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第十九話『公共事業(パブリック・ワークス)』

復旧の全権を委任されたコウスケが、まず最初に行ったこと。それは、街の広場に巨大な掲示板と受付窓口を設置することだった。そこは、彼の指揮する「災害復興対策本部」となった。




彼は、今回の地盤沈下で家や工房を失った職人たちを広場に集めると、静かに、しかし力強い声で語りかけた。




「皆さんにお集まりいただいたのは、他でもない。皆さんの仕事場と生活の『再建』についてです」




職人たちの間から、不安と諦めの混じった声が漏れる。だが、コウスケはそれを手で制した。




「領主様からの復興予算により、失われた建物を元通りに直すことは可能です。しかし…」




彼は、集まった全員の目を見据えて言った。




「私は、ただ元通りに直すだけの仕事をするつもりはありません。この災害を、我々の街がより強く、より豊かになるための『機会』に変えたい」




コウスケが提示したのは、前代未聞の「公共事業」だった。 彼は、被害を受けた職人たちに対し、単なる修繕ではなく、自身のギルドが開発した【竹プラン】を標準仕様とした、災害に強く、生産性の高い工房への改修を提案したのだ。




「もちろん、タダではありません」




ざわめく職人たちに、今度はクララが前に出て、説明を始めた。




「今回の改修にかかる費用のうち、従来の建物を復旧させるのに必要な『基礎費用』は、領主様からの復興予算で賄います。ですが、【竹プラン】へのアップグレードにかかる『追加費用』については、皆さんにご負担いただくことになります」




当然、職人たちから不満の声が上がる。




「そんな金、あるわけないだろう!」。




その声は、しかし、クララが提示した次の提案によって、驚きに変わった。




「そこで、我々『礎の谷』ギルドが、新たに『災害復興ローン』、つまり融資制度を設立しました。低金利で、返済は工房が稼働し、収益が上がってからで結構です」




それは、悪魔的な、いや、神のような提案だった。




職人たちは、一時的な、しかも将来返済可能なわずかな負担で、あのガスパールが手に入れたのと同じ、高性能な工房へと生まれ変わらせることができる。 彼らの多くは、ヴァレリウスの「安かろう悪かろう」の建築を選んだ結果、全てを失った者たちだ。




彼らは、びくともしなかったガスパールの工房と、無様に崩れ落ちた自分たちの工房との差を、骨身に染みて理解していた。




「俺…やる! 俺に貸してくれ!」




「俺もだ!」




一人が手を挙げると、それは連鎖した。ヴァレリウスの安普請で被害を受けた職人たちが、我先にとコウスケの受付窓口へ殺到する。それは、彼らが商業ギルドと完全に決別し、コウスケという新しいシステムに、街の未来を託した瞬間だった。




その日から、『礎の谷』は巨大な建設現場コンストラクション・サイトと化した。 ギムレットを現場総監督とし、彼の指揮のもと、ドワーフと街の男たちが一体となって復旧作業にあたる。そこには悲壮感はなく、未来を自分たちの手で作り上げるという、熱気に満ちた活気があった。




東地区の一角で、ヴァレリウスは、その光景をただ呆然と眺めていた。 かつて自分を頼ってきた職人たちは、今や誰も彼に見向きもしない。




彼が築き上げてきたはずの「秩序」が、コウスケという男たった一人によって、根底から「再設計」されていく。 その巨大なうねりの前で、彼はあまりにも無力だった。

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