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第十五話『モデル工事(モデルケース)』

その日、気難しい老職人ガスパールの埃っぽい工房は、静かな熱気に包まれていた。コウスケが広げた羊皮紙には『作業分解構成図(WBS)』と題された、緻密な工程表が描かれている。




それは、彼の世界では当たり前の、しかしこの世界では誰も見たことのない「戦いの地図」だった。




「これより、ガスパール様の工房改修工事に着手します。まず、各員の役割ロールを定義する」




プロジェクトマネージャーとして、コウスケはチームに正式な役割を割り振った。




「ギムレットさんが『施工管理』。現場の全ての作業と品質に責任を持つ、現場監督だ」




「フン、任せておけ」




「クララは『工程管理および資材調達』。スケジュールと、物資の管理を頼む」




「ええ、抜かりなく」




「そしてレオは『顧客対応および現場安全管理』。施主せしゅであるガスパール様との円滑なコミュニケーションと、現場の安全を守ってくれ」




「お、おう! よく分からんが、任せとけ!」




施主であるガスパールは、冒険者ギルドとは思えぬ、あまりに専門的な体制に目を丸くしていた。


改修工事は、驚くほど円滑に進んだ。ギムレット率いるドワーフたちが、寸分の狂いもなく炉の石を組み上げていく。




クララは、遺跡と工房を往復し、資材の搬入を完璧に管理する。レオは、不慣れながらも「親方、今日の作業はここまでです!」などと、ガスパールに工事の進捗をこまめに説明し、彼の不安を取り除こうと奮闘していた。




計画は、完璧だった。だが、問題は外部からやってきた。 炉の断熱材として、最後に充填するはずの特殊な耐火粘土が、届かない。クララが険しい顔で報告する。




「コウスケ、資材屋が…! 商業ギルドからの圧力で、我々との取引を中止してきました!」




それは、ヴァレリウスによる明確な妨害工作サブタージュだった。暴力ではない。サプライチェーンを断ち、プロジェクトを物理的に頓挫させようという、商人らしい陰湿な攻撃だった。




「ヴァレリウスの奴…!」




ギムレットが怒りに拳を握る。工事の中断は、職人にとって最大の屈辱だ。


だが、コウスケは冷静だった。彼は、プロジェクト計画書の一部を指し示す。そこには【リスクと対応策】という項目があった。




「想定内のリスクだ。プランAが失敗した。直ちにプランBに移行する」




彼は即座に二つの代替案を提示した。 一つは、ギムレットへの「技術的仕様変更」の依頼。




「ギムレットさん、この一般的な粘土を、遺跡の高純度マナで練り上げれば、要求仕様を満たす代替品を『自社開発』できないか?」




それは、既存の資材に付加価値を与える、Value Engineering(価値工学)の思想だった。ギムレットは一瞬驚いたが、すぐにニヤリと笑った。




「フン、面白い。やってやる」




もう一つは、レオへの「特殊な調達任務」の発令。




「レオ、もう一つ必要な『骨材』がある。西の採石場に生息するロックリザードの鱗だ。市場で買うより、君が直接『現地調達』する方が、コストも時間も圧倒的に早い」




「そういうことなら任せとけ!」




レオは、剣を手に喜び勇んで飛び出していく。冒険者のスキルを「調達業務」として活用する、コウスケならではの最適解だった。




コウスケの的確なリスク管理によって、チームはヴァレリウスの妨害を乗り越え、工期通りに、そして予算内で工事を完了させた。 完成した炉は、以前と見た目はさほど変わらない。ガスパールは、疑いの目を向けながら、炉に火を入れた。




その瞬間、工房の空気が変わった。 炉は、以前の半分の燃料で、遥かに高い温度へと瞬時に達した。工房内に漏れ出ていた熱は完全に遮断され、炉の周囲だけが神々しいほどの光と熱を放っている。




「……馬鹿な。これが…わしの炉だというのか…」




頑固な老職人は、絶句した。それは、彼の職人人生を根底から覆す、圧倒的な「性能パフォーマンス」だった。




その日の夕方。ガスパールの工房から漏れ伝わる、異常なまでの魔力の輝きと、「わしの炉が生まれ変わった!」という老職人の歓喜の声は、噂となって職人街を駆け巡り始めていた。 コウスケの「モデル工事」は、最高の形で、その価値を証明したのだ。

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