表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/44

第二話『想定外コストと新たな価値』

翌朝、日の出前の薄明かりの中、コウスケ・アーデンはギルドハウスの前で腕を組んで立っていた。彼が用意した再生済みの羊皮紙には、今日の作業内容が美しい文字でリストアップされている。




眠い目をこすりながら現れたレオとクララに、彼はその一枚を手渡した。 タイトルは【本日の作業工程と危険予知(KY)活動について】。




「おはよう。まずは安全朝礼を始める」


「あんぜんちょーれい…?」




聞き慣れない言葉に、レオが首を傾げる。 コウスケは構わず続けた。




「今日の主作業は、一階内装の解体。想定される危険は、①釘のついた床板による踏み抜き、②壁解体時の粉塵吸引、③資材運搬中の転倒だ。対策として、足元の確認を徹底、水で濡らした布で口と鼻を覆うこと、資材は一度に運びすぎないこと。以上。何か質問は?」




冒険者である二人が受けてきた、魔物の弱点や奇襲についてのブリーフィングとは全く違う。あまりに現実的で、地味で、そして自分たちの身を案じていることが明確に伝わるその言葉に、二人は困惑しながらも、奇妙な信頼感を抱き始めていた。




解体作業が始まると、コウスケの真価が発揮された。彼は【万物積算】を駆使し、建物の構造を完全にスキャンしている。




「その柱はまだ抜くな、二階の床が落ちる。そっちの壁は、ただの間仕切りだから壊していい。外した木材は、状態コンディションを査定して、再利用可能な『A資材』と、薪にするしかない『C資材』に仕分けしておいてくれ」




彼の的確な指示のもと、作業は驚くほど効率的に、そして安全に進んだ。レオはその怪力で壁を破壊し、クララはその器用さで資材を仕分ける。戦う以外の仕事で自分たちのスキルが役に立つことに、二人は新鮮なやりがいを感じていた。




だが、床板をすべて剥がした時、このギルドが抱える本当の「病巣」が明らかになる。 建物の基礎を支える巨大な礎石に、無数の亀裂が走っていたのだ。それは、単なる経年劣化ではなかった。




「なんだ、この虫…」




クララが顔をしかめる。亀裂の奥で、石を喰らって生きる白く輝く魔力生物『石喰いストーンイーター』の巣が発見されたのだ。これが、このギルドハウスの構造的安定性を蝕んでいた元凶だった。




「…専門の駆除業者を呼んだら、金貨が何枚かかるか…」




レオが絶望的な声で呟く。




「やっぱり、もうダメだ…」




しかし、コウスケは顔色一つ変えない。彼は静かに『石喰い虫』の幼生を【万物積算】で分析する。




【対象:石喰い虫の幼生】


【脅威度:低(直接的な攻撃能力なし)】


【弱点:高濃度の塩分、急激な温度変化】


【保有素材:キチン質の外殻(強固)】


【素材価値:銀貨5枚(加工により、良質な防水接着剤となる)】




ウィンドウに表示された「素材価値」の文字を見た瞬間、コウスケの口元に、初めて確信に満ちた笑みが浮かんだ。




「…レオ、クララ。計画を変更する。今から、『害虫駆除』ではなく、『資源回収』のクエストを開始する」




コウスケが立案したのは、驚くほど低コストな駆除方法だった。市場で売れ残っていた質の悪い岩塩を、銅貨数枚で買い叩く。それを大鍋で煮詰め、「超高濃度の熱塩水」を作り出す。




そして、それを礎石の亀裂に、躊躇なく流し込んだ。 甲高い悲鳴を上げて飛び出してきた石喰い虫たちを、レオとクララが冷静に駆除し、その亡骸を回収していく。




駆除後、コウスケは回収した石喰い虫の殻をすり潰し、特殊な樹液と混ぜ合わせ、強力な防水接着パテを生成した。それを使って、礎石の亀裂を完璧に補修してしまう。


結果、彼らはほぼゼロコストで問題を解決しただけでなく、本来なら高価な防水資材を「無料」で手に入れたのだ。




絶望的な「想定外コスト」は、コウスケの知恵によって、プロジェクトをさらに前進させる「利益リソース」へと変わった。







数週間後。ギルドハウスの一階部分は、見違えるように綺麗で、機能的な空間へと生まれ変わっていた。拡張された酒場には、噂を聞きつけた街の人々が少しずつ集まり始めている。レオとクララは、自分たちの手で再生したギルドを、誇らしげに見つめていた。




そこへ、あの債権回収人のバレットが、再び姿を現す。彼は、ギルドの変貌ぶりに一瞬目を見張るが、すぐに嘲るような笑みを浮かべた。




「ほう、大したもんだな、大工仕事は。だが、無駄な努力ご苦労さん」




バレットは、一枚の羊皮紙でできた布告を突きつける。




「山のオーク共が、街へ続く交易路を封鎖し始めた。領主様は、討伐隊を編成するために、住民に『臨時戦争税』を課すとさ。お前らのギルドへの返済額も、来週から三倍になる。…払えるのか?」




コウスケたちの戦いが、一つの「建物」から、街全体を巻き込む、より巨大な「プロジェクト」へと移行する瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