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第十四話『事業計画書(ビジネスプラン)』

コウスケの次の戦場は、ダンジョンではなかった。活気と煤の匂いが混じる、『礎の谷』の職人街。それが、彼の「市場」だった。 彼はレオとクララを伴い、市場を歩く。だが、その目は露店に並ぶ商品ではなく、一軒一軒の「建物」そのものに向けられていた。




彼のスキル【万物積算】が、肉眼では見えない、街が抱える構造的な病巣を暴き出していく。




「…ひどいな」




コウスケは、ある鍛冶屋の前で立ち止まり、呟いた。レオの目には、炎が赤々と燃える活気ある工房にしか見えない。




「何がだ、コウスケ?」




「あの炉を見てみろ。断熱が甘すぎて、発生した熱エネルギーの30%が壁から外部に損失ロスしている。無駄な燃料費だ。あっちの魔道具屋は、壁の魔力防護が弱すぎて、保管している高価な魔法素材の劣化を早めている。気づかないうちに、毎日、金が空気中に消えているようなものだ」




彼が見ていたのは、街の全ての建物が垂れ流している「目に見えない無駄コスト」だった。




ギルドハウスに戻ったコウスケは、仲間たちに一枚の羊皮紙を見せた。そこに書かれていたのは、単なるマナの販売計画ではない。




【事業名:ギルド直営・特殊建築コンサルティング】


【事業内容:遺跡の高純度マナとドワーフの技術を用いた、建築物の性能向上パフォーマンスアップ改修工事】




「俺たちはマナを売るんじゃない。マナを使った『改修工事』をサービスとして売るんだ」




彼の計画はこうだ。街の職人たちの工房を、彼らの要望と予算に合わせて「改修」し、生産性を劇的に向上させる。それこそが、「建築コスト管理士」である自分にしかできない、全く新しいビジネスだった。




最初のターゲットは、街外れに工房を構える、気難しいと評判の老魔道具技師、ガスパール。コウスケは、彼の工房を訪ねると、挨拶もそこそこに切り出した。




「ガスパールさん。あなたの工房を、我々に改修させてほしい」




怪訝な顔をする老職人に、コウスケは具体的な「投資収益率(ROI)」を提示する。




「現状、あなたの工房は熱効率が悪く、魔力の損失率も高い。我々の技術で壁に『魔力断熱改修』を施せば、魔力結晶の消費量は年間で金貨20枚分削減できます。初期投資、つまり今回の工事費用は金貨50枚。二年半で投資回収が可能です。これが、私の『積算見積書』です」




剣や魔法の代わりに、コウスケが武器として差し出したのは、詳細なデータに裏付けされた分厚い「見積書」だった。ガスパールは、その数字の具体性と、何より自分の工房の問題点を正確に指摘していることに、目を見張った。




この新しいビジネスの噂は、すぐに商業ギルドの長、ヴァレリウスの耳に届いた。 彼の怒りは、単なる新規参入者への警戒ではなかった。コウスケのやろうとしていることは、素材の流通といった川下のビジネスではない。「建築・改修」という、街の利権の根幹に関わる「縄張り(テリトリー)」への、明確な侵略だったからだ。




数日後、コウスケはヴァレリウスに呼び出された。




「君のやっていることは、我々が長年築き上げてきた街の『秩序』を乱す行為だ」




豪華な応接室で、ヴァレリウスは笑顔のまま脅しをかける。




「その事業、我々の傘下に入るか、それともこの街で商売ができなくなるか…選びなさい」




ヴァレリウスの言葉に対し、コウスケは一枚の「事業計画書」を静かにテーブルに置いた。




「俺は、あなたの傘下に入るつもりはない」 彼は、目の前の権力者をまっすぐに見据えた。 あなたと『共同事業体ジョイントベンチャー』を組んで、この街全体の時代遅れな『建築基準』**を刷新する、という提案なら、検討しますが?」




ヴァレリウスの顔から、初めて笑顔が消えた。 コウスケは剣を抜かなかった。ただ、彼の専門知識という、誰にも模倣できない刃を、静かに突きつけただけだった。

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