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侵略者に愛されて……  作者: 尾岐多聞
第3章 総力戦の果てに待つもの

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第35話 地底の虜囚、涙の弁明

「わ、わたくしが敵のスパイですって!?

 そんなバカな……ど、どうして顧問(サロン内における不知火への呼称)がそのようなことを仰るのか全く理解できませんわ……!」


 白い容貌を更に青ざめさせて抗弁する幹部会員に憐憫の眼差しを送りつつリオルグ=ユフェルスが左親指と中指をパチンと鳴らすや、消灯された薄暗い部屋の一角に置かれてあった円筒形のブリキ製ゴミ箱?からカサカサと微かな音がして()()()()()()()()()があった。


 その後、不気味極まるヌメヌメした光沢を放つソイツは音も無く床を這い進み、三人が腰掛けるソファへと背後から忍び寄るが、敏感に察した名越ひろみが首を捻って視線を向けると同時にけたたましい悲鳴を上げる。


「いやああぁッ!来ないでッ!!」


 その声音に込められた魂の奥底からの拒絶感も尤もといえた──何故ならそれは、かつて不知火がサロン会員につきまとう変質者(ストーカー)退治に用いた漆黒の巨大ミミズであったのだから!


「ふむ、それでは一旦ストップするか……」


 再びリオルグが指を鳴らすと残り2メートル付近に迫っていた怪生物の進行はピタリと止まり、不気味にもクルリとトグロを巻いて待機姿勢?を取るのだった。


「ひとまずリクエストに応えて差し上げたが、キミが虚言を弄していると確信できた時点で()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、その点はOKだろうね?


 ──それでは思う存分〈弁明〉を開始してくれたまえ……」


 異世界からの侵略者による非情な宣告を受けて影神団員の沈黙は十数秒ほども続いたが、意を決したように微かに震える口調で語り始める。


「実はわたくしは脅迫されていたのです──影神団総帥とその内縁の妻である高校時代の先輩・久堂亜美紗に……!」


「脅迫だって?それはそれは、大いにこちらの意表を突く返答だが……」


 苦笑しながら火乃崎と顔を見合わせる不知火をキッと睨み据えた名越ひろみは、一瀉千里といった勢いで憎悪も露わに“影神団の妖姫”を糾弾する。


「ですが、まさにそれが真相なのですッ!

 元来あの女は他者を意のままに動かすために色仕掛けで籠絡した男どもの暴力をチラつかせるのを常套手段としておりましたが、もとよりわたくし自身はダークネスリングに何の関心もなく、ただただ巳琴(広野由紀子)()のこの世のものならぬ魅力の虜となって夕星城(バンド)をフォローしている内に、今でも信じられぬ僥倖に恵まれてあの方と恋仲(パートナー)になるという夢が叶ったのですけれども、魔女の嗅覚で忽ちそれを(さと)った久堂はすぐに腹心の松島朋徳を使ってわたくしにDRへの加入を強要し、あろうことか気の許せぬ男性メンバーに代わって自身のボディガードに用立てるべく空手道場への入門をも迫ってきたのです!

 むろんそれを拒んだ場合は巳琴様との仲を力ずくで裂くと宣言した上で……!

 どうかお察し下さい、わたくしがいかなる想いであの女の魔手に絡め取られてしまったのかを──それは誇張ではなく文字通り地獄の決断でございましたが、巳琴様に身魂を捧げ尽くしていたわたくしに他の選択肢はなかったのでございます……!」


 ひろみの声色は語尾に至って嗚咽混じりとなっていたが、その潤んだ眼差しの真摯さはとても演技とは思われぬ。


「なるほど、それでDRが影神団と文字通りの〈悪魔合体〉を果たしてからは阿津間の走狗となることを強いられているという訳か……」


 腕組みしたまま瞑目して小さく頷く不知火だが、傍らの火乃崎はアルコールで紅潮した顔面を不快そうにしかめ、尖った声で詰問する。


「そんで命令に背く場合は、恋人の身の安全は保証せんっちゅう訳か──たしかに尤もらしい言い草やけどな、今日までキミが唯々諾々とあの二人に付き従ってきたのは紛れもない事実やないんか?

 それに言っとくけどな、顧問もワイもつい今しがたキミを疑い始めた訳とちゃうで?

 せやな、最初に怪しいと思うたんは記念すべき第一回の【真紅(くれない)の秘蹟】の直後や……あん時、キミは五人の会員に執拗に界帝様とキリクシカ(エクルーガの帝都)を目にしての感想をインタビューしよったやろ?

 その理由として『あのアンビリバボーな情景を目にしたのが自分だけだとしたらあまりにも恐ろしすぎるので他のメンバーが何を()たか詳細に知りたい』ちゅうとったそうやけど、そんならせいぜい一人か二人に留めとくべきやったな。

 何ぼ何でもそれだけの人数に内容はおろか感想まで訊ねるっちゅうんは、情報収集の嫌疑をかけられてもしゃーないっちゅうもんやで……!

 せやから報告を受けたワイは直ちに顧問の意見も伺ってキミを〈特級監視対象〉としてマークしてやな、特に自家用車内で駐車する度、手首に巻いた奇妙な端末(デバイス)を通じて頻繁に()()()と連絡し合っとる事実も掴んどるんぞ……」


ここで不知火が目を閉じたまま「さすがに警戒したのか、ここへは身に着けて来なかったようだね」と口を挟む。


「……」完全に血の気を失い、身に着けたパーカーの如き顔色となって俯いたひろみは、唇を噛みつつ膝のズボン生地を握りしめながら細かく全身を震わせている。


 酩酊時の通例であるコテコテの関西弁(普段は努めて標準語なのだ)を気持ち良さげに弄しながら、〈エクスタシーキャンプサロン〉代表は半ば恍惚の表情で“疑惑の同志”にこう決断を促す。


「そんで常に盗聴されとらんか怯えとったんやろ、文字送信でやりとりしていたそうやけ残念ながら内容までは把握できちゃおらんが、こんだけ状況証拠が揃やぁ十分やろ。

 つまり現在のキミは亜美紗と同様に我々の捕虜となった訳や……とはいえこの数ヶ月間の働きを見ていてカンタンに始末してしまうには惜しい人材であることは認めざるを得ん。

 そこでや、ご執心の巳琴()()は責任を持って当方にお迎えするさかい、正式に我が不知火軍団に加わってもらうっちゅう訳にはいかんやろか?

 もしこの話に乗ってくれるんなら、軍団ではワイに続くNo.3、せえでFM(サロン)じゃ副代表のポストを用意できるんじゃがの──ん?顧問、どないされました?」


 これまで眠ったかのように深く背凭れに身を預けていたリオルグ=ユフェルスが薄目を開いて画面に見入ったのを訝しげに見咎めた火乃崎にもたらされた返事は()()()()()()()()()()()()を帯びていた。


「実はさっきから念話(テレパシー)でノリス氏に久堂嬢の搬送を要請し続けていたのだが、何者かによる強力な妨害によって通信そのものが遮断されてしまってね…むろん〈犯人〉が誰かは明白だが、ようやくご降臨されたようだ──とはいえいかに“最強”の冠を戴くとはいえ、一介の戦士がここまでの〈環境支配力〉を行使できるものか?

 やはり界帝がご懸念されていたように、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ということなのかもしれんな……!」











 


 

 


 


 



 


 

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