第16話 新生ダークネスリング始動!
「──今にして思えばあの時、帯刀君と紺堂氏の関係は決定的に壊れたんだな……」
両腕を組み、宙を仰いで瞑目する阿津間景之に、カプセル内の久堂亜美紗と鳳凰陣二代目副将(副長改め)・冴木晶馬はこくりと頷く。
「今思い返しても凄かったですね、あの怒鳴り合いは……。
しかも指令室に我々が入って行った途端に新ヴァージョンの戦闘服を口汚く罵ってきて、その時点で“ああ、この人とはもうやってけないな”と改めて確信しちゃいましたよ──あれじゃ(帯刀)遠征長が烈火のごとく怒るのも当然です。
それでなくてもこっちは大切な仲間を喪って意気消沈してるっていうのに……」
未だに憤っているらしい晶馬の口ぶりに、影神団総帥も苦笑しながら相槌を打つ。
「──ああ、思い出した。
たしかそれまで幕末浪士をトレースしたような懐古的な服装だったのが、丁度紺堂の脱退に合わせたかのように現行のジャンプスーツ(ツナギ)形式に変わったんだよな……それを見た途端に“オレに対する当てこすりかよッ!?”って帯刀君に詰め寄って……すかさず間に入って制したが、あれには私も驚かされたよ……まるで白皇星を目の前にしたかのような逆上っぷりだったもんだからね……」
「ええ、全くそんな感じでしたよ……でもある意味それ以上に驚かされたのが、シュネビム艦長の行動です。
何と紺堂氏の背後から羽交い締めにして、フワッと5メートルくらい舞い上がったんですから……!」
「──まあ、そうなの?
ほほほ、それは見てみたかったな……前遠征長もさぞビックリしたでしょうね」
カプセル内の“ダークネスリングの女王”が口元に手をやってさも可笑しそうに言うのを見て、冴木晶馬は以前から抱いていた疑問がとうとう氷解したことを悟った。
──やはり、亜美紗さんはこの内部にいない!
この確信は瞬時に鋭敏なる阿津間総帥に伝わったはずだが、彼は何ら斟酌することなく愉快そうに応じた。
「はははッ、そうだったな。
しかしあれは艦長のみならず鳥人族が人間どものトラブルを仲裁する際に採る常套手段でね……しかもそこには一つの厳格なルールがある、それは……」
「──地上の某宗教とは逆に、空中携挙された方に明白な非がある、ということですわね……」
何故か自分を直視しながらこう語りかける亜美紗に、晶馬は背筋を氷の棒で撫で上げられたかのような戦慄を覚えた──事実に気付かれたことに、何か不都合でもあるのか?
されど影神団総帥の口調は鳳凰陣副将の不安を打ち消すかのように穏やかなままであった。
「普通、あの措置を取られると大抵の者は大人しくなるものなんだが、既に彼には抜き難い同格意識があったんだろう、凹むどころか“クズどもを見下ろせて実に気分がいい”などと嘯くもんだからこっちがヒヤヒヤしたよ……闘主から栄誉ある艦長職を拝命してからは努めて自制しておられるが、“鳥人族きっての荒武者”であるシュネビム氏をガチギレさせでもしたら、あのまま脳天を床に叩き付けてのけるくらいのことはやりかねない御仁なんでね。
しかもここだから言える話だが、当時から艦長の前遠征長に対する評価は甚だ芳しくないものだったしな……」
「そうですか、やっぱり……」
生命維持カプセル無くしては生きられぬはずの美女が発する非情にして実感の籠もった嘆声を聴きながら、冴木晶馬は久堂亜美紗という“影神団の妖姫”に明確な恐怖を抱き始めていた──まるでこの奇妙な会合は完全に彼女に牛耳られ、阿津間総帥は単なる代弁者でしかないようではないか?
むろん晶馬自身は紺堂武彦に欠片も好感を抱いてはいなかったが、数年もの間過酷な異空間で苦楽を共にし、彼女を守るためにサイボーグ化を必要とするほどの重傷を負った漢への印象がこれだとは……やはり殆どのメンバーの暗黙の了解通り、亜美紗の本命は総帥その人であったものらしい……。
「──ところでな、冴木君。
今日わざわざ遠路はるばるご足労を願ったのにはある重大な意味合いがあったのだよ。
今からそれを単刀直入に伝えるが、どうか驚かずに聞いてほしい。
実は、ダークネスリングはもはや闘幻境に赴くことはない……それは何故か?
先程も少し触れた通り、地上侵攻をついに開始したエクルーガ掃討に特化した部隊として再出発するからだ。
そして私の弟=景充が新たな初代隊長として就任する運びとなったのだが、むろんこれは私の恣意によるものではなく闘主直々のご指名によるものだ。
尤もここで君ならずともこのような危惧に駆られることであろう……即ち、実戦経験すら皆無の若輩者に地獄のエクルーガ軍との戦闘が務まるのか、と──。
まさしくその通り、この私ですら直後は我が耳を疑い、衝撃に震えたほどなのであるから、景充と一面識すらないキミが信じられないのも当然だ。
しかし、決して身贔屓で述べるのではなく、あの子の戦士としてのポテンシャルは間違いなく影神団の……いや異空遠征軍全体を見渡しても屈指のものがあるとこれはキミが心服する帯刀匡三郎氏が太鼓判を押してくれている……ふふ、不思議そうな顔をするのも尤もだが、ここでまた新たな機密事項を明かさせてもらうと、もう足掛け3年に渡って帯刀君は帰還の度に弟を指導してくれていたのだよ──むろん私自身も尽力したが、アイツが師匠として真に慕っているのは帯刀の方だ……些かショックだが、これは本人から直接聞いた厳然たる事実だから致し方ない……。
さて、ここで話はキミ自身のことに戻るが、その前に死神将軍討伐という偉業を成し遂げた帯刀君に新たな特命が下されたことを告げておこう──実は前回遠征を以て彼は勇退し、今後は景充の後ろ楯となって侵略者掃討にあたることになったのだ。
そこで後継者として白羽の矢が立ったのが平良捷夫副長逝去後、帯刀遠征長の右腕として見事に重責を果たしてきた冴木晶馬君という訳なのだよ……まあこれは議論の余地もない当然の人選というべきだが。
するとここでキミは思うかもしれぬ──これは体のいい“闘幻境への放逐宣告”で、我々も白皇星同様の憂き目を見るのかと……しかしそれは誤解だ。
何故ならば、この阿津間景之が二人目の遠征長として現場復帰するのだからな。
しかし現DRはそっくりそのまま地上部隊に鞍替えするため、新遠征軍のメンバー集めは一足早く病気を理由に帰還したわが妻に任せきりということもあり、まことに心苦しいのだが次回遠征は一月ばかり延長して頂きたいのだが……了承してもらえるかね?」




