第22話 白琅狂真─運命の決断④
「叔父貴……分かったぜ……。
この躰以外にゃ何もねえオレたちが奴らに牙を剥くにはこの獣道を突き進むしかねえんだってことがな……!」
腹の底から絞り出した白琅狂真畢生の“転向宣言”を嘲笑うかのようにシュネビムがこう宣告する。
“ほほう……唯一の懸案であった叔父への情を、体よく向こうから断ち切ってくれたお陰で後は随分都合よく事が運ぶと考えているようだがそうはいかんぞ……!
とはいえ若いにも関わらず救いようのない健忘症に冒されているようであるから、キサマという存在の生殺与奪はあくまでも勇気の翼が握っているということを人生の最期に思い出させてやるかな……”
“──狂真様ッ、緊急脱出して下さいッ!
シュネビムは貴方の戦闘機を爆破するつもりですッ!!”
エクルーガ独自の通信チャンネルを閃王の交信システムに強制介入させたらしいコニアの忠告を聞き終わるより迅く、白琅狂真の躰はキャノピーと共に機体を離脱していた!
“ちいッ!この裏切り者めが、鳥人族の手から逃げ切れるとでも思ったかッ!?
死ねえぇぇッッ!!──何いッ!?”
超空大母艦々長の驚愕はムリもなかった。
表向きはあくまでも最後の手段の〈自決用〉として戦闘機に内蔵されていた自爆装置(万一取り外されることを警戒して、帰投の際には必ず鳥人族のエンジニアが点検している)の遠隔操作スイッチを躊躇なく押したにも関わらず、標的は未だパイロット無しで飛行しているではないか!?
“(ボタンを乱打しながら)これは一体どういうことだッ!?
まさか点検後に密かに解除していたというのかッ!?
いや、そんなはずはない……何故ならば爆破装置は6ヶ所に分散して配置され、全て取り外すには戦闘機自体をバラさねばならぬように設計されているからだッ!!”
※むろんこの〈機密情報〉はチーム側には開示されておらず、装置はあくまでも1個であると信じ込まれていた。
“今、侵襲機から強力な妨害電波を放射して戦闘機の全電子装置を麻痺させておりますが、敵側もより強度を増した強制操作システムに切り替えるでしょうから効果も良く保って後10数秒が限界ですッ!
しかもシュネビムは確実に仕留めるために機体を貴方に接近させる恐れがありますから戦装衣の飛翔装置を全開しても追い付かれ、爆発に巻き込まれてしまう危険性が大ですッ!!
それゆえ高空救助用の無人飛翔機を出動させてあり、丁度貴方の真上に待機しておりますから着座したままでいて下さいッ!離脱したら却って危険ですからッッ!!”
『もはやこっちは俎の上の鯉だ……彼女を信じるしかねえッ!!』
悲壮な覚悟を固める狂真であったが次の刹那、背後から伸びてきた銀色に輝く金属アームによってあたかも安全ベルトの様に上体をガッチリと固定されて凄まじい勢いで急上昇し、不覚にもそのまま失神に追い込まれてしまう。
“うぬッ、猪口才なッ!だがキサマだけは絶対に逃がさんぞッ!!
さあ白琅狂真よ、闘主様からの最後の指令を受けるがいい──それは一足先に地獄に降った育ての親の許へ一刻も早く馳せ参じ、そのまま未来永劫旅路を共にすることだッッ!!”
今度こそ支配下に置いた機体をシュネビムが殆ど垂直に起てた瞬間を見計らったかの様に、前方から直進してきた赤色光線がまず右翼を、そしてもう片方の主翼をまるで薄板を踏み割るように破壊してのけた!
“グオォッ!な、何事だッッ!?”
かつての愛機が天翔ける術を失い、1本の巨大な鉄柱に成り下がって無残に墜落してゆくのを見ずに済んだのは脱出者にとって幸いであったが、破壊者にとっては悪夢であった。
“おのれ、よくもッ……!こうなったら推力増強装置を全開させ、機体をミサイルと化して侵襲機を粉砕してやるわッ!
残念ながらまともに命中させることは困難だが、強烈な爆炎によって基地への帰還さえ不可能にすればよい……後は白雷龍に搭乗員を狂真もろとも回収させ、直ちに脳改造してくれるッッ!!”
“オホホホホホホッ!笑わせないでちょうだいッ!!
そんなヨタヨタ飛行のポンコツでこの大型戦闘艇を墜とせると思って!?
いいことシュネビムッ!今回界帝様の使者としてわたくしが闘幻境の最前線に出向いてきたということは、いよいよ闘主と雌雄を決する時が熟したとあのお方がご判断されたからであることくらいはたとえ半人半鳥の化け物とはいえ想像がつくでしょうねッ!?
しかもどこまでも邪悪なオマエたちは我々が努めて全滅だけは免じようとした哀れな異空遠征軍構成員たちをとうとう野望のための傀儡と化さしめてしまった!
その魁となったのはやはりというべきか地上における闘主の最も忠実な奴僕である阿津間景之直属のダークネスリング……今や“悪鬼の花嫁”久堂亜美紗を除く全員が改脳人間へと堕し、何も知らぬ冴木晶馬率いる鳳凰陣も次回到着すると同時にこの悪魔の手術の犠牲となることは火を見るよりも明らかッ……!!
もはやエクルーガのみならず他次元人の尊厳もが無残に踏み躙られる地獄的状況を食い止めるには一刻の猶予も許されないと断を下された界帝様は、史上かつてない空前の超絶的な総攻撃を敢行して今度こそ闘主を僭称する呪われし魔界生命体をこの宇宙から跡形もなく消滅させることをご決意なされたということを宣告しておくわッ──このようにねッッ!!!”
真紅の侵襲機から再び発射された赤い光線が特攻を仕掛けた閃王を爆散させたのはその僅か2秒後であったが、その時救助機によって地上800メートル超の高みにあった白琅狂真は、いかなる神の恩寵によってか闘幻境に拉せられる直前の10歳頃へと回帰し、たしかにその場に居たはずの夏祭りの夜に咲いた大輪の花火の夢を見ていたのであった……。




