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第六話『リスク管理(リスクマネジメント)』

『嘆きの沼』を克服したプロジェクトチームは、驚異的なペースで道を切り拓いていた。人間とドワーフの連携はもはや完璧だった。レオの率いる人間チームが土地をならし、クララが率いるチームが資材を運び、ギムレット王率いるドワーフチームが、寸分の狂いもなく路盤を固めていく。




このままいけば、納期にも十分に間に合うだろう。現場は、楽観的な空気に満ちていた。




しかし、コウスケだけが、毎日数時間、物見櫓の上から険しい顔で『蛇の道』の方角を眺めていた。彼は、プロジェクト管理室の壁に貼られた「リスク一覧表」の一項目を、指でなぞる。そこには、こう記されていた。




【リスク項目:オークによる建設妨害、発生確率:高、影響度:甚大】




その日は、突然やってきた。 物見台にいたクララが、甲高い声で警鐘を鳴らす。




「敵襲!オークだ!ものすごい数よ!」




地平線の向こうから、およそ百を超えるオークの戦闘部隊が、土煙を上げて建設現場に迫ってくる。彼らの狙いは明らかだった。高価なドワーフの機械と、積み上げられた資材、そしてプロジェクトそのものの破壊だ。 現場は、一瞬にしてパニックに陥る。




レオは剣を抜き、ドワーフたちはハンマーを構えるが、彼らは職人であって、兵士ではない。その顔には、隠せない恐怖の色が浮かんでいた。




「全員、持ち場に戻れ!」




響き渡ったのは、コウスケの冷静な声だった。




「戦うな。『仕事』をしろ」




彼は、混乱するレオとギムレットをプロジェクト管理室に引きずり込むと、広げられた測量地図を指し示した。 「敵の進軍ルートは予測通りだ。これより、『緊急防衛施設・築城プロジェクト』を開始する。納期は、敵の到達までの一時間だ」




コウスケの【万物積算】が、オークの軍勢と、現場にある全ての資材をスキャンし、最適解を導き出す。彼は、戦闘の指揮官ではない。土木工事の現場監督として、命令を下し始めた。




「レオ!お前のチームは、伐採済みの丸太を全て、グリッドC-4地点へ運べ!簡易的なバリケードを構築する!」




「ギムレットさん!あなたのチームは、蒸気式の掘削機で、グリッドD-2に塹壕を掘ってください!深さ2メートル、幅3メートル!」




「クララ!弓が使える者は全員、あの丘の上へ!目的は敵の殲滅じゃない。作業時間を稼ぐための、援護射撃だ!」




それは、もはや一方的な襲撃ではなかった。建設チームは、コウスケの指揮のもと、「超高速で、戦場を自分たちの有利な『現場』へと作り変えていく」、恐るべき軍事工兵集団と化していた。




オークたちは、無防備な労働者たちを蹂躙するつもりで突撃してきた。だが、彼らを待っていたのは、巧みに配置されたバリケードと、突如として現れた深い塹壕だった。 先頭集団が塹壕に落ちて混乱したところを、丘の上からクララたちの矢が降り注ぐ。




オークのリーダーは、最も手薄に見える側面から突破しようとするが、それこそがコウスケの設計した「キルゾーン」だった。




「今だ!」




コウスケの合図で、ドワーフたちが操るクレーンが、丘の上に積み上げられていた大量の丸太と岩を投下する。轟音と共に発生した人工的な土石流が、オークの精鋭部隊を飲み込んだ。




リーダーを失い、予想外に要塞化された現場に戦意を喪失したオークたちは、混乱しながら撤退していく。建設チームは、ほとんど犠牲者を出すことなく、奇跡的な勝利を収めた。レオもギムレットも、コウスケへの視線を、驚愕と絶対的な尊敬の色に変えていた。




だが、祝杯を挙げようとする彼らの輪から離れ、コウスケは一人、被害状況を「積算」していた。




【プロジェクト遅延:推定7日】


【追加資材コスト:金貨50枚】


【ドワーフ製削岩機:耐久度30%低下による、修繕費金貨20枚】




彼は静かに呟く。「…高くついたな」 戦いには勝った。だが、領主との契約である「納期」という、最も厳しい敵との戦いにおいて、彼らは大きな痛手を負ったのだ。




さらに、クララが血相を変えて報告に駆け込んでくる。




「コウスケ!退却したオークの動きがおかしい!隊列を組んで、山の向こうで再編成を始めてる!あれは…ただの野盗じゃない!」




これは、始まりに過ぎなかった。

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