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第一章 殺人と出会った日

人を殺すのは、何故罪なのだろか。

-エピローグ-


真っ赤に染まる自らの手、赤い匂いがあたりに充満している。今日も物思いにふけながら分解を進めていく。手を汚しながら、汚れた足を洗う。そんな矛盾を考えながら血を洗い流す。


「ふー。」


今日も一作業終えて休憩しているとふと、なぜこうなったのか思い出していた。


Chapter1.1-日常-


僕は星空リク。男子。高校2年生。それ以上それ以下でもない。友達のいない僕は毎日ただ学校に通って家に帰って寝るという暮らしを繰り返している。何も楽しいことはない、希望も何もない、退屈そのものだ。僕には家族も居ない。正確にはいるのだけれど男を探して遊びまわっている母と、どこにいるのか何をしているのか分からない父がいる。知っているのは父はヤクザで母が若い頃に僕を作ったということだけ。なので二人とも年に一度も会わないような両親だ。だから家族は居ない。何故か生活費や学費や住む家は与えられている。小1まで面倒見てくれた家政婦が週に一度お金を持ってくる。だが、まともに話したことはない。僕は家族への強い憧れがある。だから家族行事のあるたびに学校が嫌いになっていった。


「おいしい」


誰も聞いていないのに作り置きを食べて呟いた。食べ終わると皿を洗い風呂に入り眠る。ただそれだけの日々だ。


Chapter1.2-学園-


今日も誰とも話すことなく教室の机で寝たふりをして過ごしていると、いろんな話し声が聞こえてきた。


「それでねー、新しい洋服を買うのにバイトを増やしたんだー」


教室で華やかにオチのない話を繰り返すのはクラスのマドンナ桃奈楓だ。彼女はいつも明るく誰にでも優しく接している。そしてとにかく美人だ。そんな感じだからクラスの男子、はたまた全校の男子から好意を持たれている。もちろん僕もその1人だ。こんな影の存在の僕にこの間は、


「星空くん、筆箱理科室に忘れてたよ」


と話しかけてくれた。それに僕は


「あ、あ、ありがとう」


とキモい挙動で返したのに


「移動教室だとあるあるだよね!」


と笑って返してくれた。これは惚れない方が無理だろう。


「おい、桃奈ってさー彼氏いないらしいぜ、俺いけるかなー?」


いけるわけないこいつは道岡大志。クラス一のお調子者でみんなと仲がいい。みっちゃんやミッチーなどと呼ばれている。話しかけられたことはないが親近感が湧いてしまうほど目立っている。というかとにかく声がでかい。うるさい。


「みっちゃんならいけるさ、応援しているよ」


「なんだよそれー、嫌味かよー」


「違うよ、俺はただ、」


道岡と話しているのは橋岡大地。クラス一のイケメンだ。サッカー部でキャプテン、勉強の成績も常にトップクラス、おまけに、正確も良いイケメンだ。僕とあまりに対象的な男だ。もちろんクラスの女子みんなに認められていてファンクラブもあるとかないとか。むかつくやつだ。


「・・リア充死ね」


隣の席で誰にも聞こえないような小声でぼそっと呟いたのは乙骨聡太。根暗なやつでこいつも友達がいない隣人だ。僕と同じく誰とも喋らないが、よくフィギュアとかに向かって喋っている。それで余計に誰も話しかけない。


「なんか乙骨今楓のことやらしい目で見てなかったー?」


「そんなことないと思うよ、からかわないでよ未来ちゃん」


「どうだかねー」


桃奈と喋るのは中山未来こいつは女子のお調子者だが、桃奈と親友のようで他のやつとはそれなりにしか喋らない。そして僕のことを嫌っているようだが何故嫌われているのか全く分からない。この間下校する時たまたまコンビニですれ違ったときに聞いた舌打ちの音色が今でも耳の中で鳴り響いているような気がする。


「そろそろ先生が来ますよ、みなさん!」


1人で呼びかけているのはクラスの委員長狂絵ライラ。成績優秀で品行方正。しかもハーフのようで日本人離れしたスタイルをしている。そんなモテそうな感じなのに厳格な性格で、よくクラスの人間も注意しているところを見る。それで陰でクルエラと呼ばれている。僕も怖い。


「ドカンっ!」


ドアを力任せに開けて入ってきたやつは大野木龍三郎。クラスの番長で皆から恐れられている。ただ、基本的にこちらから何かしなければ、あっちから何もしてこない。だが、2メートル近い身長と顔の怖さから迫力があり、今もクラスが一気に静まり返ってしまった。


「あ?」


いや怖すぎるだろ。


「今日も怖いねー大野木君」


全員の背筋が凍る。空気も読まずに口を開いたのはいつも空気を読まない松井健二だ。


「はっはっはっ」


突然笑い出して教室を後にしてしまった。意味が分からない。だが、松井の行動には皆それほど驚くことはない。いつものことだからだ。あいつはいつも周りのことなど見てはいないように自分のしたいように振る舞う。そんな松井に僕は密かに憧れを抱いていた。


