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第五章 夏休みはすぐ失う

試練は突然訪れる。

-エピローグ-


人を殺すことで快楽を感じるなんておかしいと思っていたけど、今は少し分かる気がする。頭がスッキリするし、人が死ぬ時はどれも美しいものだと思う。こう思うのは僕が歪んでいるからなのだろうか。


Chapter5.1-休暇-


夏休みがやってきた、僕にとって一年の中で最も楽しみなのが夏休みだ。花火を見たり、お祭りに行ったりする訳ではないが、とにかく長く学校に行かないで済む。それに最近まで大野木君の舎弟としてこき使われていたから開放感が半端ない。でも一応先にやるべきこともある。松井君に次の計画を聞いておかなければならないのだ。


「松井君、次の予定は決まっているの?」


「いや、一旦は休みかなー。僕も夏休みを満喫したいしさ」


「分かった、でもいつでも連絡してね。すぐに飛んでいくから」


「はは!頼もしいね!」


確認も終わったことだし僕も夏休みを満喫するか!


「よーし!やるぞ!」


僕は早速冷蔵庫から大容量の炭酸飲料、キッチンの棚から大容量のポテトチップスを取り出した。これで準備万端だ。


「まずは、この漫画だな」


夏休みと言えば涼しいクーラーの中で一日中ゴロゴロするのも醍醐味だ。僕は事前に漫画一気読みリストを作成し、それのお供となるドリンクとお菓子、完璧な配分とスケジュールを組み立てていた。夏休みがいくら長いからと言って無駄にはできない。いかに効率良くゴロゴロするかが問われているのだ。


「プルルルルルッ」


電話が鳴っている。だけど、無視をした。今主人公の秘めたる力が覚醒するところだから電話どころではない。


「プルルルルルッ」


また、電話だ。だけど無視する。松井君なら特別な着信音に設定しているため気づくことができる。でもこの着信はそれ以外。急ぐほどのものではない。


「プルルルルルッ」


「うるさいな!」


許せない、僕の完璧なスケジュールを崩そうとしているのか?電話の主に一発注意して分からせてやることにした。


「おい、あ、あのどなたですか?」


無理だった。僕はあくまでプリティプリティボーイの星空リクだ。電話口で怒鳴るなんて、僕にはできない。関西人のおじさんとか怒鳴ってるのを見るがすごいなと尊敬してしまう。


「星空君?、乙骨です」


意外な相手だった。そう言えば前に乙骨君と道丘君と三人で電話番号を交換していたんだっけ。


「乙骨君何か用かな?」


「急にごめんね、実は星空君と一緒に行きたいところがあってさ」


「行きたいところ?」


「夏コミだよ!」


夏コミ、聞いたことがある。夏に開催されるオタクサブカルチャーの祭典があると。人によっては登竜門、人によっては修行と呼ぶと。


「そこに僕の好きなアニメの限定フィギュアが出るんだけど一人一個までしか買えないんだ」


「一個じゃダメなの?」


「一個じゃダメだよ!鑑賞用と保存用は最低でも要るよ!」


「そ、そうなんだ」


なるほど、一人ひとつしか買えないから人数が欲しいわけか。だとしても、


「良いよ、一緒に行こうか」


「本当!?ありがとう!日時はまた連絡するね」


乙骨君は楽しそうに電話を切った。暑いのは嫌だけど正直夏コミへの興味が勝った。


「スケジュール練り直しだな」


Chapter5.2-待機-


蝉の声がやかましくうるさい、あまりにうるさいのでこっちも大声で対抗したくなる。


「あ、暑ーい!」


「まあ、夏だからね」


僕たちは電車を乗り継ぎ夏コミに向かっていた。乙骨君が早く行くことを希望したので相当早く会場に着いたのだが、


「何、コレ?」


もうすでに長蛇の列ができている。僕たちよりも早く来ている人がいるのに驚きが隠せない。これが夏コミか。修行と言われる理由も分かった。とんでもない待ち時間ととにかく暑いのだ。この暑さが気温のためなのか、人々の熱気のためなのか正直分からない。そして、臭い。


