第32話 最凶鳥人来襲!!②
「キサマがラージェスか……放せと言っても聞くはずもないが、亜美紗を一体どうするつもりだッ!?」
鬼火の様な怒気と鋭刃の切先の如き殺気を込めて詰め寄る阿津間景之に対し、影神団の妖姫を手中に収めた最凶鳥人は酷烈にして傲岸無比な性格と底知れぬ魔力の保持者であることを否が応でも感得させる、金属的で高圧的な響きの声色でこう応じた。
「クックックッ……まあ落ち着きたまえ影神団総帥よ。
そもそも君たち自身も我々への襲撃を企んでいたのだからこの先制攻撃を謗られる謂れはないと思うがね……!
しかもだ、いかに地上戦に向けての組織の再編成に追われていた矢先とはいえ、軍団の切り札ともいうべき秘密兵器の開発現場に麾下の戦士を配することすら怠っているとはあまりにも我ら遠征軍を舐めた姿勢と嘲笑…いや憫笑せざるを得んのだがな……」
まさに一語も反論する術の無い指摘であったが、景之としてはいきなり大将格が抗争の先陣を切ろうとは完全に想定外の事態なのであった。
とはいえ万一に備え、研究所の周囲には隠形化を施した十数機もの闘幻境仕様の天眼鳥が密かに旋回していたはず──しかしどうやらそれらはエクルーガの超技術によって撃墜されたか或いは無力化されてしまったと見做さざるを得ぬようであった……。
「たしかに油断していた──むろん研究所に逗留している三人は優秀な機械技師であると同時に勇猛な戦士でもあるがゆえに尚の事妙な安心感があったのも事実だが……。
しかしこちらの耳にも届いているように地下工場にも緊急事態を告げる非常ベルが鳴り響いているはずだッ!ラージェスよ、このまま亜美紗を連れて逃げ遂せると思ったら大間違いだぞッッ!!」
されどこの宣告に最凶鳥人は更なる嘲笑を以て応える。
「ふはははははッ、そもそも幾重もの陥穽が予想される敵陣に私が単身で乗り込むとでも?
まあ地上時間に換算しておよそ3ヶ月前に来訪してからこの時まで三次元世界における同志である火乃崎氏の邸宅に籠もっていたものだから運動不足解消の意味合いもあって自らの翼でここへお邪魔した次第だが、さすがに手ぶらでやって来た訳ではない──既に故郷において完成させていた我が親衛隊の一部を帯同しておるわ。
いずれ貴殿とも直接対面することになろうが、エクルーガの高邁な騎士道精神に則ってここでお目にかけておくとしようか……」
自らが破壊した窓に向かって最凶鳥人が軽く嘴をしゃくると、主に匹敵するみごとな体格を有し、奇怪にも青白い皮膚の同じ顔(鳥ではなく彫りの深い顔立ちの人面)を持ち、揃いの白銀の兜と鎧を装着した四体の有翼の戦士たちがその背後にズラリと居並ぶ。
彼らは皆右手にメタリックな光沢を放つ身の丈よりも長い、半透明の楔形の先端部を取り付けた銀の槍?を握りしめており、不気味な無表情で抹殺対象である影神団総帥を凝視してくるのであった。
「どうやらソイツは戦国時代の雑兵が使ってたような単なる槍って訳じゃなさそうだな……!?」
「はははッ、むろんだよ……!
だが彼らの凄まじい剛力によって振るわれることで最も原始的な使用法である打突斬撃においても一撃必殺の破滅的な威力を発揮することは請け合ってよいが、その本領は決して自賛ではなく携帯兵器としては殆ど究極レベルといえるであろう“五大破壊力線発射能力”にある──即ち超高熱線・極冷凍嵐・超高圧電撃・真空断裂波・超振動崩壊波というね……!
しかも先頃実験してみたところでは、喜ばしいことに、どうやらこの三次元世界においては我が故郷よりもその破壊力が一つ残らず増大しているようなのだよ……!!
という訳で、早速我が軍からの親愛の証として尊敬すべき市井の大碩学である阿津間博士と我が同胞たち、そして彼らの労力の結晶である最終兵器とやらに味わって頂こうと思うのだが、どんなものだろうね?──むおッ、何だアレはッ!?」
得意満面で自慢話に興じていたラージェスが視線を上に転じたことで、研究所の全てを熟知する景之は“ミクロの防衛部隊”ともいうべき【棘蜘蛛】が一斉出動したことを悟った。
見よ、十二畳ほどのリビングの天井資材であるカラマツの羽目板はいつの間にか三百匹は下らぬであろう幼児の握り拳ほどの黒い蜘蛛どもによって埋め尽くされ、ソイツらは侵入者の一瞥を合図にしたかのようにワラワラと落下してきたのだ!
「──ちいいッ!
何という汚らわしくも愚かな手管を使うものだッ、標的たる私はともかくこの久堂亜美紗の美肌にその毒棘がいかなる影響を及ぼすか念頭にも浮かばぬのかッッ!?」
背の双翼を羽撃かせ、素早く窓外に逃れたラージェス──されど天眼鳥と並ぶこの鳥人族工学の精華は、禍々しい外観とは裏腹に照準された標的のみを正確無比に攻撃するのであった──即ちこの場合は絶対の庇護対象である亜美紗には毛ほども触れることなく、最凶鳥人の露出された肉体のみを!
「ぐわははははッ!なるほどなッ、道を誤りし我が同胞たちによるいじましいまでの手仕事の成果物がこれかッ!!
されど惜しいかな、この手の建屋の通例として天井がなまじ高く設計されているがゆえに易々と安全圏に脱出することができたわッッ!!」
10メートル近い高空から勝ち誇ったかのように叫ぶラージェスであったが、既に椅子から立ち上がっていた影神団総帥は無人となった画面をもはや見つめることはなく、特殊映写機を元あった位置に戻してからカプセルの右側面に仕込まれた隠しボタンを押す。
「そうはいかんよ……大男、総身に知恵が回りかねの諺ではないが、既にキサマの硬質化した偉そうなトサカには軽く見積もっても7匹もの蜘蛛どもが取り付いているぜ……。
むろんその躰には生体強化措置が施されていようから死に至らしめることはできまいが、オレがそちらに向かうまで戦闘不能状態に陥らせるくらいは可能だろう──それに我が最愛の妻の命に関わる以上、空中で事切れてもらっちゃ困るんだよ……!」
紫色の生命維持カプセルが画面の下部から音も無く観音開きとなると内部から闘主が発するのと同様の眩い金色の光が溢れ出し、阿津間景之はあたかも船縁から海に飛び込むダイバーの様に背中から身を躍らせた──!