Chapter1.3-下校-


個性豊かなクラスメイト達と和気藹々切磋琢磨することなく、いつも通り一人で退屈な学校が終わると、足早に教室を出た。


「少し早すぎるかな」


今日は僕の大好きな小説家の新刊が発売する日なのだ。琴乃葉渚。今人気沸騰中の現役高校生小説家だ。僕は何気なく図書室で読んだ渚先生の小説を読んで以来大ファンになってしまった。


「回り道して行きますかね」


学校終わりな上大好きな小説家の新刊が読めると思うと足取りがいつもより軽く感じた。この日ばかりは退屈な日ではなくなる予感がした。


「うすきみ悪いな」


いつも通らない路地裏のルートを通って行きつけの本屋へ向かう。人の気配はないが、普段ヤンキーがたむろしてるだの悪い噂を教室で盗みぎくので少し不安になってしまう。そんな不安は現実になってしまうようだ。


「誰か!誰か助けてくれー!」


「なんだ?!」


助けを呼ぶ声がするしかも近い、人の気配はしないが確かに近くにいるようだ。


「誰か、ああ、辞めてくれー!」


「どうしよう」


心臓の音が大きくて耳が痛い。どんな修羅場が待っているか分からなくて不安だが、駆け出さずにはいられなかった。


「だ、れ、かー」


「こっちか!」


路地裏を迷路のように進み、さらに細く暗い道の角を回ると、驚きの光景が目に入ってきた。


「ポタン、ポタン」


あまりのことに目の前が真っ暗になるよりも早く、目の前は真っ赤に染まっていた。助けを呼んでいた本人と思われる男性の胸元から真っ赤な血が垂れている。傷口からはナイフがすらっと生えていて、持ち手には人の手が付いている。どうやら男性はナイフで刺されたらしい。


「見られたか」


ナイフを持った男が話かけてきた。話しかけてきたというより独り言を聞こえるように言ったという方が正しいかもしれない。僕はあまりのことに逃げ出すことも忘れて固まってしまった。暗くて姿がよく見えないが、声は男のようだ。


「カタン、カタン」


暗がりから近づいてくる足音が聞こえる。逃げなくては口封じに自分も刺されるかもしれない。でも、さっきまで軽かった足は今は鉛よりも重たくて動いてくれない。こんなのが自分の最後なのかと後悔が膨らむ。本当だったら両親に見送られて学校に行き、クラスメイトの友達と切磋琢磨し、帰ってきたら両親が暖かく迎えてくれるような人生を送りたかった。僕はこの中の一つも持っていない。せめて、寂しくも退屈ないつもの日々だけは奪わないで欲しいと強く願うことしかできなかった。


