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第四十四話『報酬と、次なる「仕様書」』

 ツギハギの、しかし、命の道として力強く再生された『空中展望回廊』の跡地。 コウスケたち一行は、旅立ちの準備を終え、馬車の手綱を握っていた。 その彼らを、「橋の民」全員が、集落の入り口から見送っていた。バルトも、他の民も、その顔には数百年ぶりに、支配者ヴォルガのいない、穏やかな表情が戻っている。


「…コウスケ殿」


一行が出発しようとした、その時。 長老が、バルトに支えられながら、一行の前に進み出た。


「このご恩は、言葉では返しきれませぬ。我らは、金も、財宝も、何一つ持ってはおりませぬが…」

 長老は、バルトが捧げ持っていた、古びた、しかし、大切に保管されてきたことがわかる、金属製のはこを、コウスケに差し出した。


「こ、これ以上は、結構です!」 その函を見た瞬間、クララが、会計責任者として、悲鳴のような声で割って入った。

「もう、私たちの『予算』は銅貨一枚とも残ってないんです! 無償の『依頼』は、これ以上、ギルドとして受けられません!」


「…嬢ちゃん。わかっておる」 長老は、クララのその切実な叫びに、苦笑いにも似た表情で頷いた。

「これは、金ではない。金に換えることなどできぬ、我ら『橋の民』が、このアエリアの『設計図書』と、ついにして守り続けてきた、もう一つの『遺産』じゃ」

「…もう一つの?」

 コウスケが、その函に刻まれた、古代の紋章に気づき、目を見開いた。


「我らの祖先は、空のアエリアだけを造ったのではない。彼らは、この世界の、あらゆる『極地』の建築に挑んでいたと聞く」 長老は、コウスケに函を手渡した。

「我らを『赤字』にしてまで救ってくれた、あんたのような『本物の建築士』にこそ、これを受け継ぐ資格がある」


 コウスケは、ゆっくりと、その重い金属の函を開いた。 中には、金銀財宝ではなく、アエリアの『設計図書』と同じ、金属の板に刻み込まれた、一冊の『仕様書』が、静かに納められていた。 コウスケが、その表紙に刻まれた、古代の文字を、震える指でなぞる。


【水上要塞都市「アクア・シタデル」及び、防水・免震構造仕様書】


「……!」


 コウスケの脳内に、その知識の持つ、計り知れない「価値」が流れ込んでくる。 水上。防水。そして、免震。 この世界では、完全に失われた、天災すら克服しようとした、古代の超絶技術。


「…次は、海か」


 コウスケは、仕様書を抱きしめ、峡谷の遥か彼方、空と大地の境界線を見つめながら、新たな「現場」に思いを馳せていた。


「海!? 水上要塞!?」 レオが、その単語を聞きつけ、たちまち目を輝かせる。

「最高じゃねえか、ボス! 今度は船の冒険だな!」

「フン。防水に免震、か。古代の職人どもは、どこまでやれば気が済むのか」

 ギムレットも、そのロマンに、職人としての血を騒がせている。


 その、男たちの興奮を、背後から、地獄の底から響くような、冷たい声が、一刀両断にした。


「今度こそ、絶対に、予算厳守よ!!」


 クララだった。 彼女は、未だ『大赤字』のままの会計帳簿を、コウスケの目の前に突きつけていた。


「その『仕様書』とやらが、いくらの価値があるか知らないけど、それでギルドの『赤字』は埋まらないの!次の現場プロジェクトこそ、私の『予算書』から、銅貨一枚たりともはみ出したら…!」

「わ、わかった! わかってる!」


コウスケは、未来のロマン(仕様書)と、足元の現実(大赤字)との板挟みで、必死に頷くことしかできなかった。 会計責任者の怒号は、解放された「空の架け橋」の、どこまでも青い空に、高々と響き渡った。


(第二部 完)

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