第三章 恋する乙女
思いは言葉にするのが難しい。なのに言葉には提出期限がある。
-エピローグ-
人は死ぬ。そんなの誰でも知っている当たり前のことなのに身近にあると改めて感じてしまう。命が簡単に落ちてしまうものだと。いずれ訪れるのだろう再び死人をバラバラにして物思いに耽る日が。
Chapter3.1-混乱-
僕のクラスは今驚きと混乱でいっぱいになっている。それもそのはず、数日前からクラスの人気者が突然の失踪。行方も手がかりもない状態だ。
「みっちー大丈夫なのかな?」
「だよね、あんなうるさいのが急にいなくなったらクラスも静かなものよね」
「未来ちゃんも心配してるんだね」
「あのねえ、一応クラスメイトなのよ?」
「ふふっ」
いつも通り二人で話をしている桃奈と中山の会話を聞いての通り、確かに混乱しているし、驚いているのだが、実際に本気で心配している人はおそらくいないのだ。人間なんて、クラスメイトなんてそんなものだろう。
「リク君、この間はありがとうね。あまりの興奮にまだ余韻が冷めないよ!」
「それは、良かったよ!また誰か呼ぼうか?」
もう僕は他人の命を差し出すことなど何にも感じなくなっていた。道丘君の一件以来、ますます松井君さえいてくれれば良いという考えが強くなったからだ。
「いや、次は自分で調達するから終わったら連絡するよ。それに、もう少しの間この余韻を楽しんでいたいんだ。」
「分かった」
そう言うと松井君は鼻歌を歌いながら自分の席へと帰って行った。クラスメイトは松井君の奇行にはもう反応すらしない。だが、僕は嬉しかった。まるで松井君を独り占めできるみたいだったからだ。でも、松井君が殺さないとなるといつもの退屈な日常だ。と思ったのだが、意外な人物が現れた。
「星空君、ちょっと話を伺っても良い?」
「え?、僕に?」
突然話しかけて来たのはクラスの委員長狂絵ライラさんだ。女子と話すのなんていつぶりだろう。しかも僕の目の前に座っている。緊張して手汗が吹き出してきた。でも、狂絵さんが僕に何の様だろう。何の接点もない筈なのに。
「道丘君のことなんだけど」
「??!!」
何故僕に狂絵さんは聞いてきたのだろう。さっきまで出ていた手汗も一気に止まった。まさか、僕と松井君が道丘君を始末したことに気づいたのだろうか?
「最近道丘君と親しくしていたわよね?何か道丘君の行き先に着いて知っていることはないかしら?」
そう言うことか、最近確かに教室でかなり一緒にいたからそう思われても仕方ない。クラス委員長なだけあってクラスをよく見ているようだ。ここは無難に答えておこうと思ったのだが、退屈していた僕は少しふざけてみることにした。、
「道丘君はね、ペンギンに会いたくて南極に行ったんだよ」
「な、南極に!?」
「そう、ペンギンと一緒にご飯を食べるのが彼の昔からの夢だったんだ。」
「そうだったの?!、それで学校を休んでいたのね」
嘘だろ。この人完璧に信じている。普段はマジで優等生で完璧な委員長なのにこんな純粋なところもあったとは、正直可愛く思ってしまう。
「ちょっと、そこの、星山君だっけ?ライラを騙して遊ぶのは辞めてくれる?」
また、中山さんから邪魔が入った。乙骨君の時といい正直鬱陶しい。
「だ、騙したのね?!」
「ごめん、少しふざけてた。」
「私は真面目に聞いているのよ!、道丘君を心配しているの!」
これは少しまずい展開になった。教室の注目も集めてしまったしこのまま目立ってしまうのは避けたいところだ。ここは慎重に言葉を選んで、
「実は南極に行ったのは嘘なんだ。本当は北極に行ったんだよ」
「ほっ、北極に?」
「うん、昔からホッキョクグマのご飯になるのが夢だったみたいで。」
「また、嘘じゃない!」
ついつい揶揄うのを辞められなかった。
「ハハハッ、ライラ面白い笑笑それに星山君も冗談言えるんだ笑」
中山さんが笑い出したことでクラスの皆んなも笑い出した。とりあえず、注目は狂絵さんに移ったから良かった。中山さんに今回は感謝しよう。あと、僕は星空ですよ?。
