第27話 影神団、光と闇の宴⑤
閉め切った和室で闘主からの個人レッスンを30分程で切り上げ、消耗し尽くした阿津間景充が這うようにして階段を上って自室に双玄魔爪をしまってからキッチンに向かうと、パジャマ姿の末弟・景彦が3年来の朝の常食である牛乳をブッかけたシリアルを右手のスプーンで機械的に口に運びながら片手で器用に携帯ゲーム機を操作していた。
「──殆ど徹夜でプレイしてんだろ……よく飽きねえな、ゲームもそれからメシも……」
食器棚から出したプロテインシェイカーをテーブルに置き、冷蔵庫からミネラルウォーターとプロテインを取り出しながら皮肉ではなくマジで感心しているらしい四つ違いの兄に視線も向けず、
「ま、人の好みはそれぞれだからネ。ボクに限って言うと、この2つに関しては未来永劫その心配はないサ……」
としたり顔で宣った直後に「バカがっ、何やってんだヨッ!」と寝グセの頭を掻きむしって顔をしかめてみせる。
「へえ、オマエがフレンドを罵るのは珍しいな……とにかく足を引っ張られるのがイヤだから自分より格上の相手としか組まないんじゃなかったのかよ?」
まずシェイカーに水を注ぎ、パックからスプーンで掬い上げた好物のバナナフレーバーを放り込みながら問う景充をうるさそうにジロリと睨み上げた景彦は、
「ボクだって好きでコイツと組んでる訳じゃないサ……でもリーサルローズ(所属するギルド)内の競争でヴォルテックス(世界的なゲームプラットフォーム)配信の頻度を上げるには避けて通れないミッションなんだヨ……」
と唇を尖らせる。
「ふーん、そうなのか?
たしかオマエが普段やってんのは『龍姫学園地球防衛部』とかいうバトルと恋愛のミックスゲーだったよな……何か海外ゲーマーって殺伐とした戦争物とかを好む硬派なイメージがあるけど、ああいう萌え系のコンテンツでも受けんのかよ?」
シェイカーをシャカシャカ撹拌しながら放たれた門外漢からの的外れも甚だしい愚問に、景彦は画面に視線を戻しながら殺意すら込めた低い声でこう応える。
「……一体いつの話してんのサ?
恋愛モードの比重が高かったのはせいぜい第2部の〈聖夜の血戦記編〉までで、5回のバージョンアップを経た今じゃ業界屈指のハードなアクションRPGに大進化してるヨ……それに他の奴は知らんけどボクにとって『龍姫』の魅力は言葉にし尽くせないほどのモンなんでネ、国内外に関わりなく第三者に評価してもらう必要なんてないのヨ……。
ま、強いて人の目が気になるとしたらあくまでもメンバーのものだけで、しかもそれはボクだけじゃなくてみ〜んなそうらしいゼ……」
「でもよ、リーサルローズっていや結構有名なギルドで、ゲーム特化のヴォルテックスに留まらず更にハードルが高えOurPipe(世界最大の動画サイト)でもそれなりの再生数稼いでんじゃん?
尤もその人気はアバターに頼らねえ凄腕の美女軍団にあるってのが真相らしいが……。
オッソロシイことにゲーム無しのオリジナル楽曲のみのライブですらそこそこのハコが即日完売ってんだから凄えよな……。
つまり、オマエら〈少年部〉が目指してんのは憧れのお姉様方との共演チャンスって訳か──でもよ、そーなったらなったでマドンナの信者どもから凄えヘイト買うんじゃね?
一応ここで釘を差しとくがな、くれぐれも住所特定されるなんてヘマだけはしてくれんなよ……!」
こう告げて出来上がった朝食を豪快に喉に流し込む兄に「あ〜い……でもまあこんな辺鄙なド田舎くんだりまでわざわざ刺しに来る奇特な野郎はいないと思うけどネェ……てかヤなこと思い出させないでヨ……千葉に住んでた頃は優待券もらえて皆勤してて、新潟の時までは半分以下のペースにゃなったけど何とか踏ん張ったのにサ、何の因果かとうとうこんな僻地に連れて来られちまったんじゃ、もはや割引無しのメンバー限定配信しか拝む術が無いんだゼ……」とドス黒い怨嗟を込めた返事を返した途端、
「コイツホントに使えねえな……三郷サンの従兄弟じゃなかったら、マジで生まれてきたことを後悔するほどディスってやるんだけど……」
と悪態を吐きながらも右手のスプーンは些かも遅滞させずにシリアルを平らげ、硝子容器を掲げて底に残った牛乳を飲み干した景彦は、
「もうガマンの限界だッ!こんな奴に構ってると貴重な休日がブッ潰れちまう──たとえ三郷サンにどう思われたっていい……それこそ誰もが恐れる二時間超えの説教でも甘んじて受けてやるッ!
そもそもリーサルローズの不文律は“力と美無き者は去れ”であったはず──もちろん香蓮様の従兄弟なんだからヴィジュアルは悪い訳ない(ボク以上だとは断じて認めん!)けど、コイツには絶望的なまでにセンスが無いッ!!
つまり脱落は完全に自業自得──さっさと見殺しにしてソロモードで(防衛部の)部室爆破を目論む“凶星ザノンからの転校生”鏑木を“太陽剣”シャインカリバーでギタギタにしてやるかッ!!」
『二時間超えの説教でも甘んじて受けるって……笑わせるぜ、それがお目当てのクセに。
それによ、オマエ中学一年の段階で早くも引きこもりに突入してるんだから毎日が日曜みたいなモンだろうが……全く兄貴もどうかしてるぜ、“いずれ景彦には奴にしかできんやり方で影神団に貢献してもらう”つってたけど、オレの知る限り闘主様からコイツの名が出たことはねえし、少なくともエクルーガと真っ正面からぶつかるなんてことは金輪際不可能だろう──まさか“好きこそものの上手なれ精神”で世界的なゲーム配信者かプロゲーマーに育て上げて資金面でチームを支えさせようとしてんのかな?しかしそれは違う意味で到底無理ゲーな話だろうぜ……』




