第19話 白琅狂真─運命の決断①
紺堂武彦からのSOSは、当然というべきか超空大母艦から送信されていた──そして丁度それが闘幻境でひたすら孤独な戦いを続ける白皇星の戦闘艦=白雷龍の燃料をはじめとする物資補給のための一時帰艦日に重なっていたため、シュネビム艦長立ち会いの下、急遽ライバル組織の元遠征長の移籍についての会談が持たれることとなったのだが、受け入れ側である白琅一族では概ね受諾する方向で意思統一がなされていたのだが……。
「まあ仮に追放が事実だとしても、闘主が影神団解体を意図している云々はあくまでも紺堂の自己申告だからな。
もちろんこんな仕打ちを受けて阿津間に憎悪心を燃やさぬ方がおかしいというものだが、白皇星の敵対感情に取り入るためにあえて誇張している可能性は捨てきれん。
最悪のケースは全てが虚偽でアイツがスパイである場合だが、移籍交渉に鳥人族が介入するのが分かっていてあの狡猾な景之がそこまでの危険を冒すとも考えにくいが……。
しかし、まさかとは思うが、もしシュネビムもこの話に噛んでいるとしたら……?」
眉間に険しく皺を寄せて苦吟する総帥に、後継者にして最強戦士の狂真も真顔で頷く。
「──その懸念は尤もだとオレも思う。
何せ艦長は景之の無二の相棒だったっていうしな……。
だがよ叔父貴、さすがにその線はねえと思うぜ……だって紺堂を使って白皇星の何をスパイするってんだい?
そもそもシュネビムとズブズブなんなら、欲しい情報はアイツからナンボでも仕入れられるだろうがよ……」
「……そういうことだ。
たがな狂真、おまえにはネガティブ思考が過ぎると嗤われるかもしれんが、わしの頭にはこういうことすら思い浮かぶのだ──つまり紺堂は闘主が差し向けた破壊工作員で、白雷龍にまんまと乗り込んだ暁にはいずれ爆破しようとするのではないかとな……」
「──バ、バカなッ!いくら何でもそいつァ被害妄想が過ぎるぜッ!!
だってそうだろうがよ、莫大なコストをかけた虎の子のサイボーグの使い方としちゃあこれ以上ねえほど最悪じゃねえかッ!?」
「ああ、たしかにな……だがな、改めてよく考えてみろ、この6年間に及ぶ闘主の白皇星への仕打ちを……!
どんなに否定したくとも、客観的事実として闘主は阿津間を白琅の上に位置付けておるではないか……!
更に悪いことに、鳥人族軍の大増強が認められる現在、あくまで傭兵的存在の域を出ぬ異空遠征軍は徐々に用済みと成りつつあるのではないか?
むろんすぐにすぐとは言わんが、この奇怪な戦争のどこかの局面で、闘主は我々を決定的に見限り、無慈悲に〈処分〉するのではないか……!?」
「……一応、頭の片隅に入れとくよ。
しかしつくづく、戦場ってヤツは人を虚無主義者にするよなァ……。
悪ィが、オレがまだまだ未熟者なのかとてもそんな考えにゃついていけねえや……」
未来ある若者にふさわしい慨嘆を残して白琅狂真が退出しようと踵を返した刹那、左手首に巻いた通信装置がピピッピピッピピッと断続的な緊急シグナルを発した。
「……狂真だ、何があった?
──何ィッ!?よし分かったすぐに出るッ!
刈谷たちは出すなよ、ひとまず待機させておけッ!(龍侍を振り返り)前方に侵襲機が1機だけ現れやがったらしい……サイズから見て幹部機のようだが、珍しいのは機体が真っ赤に塗りたくられてることだが、そんなことはどうでもいいッ!
とりあえずモヤモヤを吹っ飛ばすためにもひと暴れしてくるぜッ!!」
「今更わしがおまえにアドバイスできることなどないことは承知だが……気を付けろよ、雑魚と決まっとる偵察機はともかく、幹部級が単機で現れるなど前代未聞のことだ……何かイヤな予感がしてならん……!」
「──ああ、分かってるって!