Chapter3.2-捜索-
放課後になると特に今日は何もないのでまっすぐ帰ってゆっくり過ごすことにした。僕の家は最短ルートで帰れば十分ちょいで辿り着く。今日は最速タイムでも出してみるか。
「よし、」
意気込んで歩いていると、ハンバーガーショップやラーメン屋が誘惑をしてくる。いつもなら寄り道しても良いのだが、今日はタイムアタックを優先しなければいけない。どんどん進んで行き、駅前に通りかかったところで思わず足を止めてしまった。
「よろしくお願いします!人を探しています!」
ビラを配りながらひたすら大声で呼びかけている。思わず近寄ってしまった。
「何してるの?狂絵さん」
「星空君、見ての通り道丘君を探しているのよ」
「道丘君を?」
まさか、ここまでするとは、他のクラスメイト達は心配していると言っても話しの中で言っていただけなのに狂絵さんは心の底から心配しているようだ。
「手伝うよ」
「え?良いの?」
「その代わり学校で揶揄ったのは許してね笑」
「仕方ないわね笑」
思わず手伝うことにしてしまった。タイムアタックはまた今度に持ち越しだ。日が暮れてもギリギリまで二人でビラを配り続けていたが流石に限界が来てしまった。
「今日はこのくらいにしようか」
「そうね、本当にありがとう星空君。助かったわ。先に帰ってて」
「狂絵さんは?」
「私は終電までやろうと思うの」
「辞めときなよ、狂絵さんも声がかすれてきてるじゃないか」
「それでもやるの」
「どうして、そこまで」
問いかけには答えることはなく、狂絵さんは再びビラ配りを再開した。何か特別な事情でもあるのだろう。
「「お願いします」」
「え?」
「終電までやるんでしょ?」
「うん」
そこからただひたすら終電を迎えるまで僕と狂絵さんは叫び続けた。
Chapter3.3-期待-
次の日いつも通り机で1人でいると、狂絵さんが突然現れて、
「昨日は遅くまでありがとう。本当に助かったわ」
「いや、気にしないでよ。僕も道丘君のことが心配だからさ」
「そうよね、、、今日の放課後少し時間をくれる?」
「え?良いけど」
僕は狂絵さんと屋上で放課後待ち合わせをした。ちょっと待てよ。放課後に屋上!?まさか!?そんなことが?でも、僕は狂絵さんと最近話し始めたばかりだし、これまでも接点なんてなかったし、一目惚れされるような見た目じゃないしどういうことだ。
そんなふうに頭の中でぐるぐる考えているうちに放課後になっていた。訳の分からないくらい緊張していた僕は何故か急いで人気のないトイレに向かって爪を切っていた。後から考えると気持ち悪すぎた。
「まだかな」
先に着いたのは僕だった。それもそのはず待ち合わせの30分以上前に来たのだから。狂絵さんはクラス委員の仕事が終わってからしか来れないと言っていたのに。
「これって、ドッキリやいたずらじゃないよね?」
よく考えたらその可能性は高かった。美人な狂絵さんが僕のことを好きなんてそんなの都合が良すぎる話だ。これはおそらくよくあるいたずらで嘘で告白するつもりなのだろう。となると周りで誰かがこちらの様子を伺っているはずだ。そう思い辺りを見渡すが人の気配は感じない。どういうことだ?
「ごめん、おまたせ!」
「待ってないよ」
咄嗟に嘘をついてしまったがとりあえず狂絵さんは本当に来た。今からどんなことを話すのだろうか。
「私ね、これまで誰にも伝えてなかったけど、星空君には伝えたいことがあるの」
「うん、」
ダメだ。いたずらだと考えていてもどうしても心臓がバクバクしてしまう。
「私、ずっと、好きだったの」
「そうだよね、てっ、え?」
嘘だろ、本当に僕のことが好きみたいだ。こんな奇跡のようなことが起きるのだろうか、この奇跡は誰に感謝すれば良いのだろう。神様?仏様?そういえばこの間ゲームのガチャで雑魚キャラしか出なかったから神には祈らないって決めたんだった。ということは仏様、ありがとう!ナンマンダス!
