第二十二話『次期工事計画書』
祝宴の熱気が冷め、静けさを取り戻した『礎の谷・都市開発ギルド』の作戦室。壁には、復興事業によって見事な黒字へと転換した、ギルドの新しい貸借対照表が誇らしげに貼られていた。それは、コウスケがこの街で成し遂げた仕事の、何より雄弁な証明書だった。
「さて」
祝杯の片付けもそこそこに、コウスケは仲間たちに向き直った。
「街の経営は、ようやく安定軌道に乗った。いよいよ、俺たちの本来の目的を果たす時だ」
彼は、部屋の隅で埃をかぶっていた、あの大陸地図を再びテーブルに広げた。辺境の小さな谷『礎の谷』から、未知の世界へと広がる、巨大な地図。以前、絶望的な気持ちで眺めたそれとは、全く違って見えた。今の彼らには、仲間と、資金と、そして確固たる実績がある。
コウスケは、机の引き出しから大切に保管していた羊皮紙の束を取り出すと、その表紙を仲間たちに見えるよう、地図の上に静かに置いた。
【大陸古代建築群・保全計画:フェーズ1・実現可能性調査(Feasibility Study)】
「俺たちが次にやるべき仕事だ」
レオが、ゴクリと喉を鳴らす。クララは、その計画書の持つ壮大さに、わずかに身震いした。ギムレットは、古代の偉大な建築という言葉に、職人としての血が騒ぐのを感じていた。
コウスケは、仲間たちの顔をゆっくりと見渡し、そして、プロジェクトマネージャーとして、最も重要な事実を告げた。
「街の復興事業で得た利益により、このフェーズ1を実行するための予算は、確保できた」
その言葉は、どんな魔法の詠唱よりも、どんな英雄の檄よりも、彼らの心を奮い立たせた。 冒険は、気まぐれな夢や希望から始まるものではない。 緻密な計画と、それを裏付ける予算があって、初めてその第一歩を踏み出せるのだ。
コウスケは、地図の上に指を走らせ、彼らが最初に調査すべき、最も近い古代建築の推定ポイントを指し示した。
「――本当の冒険を始めようか」
その言葉に、三人の仲間は、力強く頷いた。 彼らの次なる旅が、今、幕を開ける。 それは剣と魔法の物語でありながら、その一歩目は、承認された予算と、完璧な計画書と共に始まる、前代未聞の「プロジェクト」だった。
(第一部 完)