心配要らねえよッ……じゃ、行ってくるぜッ!!」
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愛機・閃王のコクピットに収まった戦装衣姿の白琅狂真は、自身が隊長を務める【真龍狂撃隊】麾下の刈谷泰和副隊長に応援要請するまで動くなと改めて厳命した後、緊急発進した。
敵機との距離はおよそ17キロメートル──ただの偶然だろうがそれが年齢と同じ数字であることに何故か奇妙な感慨を催す。
『白琅狂真ともあろう漢が単なる数字に意味を見出そうとしちまうとはな……全く叔父貴のマイナス思考にゃ毎度ながら辟易させられるが、同じ白琅の血を曳いてる以上、何%かは似た傾向あるのかもしれんな……んッ?喜び勇んで向かってくるのかと思いきや、敵さんスゴスゴと退散して行くじゃねえか?
しかし何故か17キロって距離だけは保ってやがる──ザケやがって、一体何のつもりだッ!?」
2本のスラストレバーを倒して急加速した狂撃隊々長が得意の格闘戦を仕掛ける際に無意識の内に浮かべる残忍な微笑──されど右手の親指が操縦桿の殲光弾発射ボタンに触れた瞬間、それが突如として消え失せた。
何故ならばヘルメットのスピーカーを通じて、聴き慣れぬ美しい女性の声が届けられたからだ!
“──はじめまして、狂真様。
わたくしはコニア=ユフェルスと申します……そうです、ご推察の通り貴方にとって不倶戴天の宿敵であるエクルーガの一員ですわ。
もうずっと前から個人的に貴方様とはお話したかったのですけれど、今日ようやく公務としてそれが叶い、心の底から歓喜しておりますわ……!
あら、戦闘機の先端部に設置された殲光弾砲が微妙に震えているようね……まさか私の言葉をお疑いになるのかしら?
だとしたら悲しいわ……一体どうすれば信じて下さるの?
待ってッ!攻撃するのは止めてッ!!
お願いですから、少しだけ時間を下さい……そして私の話に耳を傾けて下さいな……!
──ありがとう、分かってくれたようですね……では僭越ながらわたくしがエクルーガ最上層部の〈公式見解〉を伝達させて頂きますが、狂真様、このままずっとあの冷酷非道な闘主に付き従ったところで、失礼ながら貴方がた白皇星メンバーの未来に明るい展望が拓けるものと本気でお思いですか?
あまつさえ同朋にして同格たるべき阿津間一族は大いに自由を満喫し、 肝心の戦闘すら甘言を弄して掻き集めた不幸な傭兵たちに全託し、母国にて日々遊び呆けているのですよ?
もちろん当事者たる貴方がたが魂の奥底から痛感しておられることでしょうけれども、余りにも理不尽な仕打ちではございませんか?
果たしてこのまま、異空遠征軍という名の“精神拷問機械”に心身を蹂躙されたまま、故郷から遥かに隔たるこの闘幻境で朽ち果ててゆくおつもりですか?
まことに失礼ながら、それでは余りにも浮かばれぬ一生ではございませぬか?
でも、もし……貴方様がここで一念発起されて決断されるのであれば……我々は今すぐにでも白皇星全メンバーを地上世界へご帰還させて差し上げられます。
と、いうことは……そうですッ、既にエクルーガの超技術は闘主のそれを完全に凌駕し、我々の地上侵攻阻止を旗印とする異空遠征軍はその存在理由を喪失しているのですッッ!!!
つまり酷烈極まる闘主が貴方がたに報復しようとしても、我々が長年の血の滲む努力を経てついに開発に成功した【身魂全防御スクリーンシステム】を以てすればそれら全ては無効化されることが、界帝様から大命を託された我が兄・リオルグが易々と地球到達を果たしたことで実証されております──そして実に喜ばしく誇らしいことに、貴方様の同国人・不知火リョオとしてエクルーガ史にその名を燦然と輝かせるべく偉大なる一歩を踏み出したのですわ……!”




