第31話 最凶鳥人来襲!!①
景之らの父で、一介の個人投資家ながら先端技術方面への並々ならぬ関心を抱き、それが昂じて独学で“異端のロボット工学者”として通用するほどの知見を有するに至った阿津間景太郎がその能力を買われて闘主と邂逅したのが約9年前であり、直後に一家揃って闘幻境へと拉せられてエクルーガという危険極まる異世界人の存在を目の当たりにし、更にその脅威が地上世界へと迫っていることを痛感させられた後に同じく白羽の矢を立てられていた元私立探偵の白琅龍侍とは別に日本発の異空遠征軍を結成した彼は、闘主の指示によって影神団総帥には最初から類稀なる資質の主とされる嫡男を据え、自身は闘幻境と地上を往復して直接的な戦闘には殆ど関わることなく鳥人族の技術陣と連携して遠征軍の切り札となり得る秘密兵器の開発に勤しんできたのであったが、彼らが擁する超技術をもってすれば少年時よりの夢想の対象であった〈巨大有人戦闘ロボ〉も実現可能との手応えを得て設計に没頭し、実に6年の歳月を閲してついに完成の時を迎えんとしていたのである!
その研究拠点は愛媛と彼の故郷である高知の県境に広がる、標高千メートル超の四国カルストの一部である天狗高原の麓に位置しており、白石灰岩と牛が放牧される緑の草原は“日本のスイス”と称揚されるにふさわしい美しさで都会育ちである亜美紗に新鮮な感情を味わわせてくれたが、何よりも彼女を魅了したのは我が国屈指と賞賛される星空の美しさだった。
元々星好き(それは後年結成した耽美系ロックバンドの名からも窺える)で、幼少期からUFOも頻繁に目撃してきた彼女は一時天文学者を夢見た事もあったが、僅か12歳で最愛の母を奔放な父の異性関係に悩み抜いた挙句の自死によって喪うという絶望のどん底に叩き落とされてからの数年間は後を追うことばかりを考え、事実何度か実行を図ったことすらあったのだが、幸いにも母方の祖父母の深い愛情に包まれて何とか無事に青春を謳歌するに至った。
されど死神の爪は未だ彼女を放すことはなく、高校卒業を目前に控えた晩冬、老夫婦は慣習であった連れ立っての散歩中に信号無視で突っ込んできた脱法ドラッグ中毒者による暴走車の犠牲となってしまったのである!
この痛恨事によって完全に闇落ちしてしまった亜美紗は、彼らが用意してくれていた進学費用と保険金で“誰にも侵されぬ、自分だけの王国”ダークネスリングをたった一人で立ち上げ、生来の卓越したカリスマ性と独自の美意識によって瞬く間に九州、いや西日本随一といっても過言ではないあらゆるゴス文化を包摂する一大サークルの女王へと上り詰めたのであった。
そして迎えた、4年前の阿津間景之との邂逅──闘主を名乗る超自然的存在によって託された、この世の誰とも異なる使命を帯びて行動する謎の美青年が果たして彼女の運命を呪縛してきた“死神の一味”でないという保証はどこにもなかったが、それでも彼の手引きによって“3.5次元世界の脅威”を身を以て経験した亜美紗はその志への全面的な共感と同時に幼時から夢見てきた〈王子様〉の幻影を阿津間景之という人物に重ね合わせて熱烈に愛してしまい、今では彼が信奉する大義に自らも殉ずる覚悟を完全に固めていたのである──。
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「……こんなことを言ったら嗤われるかもしれないけど、私毎晩星空に祈ってるのよ、影神団──いいえ異空遠征軍全員の無事とできるだけ早期の勝利を……!
でもやっぱり“狂獣児”の異名は伊達ではなかったみたいね…とうとう恐れていたことが現実に起こってしまったわ……もちろん闘主様のご方針によって直接の面識こそ無かったけれど、彼の実力が突出したものであるのはシュネビム艦長から提供された記録映像のよって強かに認識させられていたし……。
それがひょっとすると余計にタチの悪い“エクルーガ版紺堂”となって影神団の前に立ち塞がってこようとはね──尤も豪胆なあなたは平気なのかもしれないけど、私個人はとんでもなく危機感を持ってるわ……他の誰よりも、白琅狂真だけは地上に舞い戻らせちゃダメだと思う…ましてや魔改造されてるとしたら尚更……!
ねえ総帥、対策としてどんな手を打つつもりなの?
これは確信をもって言うんだけど、紺堂クラスじゃ絶対に狂真を止めることはできないわよ……!!」
最愛の妻の憂慮に満ちた眼差しを浴びながら、阿津間景之はあくまでクールながら盤石の決意を込めて断言する。
「たしかに奴と不知火を組ませることだけは何としても阻止せねばならん。
しかしついさっきキミも耳にしただろう、シュネビム艦長のアイツへの漆黒の焔のごとき憤怒と憎悪を……!
長年の盟友であるオレに言わせてもらえば、艦長はあの獲物を我々に譲るつもりはさらさら無さそうだ──これは極端な表現になるが、最悪の場合刺し違えてでも鳥人族の長としての誇りを深く傷つけたあのク◯ガキの息の根を止めるつもりだろうと確信している。
だから影神団としてはその心意気に応えるためにも、そして呪われし悪魔同士の共闘を阻止するためにも確実に不知火…リオルグ=ユフェルスを討伐しておかねばならん──うん?どうしたんだ!?何かあったのかッ!?」
紫のフード付きパーカーにタイトなジーンズという、数年前には考えられないカジュアルな装いの亜美紗が現在居るのはおよそ150坪の敷地に建つコテージ風山荘の一階リビングであり、岡山市南区の古民家に鎮座する〈生命維持カプセル〉の顔部分に目下夫と対話している鳥人族製の卓上通信デバイスのカメラを通じて映像を送信している訳だが、何か窓外に只ならぬ異変を察知したものか、瞳を大きく見開き、美しい横顔を瞬時に凍り付かせてしまったのだ!
「亜美紗ッ、一体何があったんだッッ!?」
他の影神団メンバーが耳にすれば仰天するであろう感情剥き出しの絶叫を景之が迸らせたまさにその瞬間、激しい音を響かせて窓ガラスが砕け散り、久堂亜美紗は悲鳴を上げながら顔を覆って飛び退いた──かに見えたのだが、突如として画面に乱入してきた燃え盛る焔のごとき鮮やかな朱色に染め上げられた肉体を赤銅色の鎧で包み込んだ、身長2メートルに悠々達するであろう大柄な鳥人がその筋骨逞しい両腕で一瞬にして意識を失った彼女を抱え上げていたのである!




