第12話 闘幻境フィールドノート④
帯刀遠征長が出陣した時、黒い侵襲機は合体して降下態勢に入っていた。
「うぬッ、彼奴ら平良を拉致するつもりだなッ!」
そうはさせじと愛機の操縦桿を大きく前傾させ、乱戦の隙間を猛スピードで潜り抜けながら急降下する匡三郎──されど意図を察した敵機群が一斉に、あたかも大網が獲物を包み込むように迫ってくる!
「雑魚どもがッ!邪魔するんじゃねえッッ!!」
遠征長の出陣が平良副長の救出にあることを当然理解している他の13機(新人が乗り込んだ1機がエンジン不調で帰艦していた)が援護のため不気味な侵襲機に背後又は上方から殲光弾を猛射して何とか帯刀の活路を開こうと奮戦し、匡三郎もそれに応えて並のパイロットであれば確実に味方撃ちの餌食となったであろう“焔の隘路”を縫って眼下の腹心から発せられ続ける救難信号を追う!
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──左翼をやられた瞬間は死を覚悟した平良捷夫であったが、敬愛する帯刀遠征長による救出を信じて脱出ボタンを押し、速やかにコクピットごと射出されて、それは仲間たちの目に闘幻境の暗い空を疾る一筋の流れ星のように映った。
幸いにもトップパイロットである彼は戦装衣を着用済みであったため、落下傘ならぬ背中のモーターパックに点火して無事岩石地帯に着地することができたが、あの黒ヒトデの乗員がすぐそこに迫っていることは当然認識している。
『あの大きさからして少なくとも五〜六人は登場しているはず……仮に左右一名ずつの操縦士がいてソイツらが残るとしても四人は降りてくるのか……こりゃ大変だぞ……グワッ!?』
天空から何か光るモノが降ってきた──そう気づいた瞬間、まるで照明弾が炸裂したような眩い閃光に視界を覆われた鳳凰陣No.2は呻きながら両腕を眼前でクロスさせるが、同時に胸元へ強烈な打撃を食らい、否応もなく後方に吹っ飛ばされる!
──総重量で140キロに達する装甲戦士が軽く10メートル近く宙を舞った後にドシャアッと岩肌に激突してようやく停止するが、これによって命綱ともいえるモーターパックに何らかの故障が生じたのはほぼ確実であった!
『し、しまったッ!(慌てて左腰のコントロールボックスに触れて操作を試みるが、最悪の予想が的中して全くの無反応である!)このまま翔べないとなると目の前のアイツと頭上の侵襲機に何の抵抗もできないぞッ!』
右腰のホルスターから殲光弾銃を引き抜いて狙いを定めつつも、ガチャリガチャリと全身に纏った黒い鎧を軋ませながら不敵に接近してくる身長2メートル半は確実にある怪物に慄く心を鎮めることができない。
「ムダだ、そんなオモチャでこのバルメスを止めることなどできはせん──勝負は既についたのだ、余計な抵抗によって逆に自分を傷つけるのは避けた方が賢明なのではないかな?」
「──!?」
これまで人語を解するかも定かでなかった異世界人が、完璧な日本語(それは相手の言語中枢に直接響くテレパシーであったかもしれぬが)を送信してきたことに平良は強烈なショックを受けていた。
『しかしこれで益々連中のことが分からなくなった……そもそもここまで喋れるなら完全な意思疎通も可能であるはずであるし、それがいかに理不尽なものであろうととりあえずはその行動原理と目的に耳を傾ける用意が遠征軍にはある……。
にも関わらず野蛮な戦闘に一向歯止めをかける素振りがないということは、やはり遠征長が常々訓示されているようにエクルーガ人にとっては何よりも戦闘自体に至上の価値を置いているとしか考えられん……!』
──その時、ヘルメットのインカムから最も求めていた声が響いた。
“平良副長、今行くぞッ!それまで何とか踏ん張ってくれッ……オレも今モニターでソイツの姿を見ているが、どうやらこれまでの戦闘員とはケタが違う幹部クラスがとうとう出現したようだッ!
我々の言語を流暢に操っていること自体はこれまで連中が獲た捕虜の数から判断すれば別に意外なことではない──それよりも飽くことなく新たな犠牲者を求めていること自体に戦慄すべきだッ!
いいかッ、既にそこからもオレの機影が見えているはずだが、今回は君の救出を最優先するゆえ限界まで接近する!問題の黒い侵襲機については勇気の翼の面々が引きつけておいてくれるはずだッ!!
だからとにかくソイツを相手にせずにできるだけ離れろッ、モーターパックが損傷したことは承知してるが最後の手段がまだ残されてる──両足底の緊急脱出用ジェットを全開するんだッ!とはいえタイミングが重要だぞ、どうせ奴は君が翔んだ瞬間にアクションを起こすに違いないのだからな──それを少しでも遅らせるために殲光弾銃をフルパワーでアイツの足元を狙えッ、上手くいけばつんのめさせるくらいはできるはずだッ!
だが結果を見届けているようでは遅いぞッ、撃つと同時に思いっきり翔ぶんだッ!
後はこちらが引き受けるッ!!”
遠征長渾身の助言を受けている間にコントロールボックスのスイッチを入れてジェットをスタートさせ、殲光弾銃のパワーダイヤルを最大にした平良捷夫は、水平飛行に移った匡月がこちらに向かって突進してくるのをしっかりと目に焼き付けると即座に引き金を引きながら後方へと翔んだ!
──ジュバババアッッ!!
鳳凰陣随一の射撃手でもある彼が放った特大の光弾は指示通りに見事バルメスの足元を穿ったが、あろうことかその時既に標的の黒い巨体は地上から10メートル以上跳躍しており、次の刹那、標的に向けた右手の親指を除く全ての指先から連続発射された金色の殺光矢が鳳凰陣副長の頭部を堅牢なフルフェイスの鉄兜もろともズタズタに引き裂いたのであった!