「あと二時間ぐらい待てば中に入れるよ」


「二時間!」


「そして僕の行きたいブースまで一時間ってところかな」


「さらに一時間!」


これは精神と体力との戦いになりそうだ。これだけの苦行を耐えて参加するほどの楽しみがこの先に待ち受けているのかと思うと、ワクワクが止まらない。だけど不安でもある。期待はずれにならないことを祈っている。


「よっしゃかかってこい!夏コミ!」


僕は気合いを入れ直すために叫んでいた。


「そんなに意気込んでいたら体力がもたないよ笑、これ良かったら飲んで」


乙骨君が渡してくれたのはスポーツドリンクだった。大量の汗をかいていたのでとても助かる。そう言えばやけに重そうな鞄を背負っていた気がする。


「乙骨君もしかしてその鞄って」


「うん、ドリンクを六本持ってきたんだ。これで足りなかったらちょっと高いけど会場で調達しなくちゃね」


「六本!?」


六本て何キロだよ。これは確かに飲んで減らしたほうがいいかもしれない。朝から結構水分は取ってきたが足りないかもしれないし。それに大量に汗をかいているからかいくら飲んでも尿意は感じられない。


「乙骨君って随分詳しいけど夏コミ来たことあるの?」


「去年初めて行ったから二回目かな。去年は準備不足で酷い目に遭ったからね笑」


「そうだったんだね」


それで夏コミに詳しかったのか


「でも、まさかクラスメイトと二人で来れるなんて去年は思っても見なかったよ」


「それは僕も同じだよ笑」


友達、ではなくクラスメイトと言うあたりに僕と同じ匂いを感じる。それから僕たちは無駄話を続けながら二時間ほどを過ごした。会話に夢中になっていたので思いの外時が経つのが早かった。


「うわー、すごい混雑だねー」


「そうだね、星空君、こっちだよ!」


「お、おう!」


とてつもない素早い動きで乙骨君は僕を誘導してくれる。これは去年も来たからだけではなく多分最速ルートを調べてきているのだろう。


「ここからはどれだけ早くつけるかが勝負だからね!急いで行くよ!」


「付いていきます!」


僕たちは忍者のごとく俊敏な足取りで目的地に辿り着いた。


「さあ、ここからあと一時間だ」


「あと少しだね」


ここまで来ればゲームクリア間近のワクワクの気持ちしかない。またしてもくだらない話をした後僕たちは一列になり、遂に商品を手に入れることができた。ここまでの道のりを考えると涙が出てもおかしくなかった。


Chapter5.3-漫画-


僕たちはすぐに帰る訳ではなく、夏コミを思う存分楽しんでいた。


「これは、僕も知ってるアニメだ!」


「星空君もこのアニメ見てたんだ!」


「あ、あれは!ヒロインの子のコスプレじゃないか!」


「本当だ!可愛い!」


「そこの男の子達、こっちで一緒に写真撮る?」


「「撮りまーす!」」


思っていた以上に、夏コミは最高だった。一通り楽しんだあと、流石に電車の時間も迫っていたので僕たちは帰路に着いた。


「いやー今日は本当にありがとう!星空君がいたおかげで楽しかったよ!」


「いや、こちらこそだよ!誘ってくれてありがとうね!」


本当に心から今日一日楽しんだと言える。僕たちの仲は確実に深まった。


「また、一緒に遊びに誘っても良い?」


「もちろんだよ」


「ありがとう!」


僕たちはそんな未来に繋がる会話をしてその日は解散することとなった。帰り道、僕はお腹が空いていたのでコンビニに寄って帰ることにした。特に買うものを決めずに店内に入ると見知った顔がいた。


