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第三話『事業計画書(プロジェクト・プロポーザル)』

バレットが突きつけた「臨時戦争税」と「返済額三倍」という知らせは、再生しかけたギルドに冷水を浴びせかけた。




「ふざけやがって!こうなったら、俺たちだけであのオーク共を叩きに行くぞ!」




剣の柄に手をかけ、レオが息巻く。隣でクララは、血の気の引いた顔で静かに俯いていた。




「…どうやっても、無理だよ」




だが、コウスケ・アーデンだけが、いつもと変わらぬ冷静さでギルドの新しいテーブルに一枚の羊皮紙を広げた。




「待て。症状に反応するな。根本原因を分析する」




彼は、二人から街の経済、交易路の構造、そして領主の人柄に至るまで、情報を徹底的にヒアリングした。彼の【万物積算】スキルが、街全体の経済活動をスキャンし、頭脳は恐るべき速度でキャッシュフロー計算書を組み上げていく。




やがて、導き出された結論は衝撃的なものだった。




「…駄目だ。仮に、この税を払えたとしても、交易路が封鎖されたままでは、この街の経済はあと二ヶ月で完全に破綻する」




コウスケは断言した。




「我々が解決すべき本当の問題は、『税金』でも『オーク』でもない。『交易路の封鎖』、ただ一点だ」




コウスケは、すぐに行動を開始した。彼は、街の商人ギルドの会合が開かれているという情報を聞きつけ、アポイントもなしにその扉を叩いた。 商人たちは、交易路の封鎖と重税に怯え、領主の命令通り、高価な討伐隊を編成するための資金を供出するしかない、と諦めの空気に支配されていた。




その会合の席で、コウスケは自らが作成した「事業損失レポート」を提示する。




「皆さんの資産は、このままでは一日あたり銀貨50枚ずつ失われ続けます。領主様が編成する討伐隊は、成功確率が低く、コストも高い。たとえ奇跡的に成功しても、その頃には皆さんの店は潰れた後です」




圧倒的な数字とデータが、商人たちに「このままでは全員が破滅する」という共通の危機意識を植え付ける。そして、コウス-ケは初めて、他者に助けを求めた。




「俺に、皆さんの力を貸してほしい。領主様を説得するための、新しい計画がある」







ギルドの作戦室(改装された一階の酒場)に集まった商人たちに、コウスケが示したのは、モンスターの討伐計画ではなかった。彼が広げたのは、この地域全体の新しい地図だった。




「オークたちがなぜ強いか?彼らが、この街唯一の交易路である『蛇の道』という、険しい山道を占拠しているからです。そこで戦うのは、最も費用対効果が悪い」




彼は、地図に一本の力強い直線を引いた。




「だから、新しい道を造る」




それは、山を迂回し、隣町までを最短距離で結ぶ、全く新しい交易路「北回りバイパス」の建設計画だった。




「オークと戦うための戦費と、この道を造るための工費。俺の『積算』によれば、後者の方が圧倒的に安く、確実で、そして未来永劫この街に利益をもたらします。これは、戦争ではなく『インフラ投資』です」




商人ギルドの全面的な支持を取り付けたコウスケは、街の領主との謁見に臨んだ。 領主は、武勲を重んじる古風な貴族だった。




「シャベルではなく、剣で問題を解決するのが貴族の務めだ」




と、コウスケの提案を一蹴しようとする。 コウスケは、敬意を払いつつも、一歩も引かなかった。彼は、分厚い羊皮紙の束を差し出す。彼が徹夜で作り上げた『“北回りバイパス”建設計画・事業計画書』だった。




そこには、工事の工程表、詳細な見積書、人員計画、そして開通後に領主が得られるであろう、具体的な税収増加額のシミュレーションまでが、完璧に記されていた。




「名誉も、結構です。ですが、兵士の命と、民の暮らし、そして領主様の未来の財産。その全てを守れるのが、この計画です」




領主は、コウスケの揺るぎない瞳と、反論の余地のない完璧な計画書の前に、長く沈黙した。そして、ついに決断を下す。




「…よかろう。だが、条件がある。その道を、二ヶ月で完成させてみせろ。もしできなければ…お前のギルドも、お前の首も、ないものと思え」




臨時戦争税は、その期間、凍結されることになった。


コウスケは、ギルドに戻り、待っていた商人や、レオ、クララに告げた。




「クライアント(領主様)の承認は得られた。納期は二ヶ月、予算はギリギリだ」 彼は、壁に『北回りバイパス』のマスタープランを貼り出す。




「プロジェクト、始動だ。まず、測量チームを編成し、地質調査を開始する。レオ、クララ、資材調達の見積もりを取るぞ」




一つの建物の再生を終えた彼の次なる仕事は、この街の未来そのものを「建築」することだった。

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