「びっくりさせちゃってごめん。でも昨日の私を見たらすぐ分かっちゃうよね」
「いや、正直、驚いてるよ」
「本当?恥ずかしい」
「でも、何でか聞いて良い?」
「それは、みんなと分け隔てなく話をしている所とか、私のクラス委員の仕事を手伝ってくれる所とかかっこいいなって」
ん?おかしい。いや絶対おかしい。今僕は偏差値Fランクの脳みそをフル回転することで偏差値Aラン
クになったつもりで考えている。つまり、多分これは、
「私、恥ずかしくて、結局みっちゃんとかみっちーとか呼べてないんだ。」
やっぱりかーい、これが現実だ。僕はこれから仏に祈ることもできなくなった。
「みっちーって、呼びたいな」
狂絵さんの目から涙がぽとりと少し垂れた。それもそのはずずっと思っていた思い人が失踪したのだ。心配で心配で仕方ないだろう。胸が苦しくなってきた。僕は道丘君の未来だけではなく、狂絵さんの未来まで奪っていたのだ。それも永遠に。
「ありがとう、話してくれて、出来ることがあれば何でもするし、道丘君ならきっと大丈夫だよ。」
「ありがとう、本当に」
その日狂絵さんは心を休めるために捜索活動はせずに家に帰った。それは僕が進言したことなのだが、相当なダメージなようで素直に従ってくれた。
Chapter3.4-父親-
次の日、僕は狂絵さんのことを心配しながら教室に入ったが、
「星空君おはよう!」
「お、おはよう!」
どうやら狂絵さんは少し回復したようだ。空元気もあると思うが少し安心した。
「狂絵さん、あのさ、ちょっと良いこと思いついたんだけど。」
「え?、何?」
「道丘君を見つけ出す方法を思いついたんだよ」
「何それ!教えて!」
僕は昨日一日考えて道丘君を見つける希望を作る方法を考えた。もちろん成功はしないのだが、狂絵さんを元気づけることはできるだろう。」
「道丘君のお父さんに会ってみない?」
「お父さん?」
そう、道丘君の父親。つまり犯罪者だ。今は警察署で勾留中で過去の余罪と道丘君失踪の件での取り調べを黙秘しているらしい。
「ちょっと驚くと思うけど道丘君のお父さんは犯罪を犯して今捕まっているんだ。そして、道丘君の最後の目撃者ってことにもなっているんだよ。だからどうにか手掛かりを掴めないかと思って」
「そうね。それしか今できることは無さそうね」
「よし、じゃあ今日の放課後行ってみよう」
「道丘君のお父様、何か甘いお菓子とか持っていけば良いかしら?」
いや、結婚の挨拶じゃないんだからと心の中で音を立てずに突っ込んだ。放課後になり、バスと歩きで学校から少し離れた所にある勾留場にたどり着いた。警察署に訳を話すと少しの時間だけ面会を許してくれた。
「こんにちは、初めまして、僕は道丘君のクラスメイトの星空です。こっちは同じくクラスメイトの狂絵さんです。今日は面会に応じてくださりありがとうございます。」
「そうか、そんな奴らが俺になんの様だ」
「担当直入に聞きます、道丘君はどこにいるんですか?」
「ハハハ、そんなことか、いいぞ、教えてやる」
「え?ありがとうございます」
「あいつは俺の嫁、つっても今は離婚しているから元嫁だな。そいつがひどい熱を出してて、その看病のためにあいつが向こうに行ったんだ。
「なんだ、道丘君は無事なのね、良かった」
本当に満足した表情だ。問答があまりにもあっさり終わったことは道丘君が無事ならどうでも良い様だ。早々と警察署を後にした。
「どうだった?少しは安心できた?」
「うん、本当にありがとう!星空君!」
「う、うん。どういたしまして!」
あまりの無邪気な笑顔に少しドキッとしてしまった。
「私、決めた!道丘君が戻ってきたら告白する!」
「突然だね」
「いつ会えなくなるか分からないって今回分かったから、伝えなきゃだもん」
「そうだね」
「もし、ダメだったら、また励ましてね星空君!」
「もちろんだよ、任せといて!」
僕たちは暑い約束を交わしてその日は解散した。
「さてとっ」
僕は先程来た道を引き返して、もう一度道丘君のお父さんに会っていた。
「さっきはありがとうございました。おかげで全て上手くいきました。」
「ああ、契約だからな、それよりそっちも忘れてないだろうな?」
「はい、言われた通りあなたの犯罪の証拠となるものは全て消しました。」
昨日僕は道丘君の生存を報告させるために、道丘君のお父さんとある契約をしていた。それは、僕の言った通りに証言する代わりに彼の犯罪の証拠を全て消し去ることだ。
「それでは、契約成立ですね。では、僕も帰りますね」
「待てよ」
「まだ何か?」
「俺たちの契約は全ての証拠だったはずだろ?」
「はい」
「まだあんだろうが、生きた証拠が」
「道丘君のことですか」
