第21話 白琅狂真─運命の決断③
「テメエ……フザケたマネを……!
そうか、分かったぞ──そうやってまんまと白皇星を操り人形に仕立て上げてから、紺堂にチームを丸ごとプレゼントしてやるつもりだな……!」
魂の奥底から絞り出したかの様な白琅狂真の瞋恚の声を、どこ吹く風といった調子で受け流した超空大母艦々長・シュネビムはむしろ冷ややかさを増した声色で応じる。
“──まあ、そういうことだ……。
もとより異空遠征軍における“日本正規軍”はあくまでも闘主様の覚えもめでたき我が盟友・阿津間景之総帥が率いる影神団であって、白皇星はあくまで実験的に追加投入されたモルモット集団に過ぎん……。
ま、とはいえそれなりの対応力はあったものと見えて6年半もの長きに渡って殲滅されることもなく一応の戦果を挙げてきたことを認めるのは吝かではないが、このまま白琅一族に戦闘艦をはじめとする貴重な兵器類を所有物のごとく委ね続けられるほど評価すべき存在では断じてない……。
しかし恐ろしいものだな、遥か以前よりこの構想を温めておられたとはいえ、わざわざその成就のためだけに多大なコストを要する地上人のサイボーグ化を厭われぬとは……!
つまり、今回の大改編によって日本勢は新たな進化の段階に入ったということだ──即ちサイボーグ指揮官とそれに絶対服従するキサマら【改脳人間】どもで構成された新チームと、従来通り傑出した統率力を誇る阿津間景之総帥が総指揮を執る〈正規軍〉が切磋琢磨し、闘主様が定められた一定期間後に戦果によって優劣を決した後は、勝者が敗者を完全に併呑するというな……!”
「へへ……てことは闘主の依怙贔屓に完全にアグラをかいちまってる阿津間の糞野郎も、紺堂の手腕次第によっちゃあお払い箱にした飼い犬の下に付かされるっていうリスクを背負わされたって訳だな?」
“ククク、まあそう思い込みたがるのもムリはないか……だが期待を裏切って悪いが、こと闘幻境における影神団の戦闘は冴木晶馬新遠征長率いる鳳凰陣に全託されることになったのだよ。
──何故かって?それは言うまでもなかろう、痛恨にも地上侵入を許してしまったリオルグ=ユフェルスが化けた不知火リョオとその軍団を誅滅することに専念するためよ……つまり、もはや影神団と鳳凰陣は完全な別組織となったと見做してよい訳さ……”
「すると、鳳凰陣の連中はかつてのオレたちの様に、闘幻境で朽ち果てることを運命付けられた哀れな奴僕に成り下がったって訳か……汚え……どこまでも汚えぜテメエら……!
一体、人の命を何だと思ってやがるんだッ!?
ちっとばかり地上より機械技術が進んでるからって、異世界人のキサマらが好き勝手に弄んでいいオモチャじゃねえぞッッ!!!」
“ふっふふふ……いいのかね、そんな神をも恐れぬ妄言を吐いても?
我々に逆らうということは、即ち叔父や仲間を喪うことに直結すると宣告したはずだが?
まあ激情に任せて破滅的行動に出るというのなら止めもしないが、そうなると彼らの苦痛が増すばかりだということだけはお伝えしておくよ……!”
次の刹那、あたかも得々と語られる悪魔的なセリフを待っていたかのように、白琅狂真のリストデバイスから合図の電子音すら排して総帥・龍侍の嗄れ声が激しく響いた!
“……ここ数日どうにも不吉な胸騒ぎが収まらなんだもんでな、済まんが閃王の通信機器を指揮官専用の傍受機に連動させて狂真の会話を全て聴取させてもらっていたのだが、最後の最後でとんでもない〈真相〉が明かされたな……!
これで長年の間、胸奥に黒雲のごとく蟠っていた疑念が綺麗さっぱり霧散したわ……つまりこの愚かな戦いには何らの正義も理想も存在しないことがハッキリした訳だ……いや、ひょっとするとこれまで人類を根絶やしにして地上を征服すると盲信させられてきたエクルーガにこそ大義はあるのではないかとすら思えてきたぞ……!”
「お、叔父貴ッ、何呑気なこと言ってんだよッ!
さっきからキ×ガイ鳥野郎の話を聞いてたんなら、洗脳されちまった矢萩たちがすぐにでも襲いかかってくるんだぜッ!
これからすぐに帰艦するから、オレが駆けつけるまで何とか踏みとどまってくれッッ!!」
されど返ってきたのは“この大馬鹿者がッッ!!!”という落雷のごとき一喝であった。
「うぐッ!?」とたじろぐ甥に、一変して全てを受け容れ覚悟を固めた漢の、炎のごとく熱く氷の様に冷徹な訣別の言辞が降り注ぐ。
“いいか狂真、絶対に戻ってはいかんぞッ!
わしのことなら心配は要らん、幸いにも愛用の殲光弾銃は150発全弾チャージ済みだッ!
それよりも気になるのは狂撃隊の面々だが、残念ながら彼らが拘束されて矢萩らと同様の運命を辿るのは避けられまい……。
しかしおまえには天助があるッ!ここは一旦コニアさんに全てを委ね、エクルーガの超技術を借りて不死身の復讐鬼に生まれ変わるのだッ!!
これはわしの勘だが、おそらくおまえは必ず地上に戻れるはずだ──ならばその時こそ、研ぎに研いだ応報の牙を憎き阿津間一族の喉笛に突き立て、思いっきり噛みちぎってやるのだぞッッ!!!
──うむッ、扉の向こうに悪鬼の傀儡に成り下がったかつての副官が到着したようだッ!
……では名残惜しいがおまえの迷いをさっぱりと打ち消すためにもここで通信を切るぞッ!!
行けッ、白琅狂真ッ!!──無念を抱いて亡んだ白皇星一同の魂の尊厳のためにッッッ!!!”