「あ」


「あ、何よ?」


そこにいたのは中山未来さんだ。中山さんは僕の方を鋭い顔で睨んでいる。僕は軽く会釈すると中山さんとは1番離れた棚へと向かった。そこはカップ麺売り場のようで正直今見ても意味がない。だけど他の棚は絶妙に中山さんに近かったり、万が一の時の逃げ場が無かったりする。中山さんが早く出て行かないかとちょくちょく観察していると、突然中山さんがこちらに近づいてきた。


「ねえ、あたしのこと見てるでしょ?キモいんだけど」


「み、見てないよ」


「絶対嘘、罰として肉まん奢れ」


「そんなあ」


中山さんと関わると必ず悪いことが起こる。唯一良かった点は僕の分の肉まんも買うことで目的を達成できたことだ。


「ほら行くよ」


「え?」


「あそこのベンチで食べようよ」


「何で一緒に食べるんですか?」


「何でって、流れだよ、嫌な訳?」


「嫌って訳じゃ」


仕方なく言われるがまますぐ近くの公園の入り口にあるベンチに座った。女の子とこんな風にベンチに腰かけるなど初めてなので緊張してしまう。中山さんは性格は良くないが顔は可愛い。どれだけ嫌でも意識してしまう。


「うまいね、この肉まん」


「で、ですね」


会話が続かない。と言うか会話した方が良いのかも分からない。女の子が興味ないであろう話題しか出せない僕では逆に不快にさせてしまうのがオチだ。


「ねえ、星空って好きな人いるの?」


「居ませんよ」


「そう」


急にどうしたんだ?何故僕はこんな質問をされたんだ?もしかして中山さんは僕のことを?だめだ、理性で考えなければ冷静な判断ができない。可愛い顔で迫られたら多少の性格難など見逃してしまいそうになるだろう。


「いやてっきりさ、ライラちゃんのことを好きだったのかなと思ってさ」


「狂絵さんですか?何で急に」


「ライラちゃんのことが好きだから、ライラが好きだったみっちーを殺してライラも殺したのかと思ってさ」


突然の話に、一瞬で頭が真っ白になった。


Chapter5.4-肉饅-


公園は沈黙が続いていた。中山さんは僕が二人の死に関わっていることに気づいているのだろうか?あまりに鋭すぎる。口を滑らせないように慎重に会話を続けなくてはいけない。


「面白い予想だね笑でも、僕にそんなことができると思う?笑」


あくまで自然に返した。だが、


「いや、星空にはできないよ」


「でしょ?だったら」


「だって、共犯がいるんでしょ?」


またしても鋭すぎる。まさか中山さんはすでに何か掴んでいるのか?心臓が跳ね上がっていく。このままでは絶対にバレてしまう。しかも松井君のことまでバレるのは絶対に避けたい。


「すごいね、まるで探偵だね笑」


「まあ、探偵と言うか、まあ、別に問いただしたい訳じゃないから良いけど」


「あんまり変な噂はやめてよ」


「どうかな?」


そう言ってから肉まんを食べ切った中山さんはさっと立ち上がると。


「じゃあゴミ捨てといてね」


そう言って僕にゴミを押し付けて歩いて行ってしまった。そうか、中山さんは僕にゴミを押し付けたかっただけなのか。だけど、中山さんが何かに気づいているのを掴めたのは収穫だ。対策を打つことにした。すぐに僕は電話をかける。


