第14話 影神団総帥、戦友と再会す
発光が開始されて間もなく闘主がふわりと宙に浮き上がり、1.5メートルほどで静止した後、徐に回転を開始し、同時に闘主室が加速度的に強まった金色の光によって眩いほど染め上げられる。
そして十数秒後、球体の下部から何かが突き出した球体の下部から何かが突き出した!
──それは、黒い革靴を履いた人間の両足であった。
続いて黒いコットンパンツに包まれた両脚、これもコットンの丸襟シャツを身に着けた上半身が現れるが、光度は高いままとはいえ視界を閉ざすほどではないため、シュネビム艦長の目にはそれが馴染み深い影神団総帥・阿津間景之であることが明白であった。
床に足を着いてから最後に端正な容貌が現れるまで僅か1秒足らずであり、頭頂部が闘主に接触しないようやや前屈みとなって待ち構えるシュネビムに向かってにこやかに右手を挙げながら歩み出す。
「──お久しぶりです、シュネビム艦長。
今回はお世話になりますが、何卒宜しくお願い致します……」
片や白い鳥人も同じく鋭い爪にサックを被せた細く長い4本の指を揃えて掲げながら、
「ようこそ、阿津間総帥……お元気そうで何よりです。
こちらこそ新たな同志たちの到着を心から待ち侘びておりました……しかも今回加入された、影神団としては初となる女性メンバーは大変優れた資質の持ち主であるということで、我ら勇気の翼としましても大変高い期待を寄せておるところなのです……」
と応じ、ガッチリと握手を交わす。
「ええ、その通りです──ひょっとすると、彼女の存在は異空遠征軍全体の在り方そのものを根本からガラリと変えてしまうかもしれない……。
しかもそれは私個人の感想に留まらず闘主御自身の見立てでもあるのですから、否応なく遠征軍は一つのターニングポイントを迎えたといえるでしょうね……!」
深く頷いた鳥人であったが、一転して沈鬱な声色となって数時間前に所属チームを襲った凶事を報告する。
「……ですが、どうやら進化の時を迎えておるのは我が軍だけではないようでしてね……」
「ほう、敵側にも何らかの動きが?」
「ええ……実は本日の戦闘で平良捷夫鳳凰陣副長と当方のツォルペ1級操縦士が悲運の戦死を遂げてしまいまして……」
この凶報を受けた影神団総帥の表情が瞬時に翳り、固く瞑目した阿津間景之が「そうですか……惜しい人々を亡くしましたね……」と絞り出すように応える。
「……全くです。しかし誰しもが認める遠征軍屈指の戦士である両名がああも呆気なく一敗地に塗れたのは、これまでとは明らかに一線を画する強敵の登場によるものと思われますね──帯刀遠征長によれば凶々しい黒い鎧で全身を固めた“死神将軍”と自称するバルメスなるエクルーガ戦鬼であったようですが……」
「バルメス、ですか……しかし私の記憶を辿ってもわざわざ名乗りを上げたのは今回が初めてじゃないですかね?
果たしてそこには何か意味があるのか、それともようやく向こうが本気を出してきたものか……?」
いつもの淡々とした口調でこのように述べながら、シュネビムの碧色の双眸を見据えた景之はこう続ける。
「おそらくバージョンアップした敵兵は彼一人にあらず、他の11軍及び傘下の全チームにもそれぞれの刺客が襲来するものと思われますが、そこまでのツワモノであればバルメスとやらが白皇星もセットで受け持つのかもしれませんね……。
まあ鬼神のごとき白琅龍侍氏ならば自ら死神討伐に乗り出す公算が大でしょうが、彼に並々ならぬ対抗心を燃やす我らが帯刀匡三郎遠征長がおいそれと武勲を譲るとは考えられぬ──果たしてこの死闘がいかなる結末を迎えるものか、刮目して見届けたいものですが、もしも帯刀君が斃れるような事態になれば、いよいよこの阿津間景之の出番となりそうです……!」
些かの気負いも傲慢もなしに為された静かなる宣言を畏敬の表情で受け止めたかつての無二の相棒である勇気の翼最高幹部は、総帥に遅れること実に3分を経て黒革のライダーブーツがにょきりと出現したのを認めた。
「ようやく新遠征長がご到着ですか……遠征軍全体を見渡しても傑出した闘志の持ち主であることは常々敬服しているものの、私見では些か精神面に脆さを内包する彼が抜擢されたことが不躾ながら腑に落ちかねるのですが、闘主様の御慧眼には紺堂氏の計りしれぬ隠れた資質がハッキリと見えておられるのでしょうな……」
この呟きをあえて聞き流した影神団総帥は、赤い袖無しTシャツと革パンツを着用した紺堂武彦が片膝を着いて俯き、肩を大きく上下させて荒い呼吸を繰り返しているのを穏やかな眼差しで見つめながら、シュネビムだけに聴こえる小声で、
「相変わらず艦長は手厳しいですな──とはいえ私も殆ど同感ではあるのですが……。
それでも“地位が人を作る”ではないですが、これからの彼には大いに期待できると思いますよ──何しろ久堂亜美紗嬢の加入によって途轍もない情緒的刺激を受けたものとみえ、いずれはこの私をも蹴落として新チームどころか影神団そのものを牛耳ってみせるとの気概、いや野望の炎を燃やし始めたようですからね……!」




