第1話:名前を盗んだ日
※この作品は非常に気分が悪くなる可能性があります。
なるべくグロ表現は行わないように気を付けていますが、あった場合には教えていただけますと幸いです。
これは、事実かもしれないし、作り話かもしれない。
けれど、私にとっては“救い”だった。
どうか、最後まで読んでほしい。
——
大学時代、私には「理想の人間」がいた。
同じゼミにいた女。名前を仮に「ミズキ」とする。
彼女は、なんでも“ちょうど良かった”。
成績はそこそこ良く、顔立ちは親しみやすく、バイト先での評判も悪くない。
誰からも嫌われず、誰かの特別にもならない。
けれどなぜか、誰もが「彼女に一目置く」空気を持っていた。
私は、その「空気」に嫉妬した。
自分がどれだけ努力しても得られない“当たり前の好感度”を、ミズキは自然に纏っていた。
あるとき、気づいた。
彼女の“輪郭”をなぞれば、私もああなれるかもしれない、と。
最初に真似たのは、Twitterのプロフィールだった。
彼女が載せていた好きな映画、読んでいる本、使っている絵文字まで、そっくり真似た。
誰も気づかなかった。
むしろ、「感性が大人っぽくなったね」と言われた。
次に、インスタの写真。
同じカフェに行き、同じような角度で写真を撮り、フィルターを調整して投稿した。
反応は上々だった。
「オシャレになったね」「雰囲気変わった?」
私は確信した。
私は、ミズキになれる。
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大学三年の秋、私は別の大学へ編入した。
そこで、私は名乗った。「ミズキです」と。
身分証の偽造?そんなことはしていない。
名字も名前も平凡な組み合わせだった。
学生証の漢字が少し違っただけで、誰も疑いはしなかった。
そこからは、もう演じるだけだった。
彼女の服装、話し方、好きな音楽、思考パターン。
全てを記憶して、反復して、刷り込んだ。
編入先の大学では、私は“人気者”だった。
「ミズキさんって、話してて落ち着くね」
「なんか、信頼できる感じがする」
おかしかった。
誰も、本物のミズキを知らないのに。
——
本物のミズキから、久しぶりに連絡が来たのは、冬だった。
SNSのDMに、短くこう書かれていた。
「ねえ、最近、私の名前で誰かが活動してるって聞いたんだけど、知ってる?」
私は何も返さなかった。
返信を書いては消し、書いては消し、結局、何も送らなかった。
——
数週間後、ニュースで彼女の死を知った。
「女子大学生が飛び込み自殺。原因は不明。いじめやトラブルの痕跡なし」
私は泣かなかった。
どころか、どこかで安心している自分がいた。
これで、私は本物になれると。
——
罪悪感?あるよ。
ずっとある。
夜中に目が覚めるたび、スマホの画面に“本物”の名前が浮かぶ。
だけど、それでも私はこう思ってる。
「私はただ、“空いていた人生”を埋めただけだ」
ねえ、あなたも考えたことはない?
誰かみたいになりたいって。
誰かの人生を、そっくりそのまま奪えたらって。
私は、それをやっただけ。
それだけの話だよ。
——
【懺悔投稿番号:#001】
【罪の種類:なりすまし、精神的加害、結果的死亡】
【実話度:83%(推定)】