「カタン、カタン」


かなり音が近くなった。最後の瞬間が近いようだ。


「カタン、カタン、・・あれ?」


男が立ち止まったようだ。おそらくこちらを伺っているようだ。だけど恐怖のあまり先ほどから目を閉じていたため雰囲気しか掴めない。


「ここまでだな」


観念して最後の瞬間を目に焼き付けようと目を開けると、生涯忘れられない光景が広がっていた。


「やっぱり、星空くんじゃん!こんなところで何してんのー?」


知っている、僕はこいつを知っていた。それもそのはずだ。クラスメイトなのだから。


「松井、君?」


「そうだよー、学校で今日もあったじゃん笑」


僕はそこで脳の処理が追いつかなくなり目の前が真っ暗になって意識を失ってしまった。


Chapter1.4-公園-


「ん、んんー」


目を覚ますと見慣れない公園のベンチにいた。とてもおかしな夢を見ていた。僕のクラスメイトが人を殺すところを見てしまう夢。そんなことあるはずもないのに。


「お、目が覚めたね」


「うわぁ!」


「そんなに驚かなくていいじゃん重かったんだよー」


夢じゃなかったのだろうか、僕の隣には松井健二が座っている。それも平然と。どうやらこのベンチまで運んでくれたようだ。


「あの、もしかして」


「あー、夢じゃないよ」


再び心臓の鼓動が速くなってしまう。どうやら夢ではなかったらしい。ということはここにいるのは犯人だ。


「なんで、あんなことを」


「結構すんなり聞いてくるね」


「いや、すいません」


そうだ、言動には気をつけなければいけない。目の前にしているのは殺人鬼だ。


「はっはっはっはっ」


松井君はいつもの笑い声をあげて笑い出した。


「そんなにビビらなくていいよー、大丈夫、君は殺さないから」


「そんなの信じられませんよ」


「まあ、それはそうだね、じゃあこれで良いかな」


おもむろに何かを僕の手に握らせてきた。よく見ると真っ赤な色の金属ナイフ。先ほどの凶器だ。


「うわっ!」


「これで安心でしょー」


確かに凶器を持たないなら大丈夫!・・とはならないが、少しマシな気持ちで話せる気がした。


「もう一度聞くけど何故あんなことを?」


「何故か、ね、」


しばらく沈黙が流れたあと松井君は話始めた。


「俺ねー、人を殺すのが好きなんだ」


「え、?」


「快楽殺人ていうのかなー、人を殺さずにはいられないんだよ」


あまりに素直にとんでもないカミングアウトを受けたので言葉を返すのに時間がかかった。


「どういうこと?」


「言葉通りだよ本当に、人を殺したくてたまらないんだ。これまで10人くらいは殺したかな」


「でも、犯罪だよ?」


「それは世界が決めたことだよ」


「俺は皆んなが何かを好きになるのと同じように殺人が好きで生まれてきたんだ、それは罪なのかい?」


「だって悲しむ人達がいるじゃないか!君に殺された人達の家族は悲しんでいるよ!そんな自分勝手な理由で、」


「なんだって同じだろ?スポーツだって勝つやつがいれば負けるやつがいる。アイドルだって誰かが人気になれば他のアイドルは人気を奪われる。必ず誰かは傷つくんだよ」


「命はひとつなんだよ!」


「そうだよ?俺の命だって、人生だって一つさ。それなら我慢して使う必要はないよね?」


少し説得力がある。何故だか分からないが僕は心臓が早い鼓動から高い鼓動に変わってきたように感じた。


「まあ、そういうことさ、とりあえず俺はやることがあるからまたね!」


「待って!」


「待てないよ、それとこれは俺と君だけの・・秘密だよ・・」


「僕も行くよ」


「え?」


この時何故こんなことを言ったのか自分でも分からないが、この数十分の会話の中で僕と僕の人生が大きく動いたのを感じた。


Chapter1.5-殺人-


松井君についてやってきたのは、さっきの裏路地の近くにある草陰だった。


「これを見て」


「あ、」


そこには先ほどの男性がこと切れている。吐き気が止まらないような思いにされる。


「これを分解してバレないようにしなくちゃいけないんだ。警察に捕まったら殺人ができないからね。」


「でも、どうやって?」


やり方なんて本当に知りたかった訳ではないと思うのだが、聞かずにはいられなかった。


「こうやってナイフでグサッと、」


そうやって先ほどの凶器でグサグサ刺していく。血がまた流れている。というか・・


「これじゃバレそうだけど・・」


「そうなんだよねー、この作業は下手でさ笑」


そんなこと上手い奴がいるわけがないだろう。目の前の光景を見ながらそんなツッコミを声に出せるはずもなく、ただ黙って見ていた。


「ん?、まてよ?」


「どうしたの?」


鼻歌混じりに作業をしていた松井君が、急にばっと振り返って僕に歩み寄る。


「君がやって見てよ」


「出来るわけないだろう!」


なんてことを言い出すんだ、思わず叫んでしまった。


「やって見なくては分からないだろう?ほらっ!」


と言って血だらけのナイフを無理やり握らされた。出来るわけがない。今も吐き気が止まらないのに。


「やってよ、俺たちは秘密を共有した友達なんだからさっ!」


「え?」


また、心臓が上に跳ねた。友達?僕が??


「友達って僕ら話したこともあまりないじゃないか、それに僕は友達なんていたことなくて、」


「俺だって友達はいないよ?必要ないと思ってるからね。でも、こんな秘密を共有した君とは友達になりたいからね」


先ほどまであった吐き気が一気に止んだ。友達だと言われたからだ。友達になりたいと言われたからだ。さっきから胸が高鳴っていた理由が分かった。僕は特別なつながりを欲していたんだ。彼と僕はあきらかに他の人ではたどり着けないつながりを、秘密の共有というつながりを持った。僕に友達が出来る。友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達友達。


「おーい、やるの?やらないの?」


「やるよ、友達だからね」


僕は友達のために迷いなく犯罪者になった。


「良いね!じゃあ、さっそくやってみようか。俺が切断する順番は指示するからさ。」


「分かった」


言われた通りナイフを入れていく、硬直しているのでかなり硬いしやりずらい、でもそんなのは関係ない、ただ夢中で切っていく。


「終わった、」


「早!、めちゃくちゃ早いよ!才能あんじゃんか!!」


「そうかな?」


こんな才能必要ないはずなのに、役に立てたことがとにかく嬉しい。


「じゃあ運ぼうか」


松井君が持ってきたギターケースに入れて近くの海まで運んだ。気づけば夜中になっていたので、暗くて誰もいない。


「えい!」


松井はバラした体を海に投げ始めた。ボシャンボシャンと次々に体が海に沈んでいく。投げ終えると涼しい顔で松井は言った。


「これからもよろしくね」


非日常の一日を過ごした後、帰宅した僕はすぐにベッドに入った。僕の人生は今日間違いなく変わった。ひどく興奮していたが疲れがどっときて僕にとって特別な今日が終わった。明日からきっと退屈じゃない日々になるのだろうと期待しながら。

第二章へ続く

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