「松井君、今大丈夫かな?」


「リク君、どうしたの?」


「ちょっと僕たちのことがバレそうだから対策を打とうと思ってるんだけど」


「つまり、殺すってことだね?素晴らしいよ!」


「喜んでくれて良かったよ!」


電話越しでも松井君の興奮が伝わってくる。


「それで今回はちょっと、」


僕は即席で考えた作戦を伝えた。


「面白いね!それでいこうよ」


「ありがとう、ごめんね休みなのに」


「良いんだよ、そろそろ殺したかったし」


そう言って僕たちは電話を終了した。


「さて、準備しようか」


僕たちの作戦が始まった。


Chapter5.5-生贄-


僕は自分の家にある人物を呼び出した。


「お邪魔しまーす」


「どうぞ、どうぞ」


「うわ、広いね」


「なら良かったよ」


「星空のくせにウザいわね」


「酷いですよ!」


僕は中山さんを家に呼び出したのだ。彼女には僕のアリバイの証人になってもらう必要があるのだ。


「じゃあ今日はフレンチで良いですか?」


「良いよ、シェフのお任せコースで」


「分かりましたよ!」


中山さんは人伝いに呼び出したのだが、口実が自分の家に食べに来ないかだったので、料理をしない訳にはいかない。とりあえず執事に作らせたご飯をあたためて出した。


「へー美味しいじゃん」


「ありがとうございます」


「で?本当の目的は何?」


急に僕がご飯に招待したことに違和感を感じているようだ。今のところまで作戦通りなのだが少し心配になる。


「ピンポーン!」


玄関のチャイムが鳴った。


「僕出て来ますね」


そう言って玄関に訪れた人を家の中へ招き入れた。


「え?中山さん?」


「あなたは確か、乙骨君?」


二人ともまさかここで会うとは思いもよらなかったようで驚いている。


「星空君、もしかして、僕、帰るね」


「今来たところなのにもう帰るの?」


「僕の貸したゲームを取りに来ただけだしね、あとはごゆっくりー」


乙骨君は何やら気を使ってくれたようだ。多分勘違いしているが気にしないでおく。


「中山さん、もう遅いし泊まって行きなよ」


「あれ?急に大胆だね星空君、もしかして私に我慢できなくなった?笑」


「その通り」


「!」


流石の中山さんも僕の余裕の表情に驚いているようだ。


「一応、0.1が一箱あるし」


「キモすぎだろ、帰るわ」


中山さんは怒って帰ってしまった。これで僕の作戦は全て上手く行った。その日は夜中になるまでゆっくり過ごし、それから待ち合わせ場所へと出かけた。


「ごめん、お待たせ松井君」


「リク君、俺は待ってないよ」


「なら良かったよ」


松井君といつもの廃墟で合流することに成功した。松井君の横には死体が転がっている。


「早速解体始めるけどもう良いかな?」


「ああ、大満足だよ!」


そう言って松井君はその場を後にした。僕も速やかに解体を終わりその日を終えた。次の日学校に着くとすぐさま中山さんが話しかけてきた。


「どうやら私の勘違いだったみたいね」


「誤解が解けたなら良かったよ、でも、急に何で?」


「昨日から乙骨君が行方不明になったらしいけど乙骨君がいなくなったのは私達が一緒に居た時間だそうよ。」


「共犯者もいなかったの?笑」


「ムカつくわね、乙骨君がすぐに貴方の家から出て行ったのは彼の気まぐれだったはずよ、流石にそこを狙うのは無理があるし、あの日貴方は携帯を一度も見てもいなかったわ。誰にも連絡は取っていないのは間違いないわ」


「なら良かったよ!」


「、、」


中山さんは納得いったのか分からない無言で立ち去って行った。


「上手く行ったようだね」


「松井君のおかげだよ」


中山さんと入れ替わるように松井君が話しかけてきた。


「でもあんなに上手く運ぶとはね」


「うん。前の日に乙骨君にゲームを返す約束をしてそのゲームの中に夜にこの廃墟に来てと書いただけだけどね。」


「それで何の連絡を取らずとも乙骨君を誘導できた訳だね、それにしても乙骨君は随分すんなり従ったね」


「僕たちは似ているからね、もうすぐ友達になるかもしれない人の言うことは断れないよ」


そう、僕は一人が長いからこそ思いついた手だ。それにこの数日僕と乙骨君は確かに友情を深めていった。今でも楽しかった思い出が思い出される。次に夏コミに行くのは一人かもしれないな。無傷の心でそう思った。

第六章に続く

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