第13話:SNSで“自殺の連鎖”を煽ったインフルエンサー
「今日もまた一人、消えました。私の言葉に応えるように、きれいに──」
懺悔者は静かにそう言って、両手を膝の上に揃えていた。白いシャツの袖から細い手首が覗き、そこにはかすかに古いリストカットの痕跡がある。
名前は「カナ」と名乗った。21歳。フォロワー数は約18万人。ジャンルは「メンタルヘルス系」。動画のサムネイルには、涙を流す彼女の顔と「もう、生きたくないあなたへ」といった言葉が添えられていた。
「最初は、自分の経験を語っていただけだったんです。摂食障害のこと、家庭のこと、学校のいじめのこと。『私も』『わかる』って反応がすごくて……。それが、いつしか“癒しの語り手”みたいに扱われるようになって……」
彼女の瞳は、どこか他人事のようだった。
「でも、どこかで“感情の供給”が足りなくなったんです。もっと、もっと誰かに泣いてほしくなって──」
やがて彼女は、意図的に「自殺願望」を語るようになった。「もし明日いなくなっても、気づく人はいますか?」という投稿は、たった一晩で6万いいねを超えた。
「人が苦しんでるのを見ると、安心するんです。私だけじゃないって……でも、だんだん“安心”だけじゃ足りなくなって」
彼女は、DMである少女とやりとりを始めた。中学生で、家庭環境も荒れていたという。
「最初は、優しく接してました。でも途中から──引きずり込む言葉を選ぶようになってたんです。“あなたの痛みは、死ななきゃ伝わらないよ”とか。“静かに眠る方法、知ってるよ”って」
そして数日後、少女は首を吊った。ベッドの上にスマホが落ちていて、最後に開いていたのは彼女とのDM画面だった。
「通報もされました。でも、証拠不十分で不起訴でした。たぶん、上手く逃げたんです。言葉を選んでいたから。法律の穴を、意識してました」
カナは自嘲気味に笑った。
「でも、逃げられなかった。私のタイムラインは、死んでいった子たちの“いいね”で埋まっていく。通知が止まらない。私が一言投稿するだけで、『わかる』『死にたい』の嵐です」
部屋の沈黙が、彼女の呼吸を際立たせる。
「人を癒すふりをして、絶望に共鳴していったんです。自殺の連鎖なんて、ニュースでは曖昧にしか語られない。でも私の中では、はっきり顔が浮かぶんです。あの子も、この子も……“私が選んだ言葉で死んでいった”って」
彼女はゆっくり、懺悔の椅子から立ち上がった。
「だから、ここに来ました。私のフォロワーの誰かが、ここを見つけてくれると信じて──最後の“止めて”が言えなかった私の代わりに、あなたが……この連鎖を止めてください」
部屋の灯りがふっと消え、再び点いたとき、彼女の姿は消えていた。
モニターのログには、懺悔の記録がすべて残っていた。その言葉は、時折ネットを駆け巡る「匿名の呟き」とどこか似ていた。
だが、その言葉の裏に、いくつの命が重なっていたか──それを知る者は、彼女しかいなかった。