第20話 白琅狂真─運命の決断②
討伐対象であるはずのコニア=ユフェルスの言葉は、白琅狂真にとってこれ以上不問に付しておくことが耐えられぬ精神的煩悶の核心を抉っていたが、いかに友好的な態度での申し入れとはいえ、昨日まで血みどろの死闘を展開していた敵側の軍門に白皇星ごと降れという事実上の降伏宣告を当然ながら直ちには受け入れかねた。
「──おまえさんのセリフに頷ける箇所が無い訳でもねえけどよ、いきなりそんなことを言われたって困るぜ……。
それによ、仮にオレらが寝返って地上に戻してもらったとして、見返りに一体何を求めようっていうんだい……!?」
10秒ほどの間を置いて返されたこの問いに、エクルーガの女戦士は即座に応える。
“意義あるご質問ありがとうございます。
率直に申し上げますわ──まずは阿津間三兄弟を筆頭とする影神団(地上残留部隊)の完全なる殲滅作戦への協力であると……!”
「むう……それはつまり、アンタの兄貴に手を貸せってことだよな?
たしかにオレたち白琅一族は阿津間家をある意味じゃエクルーガ以上の“真の敵”として認定してはいる──はっきり言ってその一点だけはたとえ闘主を前にしても譲る気はねえ……だがしかしだ、正体が異世界人の、それもつい今さっきまで殺し合いやってた敵軍のホープである不知火リョオさんとやらに子分として唯々諾々と従う訳にはいかねえなあ……」
“ほほほ……あ、いえ失礼致しました。
でも奇妙ですわね、どうして我々が畏敬する貴方がた白皇星を単なる傘下組織として扱おうなどと邪推されるのですか?
これは嘘偽りのないエクルーガの公式見解として受容して頂きたいのですけれども、界帝様は闘幻境で活動中の全異空遠征軍で他ならぬ白皇星を最も評価しておられるのですよ?
ならばその実質的なリーダーである貴方様を兄の麾下に置くことなど考えられぬではありませんか──それではここでハッキリ申し上げておきましょう、“地上遠征隊長”リオルグ=ユフェルスと白琅狂真様の軍内における地位は完全に同格である、と……!”
「そいつはありがてえ……と言いてえところだが、もちろんそういう訳にゃいかねえ。
だってそうだろうが、オレらはたしかに阿津間の連中こそブッ殺してえほど憎んじゃいるがよ、全く恨みもねえ人類そのものを敵に回すつもりなんざサラサラねえんだからな……」
“まあ……それはとんでもない誤解ですわ。
そもそも我々が地上人類に何か肉体的な危害を加えるつもりだなどと考えておられるなら、どうか考えをお改めになって下さい……わたくしたちはただ時空を異にする兄弟たちと深い友誼を結びたいだけなのですから……!”
「そうあっさり断言されてもよ、ああそうですかとお気軽に納得する訳にゃいかねえわな。
ここはハッキリ聞いておきてえんだが、具体的にどう友情を示そうってんだい……!?」
“そうですね、では今話せる範囲でお伝えしておきましょうか……。
まず我々が交流相手として最重要視しているのは0歳児から20代前半までのいわゆる若年層です──むろんこれは傲慢との謗りを免れぬでしょうが、エクルーガ独自の算定基準に鑑みまして、それより上の世代は濃淡差はあれど、須らく頑迷固陋な三次元人意識に囚われた〈旧世代〉と見なしておりますので……。
ならばメインターゲット層をそれと対立する新世代と楽観的に見なしておるかと申せばさに非ず、その中の宝石のごとく貴重な一部の【素質者】のみに熱視線を注いでいるというのが正確なところですわ……。
従ってそれら少数の人々と深く太く熱い絆を涵養し、徹頭徹尾平和的ながらも刺激に富んだ未来世界へ共に歩んでゆきたい、というのが我々の悲願なのでございます……。
それではここで貴方様に問われるかも知れません、そのようなご立派な理念を掲げているなら、何故に地上人類を友好的に3.5次元世界に招こうとしないのかと……。
ですが、こちらがどれほどそうしたくともどうしてもそれができない障害が立ち塞がっていたのです──聡明な狂真様なら即座に理解されたでありましょうが、それこそが闘主と名乗る正体不明の怪生命体なのです……!
いえ、わたくしどももあれがこの大宇宙に自然発生した有機的存在などと盲信している訳では毛頭ありませんが、その悪意に満ちた活動履歴を鑑みましても、闘主こそが次元の守護者を僭称する、3.5次元世界への侵略者であると見定めておるのですわッ!!”
「……つまり、オレたち異空遠征軍は他次元人から故郷を守るためと騙され、真相は謎の侵略者の悪行に手を貸す救いのないマヌケ野郎どもって訳か?」
淡々たる狂真の問いに一拍置いて、エクルーガの使者は“まことに失礼ながら、我々はそう確信しております”と断言する。
「コニアさんとか言ったな……アンタが持ちかけてきた提案が十分検討に値することを否定する気はねえがよ、事がチーム全体の運命を左右する事柄である以上、今ここでオレの一存だけで結論を出す訳にゃいかねえんだよ。
しかもインカムのスピーカー機能は予め切ってあるからここまでの会話はオレとおまえさんの間だけで交わされたモノで、少なくとも叔父貴ら他のメンバーの耳にゃ入っちゃいねえ……。
従って一旦白雷龍に持ち帰って皆でじっくり検討し、後日公式に返事したいんだがどんなものだろうな……?」
──これまで打てば響くように速やかに返答してきたコニアがたっぷり30秒ほども間隔を空けたばかりか、声色も別人のように陰鬱なものへと変質させておそるべき情報を伝達してきた!
“狂真様、どうやら我々の動きは悪魔の様な闘主には見抜かれていたようですッ!
たった今、ご無礼ながらしばらく以前より白雷龍に侵入させていたエクルーガの【超小型偵察機】が送ってきた映像により判明したのですが、戦装衣に身を固めた矢萩晃介以下9名のメンバーがあろうことか叔父様らをはじめ、発進待機中である真龍狂撃隊の拘束を開始した模様……”
次の刹那エクルーガ軍人の金切り声がプツリと途絶え、聴き慣れた、そして決して好きではないあの声が鼓膜を不快に震わせた。
“──悪いが全て聞かせてもらったよ。
以前より危惧はしていたが、どうやら龍侍とオマエはこのシュネビムの想像以上に深刻なレベルの反逆者であったようだな。
ま、いずれはこんなこともあろうかと、闘主様のご提言によって矢萩らの脳に緊急事態対応用の【強制従属装置】を埋め込んでおいたのが早速役に立ったようだが……ふふふ、どうやら思い当たったようだな?
そう、前々回の大母艦への補給帰還の際、今回の9人が精密検診の名目で2日ばかり姿を消したことがあっただろう?その時に我々は有事に備えて手を打っていたという訳だ……!
さて、これでキサマの確固とした反抗的意図が露見したことでそこの小賢しい煽動者もろとも即刻撃墜してやってもいい訳だが、どこまでも慈悲深い闘主様は最後のチャンスを与えて下さった──こう言えば奸智に長けたオマエなら察しがつくだろう……つまり叔父や直属の部下の命が惜しくば目の前の敵機を速やかに迎撃し、成功したならば直ちに単独で大母艦に帰還して矢萩らと同様の脳手術を受けよということがな……!”




