第24話 影神団、光と闇の宴②
「──!?
で、ですが魔薬によるその幻覚がエクルーガ中枢の光景を精確に写し取ったものだとしても、たかが1個人が運営する“キャンプ同好会”のメンバーたちに視せたところでどれほどの効果が……はっ!?も、もしやそこで界帝とやらから何らかの啓示が与えられたということなのですかッ!?」
冴木晶馬の疑問に「いや」と微かに首を振った阿津間景之は椅子から立ち上がるとカーテンを開き、朝日に染まった荒れ果てた小庭を見下ろしながら抑えた口調で見解を披瀝する。
「むろんこの貴重な情報は実際にお猪口ほどの大きさの硝子容器に満たされた血のように赤い液体状の魔薬を服用した勇敢な潜入者によってもたらされたのだが、残念ながら彼女の記憶はそこで途切れてしまったという……しかし会が終了した後、気心の知れた五人のメンバー(男女比3:2)の告白によって全員が同じ映像を視せられ、界帝を垣間見た瞬間から以降の記憶が消え果てているというんだな……。
冴木君、今から私が話すことはあくまで推測に過ぎんが、かなり信憑性が高いと個人的には思っている──つまり界帝は催眠下に置いた謁見者の深層意識に直接何らかの暗示を刻み込み、いざその時に至ればこの〈サイコプログラム〉を一斉に起動させんと意図しているのではないかと……むろんそれは単発ではなく、目的ごとに細分化されて潜在意識にアーカイブされてしまったものと思われる。
ではその目的とは何か?
おそらく最初期に限っては破壊的なものではないはずだ──それこそ不知火の意を汲んだ火乃崎が主導する牧歌的なキャンプ活動を謳歌することでまずはメンバー間の絆をがっちりと固めることから始めると思う。
しかし、その絆はすぐに単なる友情の域を遥かに逸脱した“狂信者の血盟”へと変貌するはずだ……!
つまり、敵が企図した〈本番〉はここから始まる──しかもおそるべきことに、魔薬服用者たちは皆一様に“未知の怪奇都市”と“真紅の仮面魔人”に対し、誇張抜きに魂の奥底が打ち震える、狂おしいほどの慕情に駆られたというんだ……もちろん闘主から直々に技法を伝授された久堂君から懇切な心理訓練を受け、会合後には必ず夢を利用した〈脱洗脳措置〉を闘主ご自身から受けることによって彼女の精神はすこぶる正常に保たれているが、他の人々は……残念だが、このままでは彼らが呪われし侵略者の手足として利用され尽くす未来が待っているのはほぼ間違いあるまい……」
「……」暗澹たる状況に声も出ない晶馬に代わって、“DLの女王”が驚くべき〈対抗措置〉を語り始める。
「冴木さん、あなたなら当然理解しているように、この点について闘主様にお伺いを立てても決して答えは返ってこないわ……何故ならばエクルーガとの戦いはあくまでも存亡の危機に直面する三次元人自身が全存在を賭して対峙せねばならぬ難題であって、あのお方はあくまでもその想いに感ずるところあって支援して下さる外部的な超越的存在なのだから……。
残念ながら影神団に予知能力者はいないから敵が暗闇の中で計画し密かに実行してくる数々の侵略行為を事前に見透すことは不可能だけれど、大枠は総帥が述べられた通りであろうと私も確信しています。
とはいえここで手を拱いていては“侵略将軍”の思う壺でしょうから、不知火の出鼻を挫く意味でもこちらから先制攻撃をかけることにしました……!」
「こちらから攻撃を?
ですが、そうなると標的はむろん不知火に絞るということに……!?」
さすがに意表を突かれたものとみえ鳳凰陣リーダーの声は驚愕に上ずっているが、影神団総帥は何故かカーテンを引いて室内を薄闇に戻しながら宣言する。
「──いや、両方だ。
むろん火乃崎の方はあくまで今のところは一般人だから度を越して責め立てるつもりはないが、決して無防備な状態ではなく盟友から何らかのエクルーガ仕込みの武装アイテムを供与されているはず……それを探る意味でも奴に関しては百戦錬磨の吉岡君と松島君に手合わせを願うことにした。
一方、本命の不知火については新リーダーの威厳を示すためにも景充にやらせるつもりだ──まあ尤も、さすがに強敵相手の初陣で苦戦は免れぬであろうから、予期せぬ事態に備えて師の帯刀君にも同行願うつもりだが……!」
「……なるほど……」
ここで窓から視線を左に動かした影神団総帥は、椅子とカーテンを除けば殺風景な室内の唯一の備品といえる、台座に乗った黒い板を部屋の隅から取り上げて椅子に戻る。
「済まないが、乗せさせてもらうよ……」
瞳を覗き込むようにして断りを入れる景之に、「ええ、どうぞ」と微笑みながら応じる亜美紗。
こうして謎のカプセル上に台座が据えられ、板=12インチほどの画面が冴木晶馬に向けられる。
「気のせいかキミの声の響きから拙速を咎めるような感じを受けたもので、ならば襲撃の根拠をお目にかけようと思う。
これは火乃崎のアジトを見張らせていた天眼鳥がひと月ほど前に送信してきた映像なのだが、中々興味深い内容だ──これを見た時、さすがの私ももはや一瞬の猶予もならぬと決定的な危機感を覚えざるを得なかった。
なおこの後すぐ例の潜入者にこの件を知らせて意見を聞いてみたのだが、賢明な彼女は早速絵解きをしてくれた──というのは、執拗なストーカー被害に苦悩する女性会員が火乃崎に相談を持ちかけたところ、彼は速やかな解決を確約しそれはみごとに果たされたというのだが、どうやら今から映し出されるのがその場面らしいのだ。
では始めるぞ……」




