第11話 闘幻境フィールドノート③
衝撃の初遭遇は、当時の鳳凰陣副官・平良捷夫が相棒の鳥人族・ツォルペとそれぞれの愛機に乗り込んでエクルーガのヒトデ型侵襲機編隊迎撃に臨んだ時であった。
チームの紋章である金色の鳳凰を誇らしげに両翼と尾翼に刻み込んだ藍色の迎撃戦闘機【阿修羅】を駆るエースパイロットである平良と鳥人族でも屈指の戦闘機乗りであるツォルペの相性は抜群(遠征軍は他の地上人チームとの連携を禁じられている代わりに、勇気の翼から斡旋された鳥人族部隊と連携してエクルーガ撃破にあたることを命じられていた)で、総撃墜数は通算285機に及んでおり、これはバトルスターズのエースであるライアン・コリンズと鳥人族No.1パイロットのソジェリクの“最強コンビ”が達成した307機に迫る堂々2位の成績であった。
なお、ツォルペ以下鳥人族の乗機は阿修羅を彼ら仕様にカスタムし、各翼に勇気の翼の紋章(10枚の白い翼が放射状に並び、中央には金色に煌めく球体=闘主が描かれている)を誇らしげに染め抜いていた。
──あたかもこれまでの屈辱を晴らそうと決意しているかのごとくシャドーロックが死守する【管轄空域】に、まるで煙幕のように“気象兵器”の黒雲を纏って接近してきた初遭遇の不気味な黝い虚空戦闘艦から、毒々しい紫と灰色の斑模様の侵襲機が30機近く発進してきたのである!
直径35メートル・高さ18メートルのドーム型艦橋で迎撃のため計26門の殲光弾砲発射準備の指揮を執りながら、帯刀匡三郎はいつものように一抹の奇妙な感覚に囚われていた。
『事実、人が血を流し、その生命すら喪われている訳だから、これが戦争であることは間違いない……しかしそれならば血みどろの戦闘の主体となるのはあくまでも戦闘機で、母艦同士が主砲を撃ち合えないのは何故なのだ?
それはあたかも地上の核保有国が破滅に繋がる核のボタンを押せないことを彷彿とさせる──尤もこの奇妙な取り決め?のお陰で未だ全滅させられたチームが存在しないのは喜ばしいことだが、それは同時にこちらも敵母艦を撃沈することがいつまで経ってもできないことを意味する……むろん神業的な技倆を有するエース(パイロット)が天運に恵まれて指揮者が陣取る艦橋を破壊できればその限りではないが……。
これはあまりにも恐ろしい考えで、絶対に真実であって欲しくはないが、ひょっとしてエクルーガも闘主も、この虚しい戦闘を永久に止めるつもりがないのではないか?
つまり彼らの目的はこの果てしなきデスゲームをひたすら続行させることだけで、その先にいかなる着地点をも見出そうとしていないのではないのか?……さもなくば、この奇妙なまでにパターン化された無限ループの説明がつかない……更に最悪のケースは、これが何らかの劫罰であった場合だ。
その場合は我々は(一時的な地上帰還が許されているとはいえ)未来永劫この闘幻境という牢獄の囚人ということになる……そしてもし逃亡など考えようものなら、闘主の代理人というべき阿津間総帥からいかなる制裁を課されるか──それは今遠征のため再集合した際、姿を見せなかった佐野と中尾が身を以て証明しているではないか……。
ともあれ鳳凰陣史上初となるこの不名誉な事件によって今後暫く脱落者は出ないものと信じたいが、疑心暗鬼に駆られた者同士が陰険に互いを監視し合うなどという事態だけはどうあっても避けたいものだ……』
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敵機が30に対して鳳凰陣側は16機──その構成は“ダブルエース”に加え地上人5・鳥人族9となっており、基本的に異種族間でペアを組んでいるが特に二名の欠員を出した地上人は今回が初陣となる新人パイロットをサポートすべく、手練れの操縦士が二人ずつ両脇を固める布陣となっていた。
あたかも決められた手続きを踏むかのように、黒雲からの雷撃が戦闘機に放射されることで戦端は開かれたが、同時に一斉発進した侵攻機群は眩い稲光の隙間をかい潜り、凄まじい速度で襲いかかってくる!
その後は殺光矢砲と殲光弾砲が暗い空を裂くように交錯し、自動追尾ミサイルが互いを相殺し合ういつもの交戦絵巻が繰り広げられたが、立ちどころに2機ずつ撃墜してのけた二人のエースはかつてない危機感を共有していた。
かつて見たことのない、倍近いサイズの黒一色の侵襲機──それが味方がやられるのも我関せずとばかりに悠然と上空を舞いながら、平良とツォルペの動向だけは執拗に追っているのだ!
これをあからさまな挑発行為と受け止めた両雄は、ある合言葉を交わし合うと一旦背を向け合って水平方向に300メートル近くも離れると、突如として急上昇に転じ、背面飛行のまま斜め上方──つまり黒い怪物目がけて接近してゆく!
同時に戦闘機の先端部分が青白く発光すると両翼下に1門ずつ設置されたそれよりも3倍の破壊力を誇る殲光弾砲が火を噴いた!!
「殺ったぜッ!──何ッッ!!??」
勇気の翼でトップを張る両雄だからこそ可能な秘技・死の三角砲火──これから逃れ得る者など存在し得ぬはずであったが、黒い侵襲機は何と中央から左右に分離してみごと回避してのけたのである!
「──クッ!ひ、卑怯なッ!!」
自分でも無意味と知りながら思わず口走ってしまった罵言を嘲笑うかのようなヒトデの腕の先端に内蔵された殺光矢砲の猛射によって左翼を破壊された平良機は無念にも錐揉みしながら墜落し、一方のツォルペはコクピットを直撃されてあえなく爆散してしまう!
──むろん、この悲劇は直ちに帯刀遠征長の知るところとなり、鬼神の表情で立ち上がった彼は「オレも出るぞッ!」と絶叫すると愛機【匡月】の格納庫目がけて駆け出したのであった──!




