第10話 闘幻境フィールドノート②
エクルーガ人の外見は、意外なことに首尾一貫したものではない──遭遇した者によって、それぞれ異なった印象を述べるからだ。
闘幻境の下方は目地の限り峨々たる岩山に埋めくされた無人地帯であるため戦闘は必然的に空中戦となるが、単座機が主体の遠征軍とは対照的に殆どが複座(中型機になると最低三名は搭乗している)を採用している真の理由は撃墜によって不時着した敵に追撃者を降下させて捕獲するためであり、不運にもこの邪悪な狩人どもによって虜囚となった戦士の総数は百名に迫ると噂されていた──〈闘主の掟〉によって各陣営は基本的に没交渉(改善を求める声は戦闘が激化するにつれて日々高まっている)であり、超空大母艦長の鳥人も混乱を恐れてか曖昧な表現に留めたため、いつしか百という数字だけが独り歩きすることとなったのであった。
一方、僥倖(80%以上は味方による救援であったが、独力による猛者も少数存在した)によって生還を果たした者たちによる敵兵の描写は不可思議なことにそれぞれ異なっていたのである……。
まず、最も物議を醸したのがそのボディサイズであろう。
ある者は3メートル近い身長と装備も合わせれば400キロ近い巨漢であったと断言し、ある者はその真逆でどう見ても子供にしか見えぬ体躯であったと主張する。
またある者は堅牢な装甲服こそ纏っているものの四つん這いの獣のような姿であったと言い張り、身長体重共に地上人と同サイズでありながら、奇怪にも双頭であったと言い張る者さえいたのである!
だが全員に共通しているのが敵が全く表情の窺えぬフルフェイスのヘルメットを着用しており、首から下の装甲戦闘服と併せてその堅牢性は殲光弾ライフルの直撃を食らっても、4〜5発程度であればものともしなかったということであった。
片やその攻撃力たるや凄まじく、短銃ながらズングリした形状の殺光矢銃から噴き出される青白い火花を一度浴びれば、いかにタフなバトルスーツに身を包んでいようが立ちどころに火ダルマとなり、それこそ骨がボロボロに炭化するまで悪魔の焔は決して消えることはなかったのである……。
とはいえこれは連中にとっても最後の手段であり、通常エクルーガ兵が試みるのはあくまで捕獲であるため、生き残るにはここでいかに立ち回るかにかかっていた──されどここで持ち出される武器がまた一筋縄ではいかなかったのだ。
まず最も使用頻度が高いのが最長で十数メートルも伸長する神経麻痺鞭であるが、縦横無尽に撓って獲物を追い詰める毒蛇さながらの挙動から逃れるのは至難の業であり、九死に一生を得た生還者たちもこれを完全に避けきった者は皆無であった。
また、遠征軍人たちが簡易パワードスーツともいうべき戦装衣を着用している場合(操縦の難易度が格段に上がるためよほどのツワモノ以外はまず装着することはないが、独力生還者は全員が纏っていた)、鞭は通用せず、更に背中のモーターパックによって短距離飛行が可能になるため、それを封じるために戦装衣の駆動機構をダウンさせるための超電撹乱波を射程250メートル・半径8メートルに渡って集中放射する黒い籠手を両手に嵌めている。
されど戦装衣姿で戦闘機を駆ることが可能なのは遠征軍でも10%にも満たぬ上位陣に限られるため、おいそれとこの攻撃の餌食になるような輩はおらず、逆に戦装衣の上腕部に装備された殲光小砲によってまず籠手を破壊するのが遠征軍側の接近戦におけるセオリーとなっていたが、首尾よくこれに成功した場合には比較的短時間で勝負がついた。
というのもどうやら籠手は装甲戦闘服のコントロールユニットも兼ねているらしく、この部分が損なわれた途端にエクルーガ兵の動きが驚くほど鈍るためであった。
その悪影響は主要武器である殺矢銃を抜くことすらままならなくなるほどであり、大袈裟ではなくその間に逃亡すら可能と思わせたが、むろん勇敢なる遠征軍人たちがトドメを刺さずしてそのような挙に出るはずもない。
されど、その際採られる戦法は決まって最低でも30メートルは離れた距離からの殲光弾猛射であったが、それにはむろん理由があった──凄まじいまでの爆発である。
これがまた一種の罠というべきタチの悪さで、装甲服の機能停止から最低10秒の間を置いていきなり火を噴くのであるが、面妖なことに時間が一定しておらず、最長で1時間近く岩地に転がったままだったこともある。
それにまつわる悲劇も複数発生しており、その魁は当然ながらエクルーガ人の生物学的データを知るため遺体収容を試みた戦士が間近に迫った瞬間に炸裂したのであった。
ここで地上人的な常識としては少なくとも全チームとの意思疎通チャンネルを有するシュネビム艦長がこの“動く時限爆弾”についての情報を共有させるのが当然なのであろうがここでも不可解にして非情な〈闘主の掟〉の重さは【勇気の翼】の絆を凌駕するのかそれはついになされず、全遠征軍中実に18チームが尊い犠牲によってこの危険情報を贖うハメとなったのであった……。
(※ちなみに日本勢でその憂き目を見たのが白皇星で、総帥・白琅龍侍の初期の副官が死亡している)
そして各チームが回収された犠牲者の搭乗機のカメラや戦装衣の残骸に奇跡的に記録されていた爆破映像を血眼になって解析して得た結論は、どうやら強力爆弾は装甲服ではなく敵兵の体内奥深く埋め込まれているらしいということであり、いつしかそれは偶然にも全チームで【魂核】と呼称されるに至ったのである。
更にこれまでのデータを鑑みるに、籠手破壊→装甲服機能停止→魂核爆発という一連の流れから、このような大胆な推測もなされた──即ち、エクルーガ人などという生物種は存在しておらず、連中は須らく装甲服と一体化した機械戦士なのではないか、と!
されどこの認識に異空遠征軍全体が染まりきった矢先、実に数年に渡って死に物狂いの抗争を展開する相手が各陣営に襲来し、むろん影神団(当時は鳳凰陣のみ活動中)の前にも出現した──“死神将軍”バルメスである!




