を敢行し、我が掃射技術に運命を委ねるしかなかろうなッッ!!』
かくて右手の刃を収めた阿津間景之が腰のコントロールボックスに指をかけようとした時であった──3本の魔槍が同時に白光に包まれ、腹に響く爆音と共に砕け散ったのは!
「やれやれ、結局彼らの手を煩わせてしまったか…しかもリーダー格のバローギ氏まで戦装衣に身を固め、殲光弾ライフル片手にお出ましとはね……。
ま、光栄っちゃ光栄だが、親父を地下に置き去りにして大丈夫なのかな……!?」