道丘君はどうやら幼い頃から彼の犯罪に加担してきたらしい。確かに生きた証拠と言ってもおかしくないだろう。
「一度しか言わないのでよく聞いてください。僕は確かに契約を全て果たしました。それでは、」
「前に会った時と比べて人が変わったと思ったらそういうことか、怖いねー笑」
高笑いを上げる道丘君のお父さんを背に僕は帰路についた。確かに彼の言う通り僕は変わったのだろう。何故なら松井君さえ居れば、友達が居れば、他のものはもういらないからだ。それなのに、何故こんなに狂絵さんを助けてしまうんだろう。そんな事を考えながらその日を終えた。
Chapter3.5-手紙-
学校に来ると、いつも通りいきなり彼が話しかけてきた。
「リク君今日頼めるかな?」
「松井君、誰にするか決まったの?」
「ああ、素晴らしい選択が出来たと思うよ、楽しみで今にもここでやってしまいそうだよ」
「それはダメだよ笑」
やっぱり松井君は人を殺すのが大好きなんだ。僕はいつまでも松井君に協力し続けたいと思っている。松井君とやりとりをしていると、どこからか視線を感じた。視線の先には狂絵さんがいる。何やら右手に白い紙のようなものを持っているようだ。僕に話しかけようとしたけど松井君を見て自分の席に座ってしまった。何の用事だったんだろう?その日、それ以降、狂絵さんが僕に話しかける事なく放課後を迎えた。僕は準備のために足早に教室を出ようとすると
「星空君」
「え?、桃奈さん?」
そこにはクラスのマドンナ桃奈さんが立っていた。一体何の用事なのだろうか?最近よく放課後に女子に話しかけられるのでモテ期が来たと勘違いしそうになる。
「狂絵さんからの伝言なんだけど、「採点して欲しいものがあるから明日時間が欲しいです」だって、何のことなの?」
「いや、僕にも全く分からないよ」
「そうなんだ、とりあえず伝えたからね」
「ありがとう」
「はーい」
桃奈さんいつも通り可愛いな。僕がモテ期なのは気のせいだったと分かったけどせめてもう少し話したかった。
「行くよ、桃奈、告白は済んだ?」
「違うよ!未来ちゃん辞めてよ!」
「冗談だって笑笑」
桃奈さん、そんなに否定されると僕傷付きますよ?辛い事を忘れるように僕は今日の作業場に向かった。準備を終わらせて、松井君を待っていると夜遅くなっていた。
「リク君、お待たせ!」
「松井君」
いつもよりハイになっている松井君を見ると、間違えなく人を殺してきたんだと分かる。おそらく背中のギターケースに遺体が入っているんだろう。
「じゃあ、あとよろしくね!」
「任せてよ!あとはゆっくり休んで!」
「本当君は最高の友達だよ!」
そう言って立ち去ろうとした松井君だったが、急に振り返ると
「そういえば、その人、まだ死ねない、やることがあるんだって、約束があるんだって、ひっきりなしに叫んでたからさ、もし何か分かったら明日教えて」
「そんなの僕に分かるかなー?笑とりあえず、分かったよ」
そう言うと今度こそ満足そうに松井君はその場を後にした。いくら解剖しても何を思ってたかまでは分からないに決まってるのに、やっぱり松井君は面白い人、最高の友達だ!。
「よし、始めるか!」
僕はギターケースを全開に開けるとそこから、おそらくニ時間くらい立ったまま固まっていた。
「狂絵、さん?」
理解するのに時間がかかった。理解したくなかったのかもしれない。松井君以外どうでも良いと思っていたはずなのに、僕は泣いていた。
「はは、ははは、ははははっ!!!そうだよ、これからも僕の友達は松井君だけなんだ!ありがとう松井君!最高だよ!はははははは!!!!!」
笑いが止まらなかった。泣いているのに笑っているのだ。面白くもないし、悲しいのかも分からない。一通り笑い終わると、黙々と解体作業を始めた。まず、衣服を全て脱がした。もちろん同級生の女の子の体を見たのなんて初めてだったが、何の感情も湧かなかった。自己防衛のために感情を殺してたのかもしれない。体の分解が終わり、衣服を燃やそうとした時にポケットに何か入ってるのに気づいた。
「これは、手紙?」
無心で中を読んでいた。
-道丘君へ-
私は、道丘君の優しい所が大好きです。
私とお付き合いして欲しいです。
-狂絵ライラ-
ラブレターだった。彼女が一生懸命考えて、あれやこれやと文章を何度も考えて、結果シンプルなものになったことが何故か僕には分かった。きっとここ最近彼女の素直なところやひたむきに取り組むところを見てきたからだ。
「僕が、こんなの採点できる訳ないだろ」
さらに溢れ出した涙で火が消えないように気をつけながら手紙を燃やした。全て燃え尽きるまでひたすら眺めていた。
第四章に続く




