4:白い女 上
―――――フレア・イントマス。
王族である”フレア一族”が統治する「貿易国家」で、主に鉱石や農産物などを貿易している。
周囲の国との関係は良好で、特に”エルルの民”との関係は規格外な信頼関係であり、利害の一致で協力関係にあるとのこと。
「まさか、ここにきて”エルルの民”って話題が出るとは思わなかった。」
思わず、その言葉が口からこぼれた。この情報は全て”フレア・イントマス”近衛兵の隊長格、アンザからの情報だ。
現在は、駐屯地のテントを一つ借りて拠点にさせてもらっている。
「ナガミが話していた、”エルル派”という言葉も聞いたことがないほど、エルルの民は我々”フレア・イントマス”の国民に好意的でな。商売の自由を掲げていて、この国の在り方まで尊重してくれている。だからこそ、エルルの民が戦争に加担しているという話がイマイチ理解できないだ。」
アンザの話によれば、”エルルの民”の軍事力は無いに等しく、周辺の国との協力関係を結んでいる”商売人”の集団らしい。
新たな情報が多すぎて困りものだが、無いよりは、あった方がいい。
「それにしても、モノペディ王女の名前を公表前から知っていたとなると…。ナガミの話が全部本当の話だと確証が得られる。つまり、この先の未来ではエルルの民はなにかしらの軍事力を得て、国として確立し、侵略を開始したということになるんだよな…。」
「俺は聞いた話をそのままアンザさんに流しているだけに過ぎないけど、エルルの民がアクアパレッサ王国に現れた時は、他の人物に成りすまして侵入をしていたんだ。もしかしたら、”成りすませる術”を軍事力としているのではないかって思う。これまでの話を俺なりに纏めた推測だから確証はないけども。」
アンザと鳴上は、二人して溜息をつく。
この先どうすればいいのかお互いにわかっていないからだ。
「ナガミの話を事実と捉えて行動を起こすにしても、エルルの民側からは分かっていたとしても”わからない”の一点張りになりそうだ。となると…今現在できることを一つずつ解決することを目安にしてみるのはどうだろうか?」
今現在できること…。情報収集やアンノーマル探しは常時行うとして…。
時代が違うっぽいので、モウコさんやハスティ王女とコンタクトもできない今、特に何も浮かばない。
「すまない、今できることとしても、情報収集かアンノーマル探ししかやることがない…。」
アンザはそれを聞いて、困った顔をする。表情から察するに、アンザも国境付近を封鎖する壁への対策に追われているので、アンザ側でできることは限られてそうだ。
「そうか…。まぁでも、情報収集は大切だ。国境付近の壁の件の対応もあって、幸いにも様々な人がここを訪れる。その際に俺はいろいろな情報を仕入れておこう。ナガミはそうだな…一旦城下町にでも行ってみてはどうだろうか?お金を渡しておくから、気分転換も兼ねて上手い飯を食っておくといい。」
そうか、壁の対策で色々な人が訪れるのか。それなら色々な情報を駐屯地にいても収集できそうだ。隊長の身分の手前、場から離れられないとは思っていたが、上手い収集方法を心得ているものだ。
「ありがとう、何もかも助かる。」
「いいんだ。これまでの境遇といい、自分の中で情報を整理するのに疲れただろう。地図を渡しておくから、この印がある店に行ってみな。店主に”アンザの連れ”って伝えてくれれば優遇してくれる。
駐屯地を出て、ひたすらまっすぐ歩いていけば日が暮れる前に余裕で着く。道中は魔物もいるが、ナガミなら問題ないだろう。」
ま、魔物!?それは大丈夫なのだろうか?というか、何を基準にして問題ないと判断している…?
「いやいや、魔物って危険な奴じゃ…。」
「ん?問題ないだろう?そもそも一人でここまで来れているだけで凄いぞ?
壁に激突しても無傷でいる頑丈さに、普通であれば、魔力で身体強化しているのに、ナガミは一切強化していない。それだけで道中の魔物なんて怖くない、余裕だ!と言っているほどの強者とお見受けできる。
それに道中には幸い比較的温厚な魔物の”ホーンラビット”しかいないのでな、危害を加えなければ攻撃してこない。」
「そ、そうか…。」
自分には自分でもわかっていない未知の魂力があるから、基本的に大丈夫だと思うが、流石に奇襲されたり毒を盛られたりしたらと考えると、安心するには早計だ。
魔物といっても温厚な性格であっても、警戒することに越したことはない。
「それとこれ、もっていってくれ。近衛兵に配られている通行手形だ。簡易的な手形だが効力はしっかりしている。持っているだけで近衛兵と同じ待遇を得られるだろう。」
アンザは右のポケットから、紫色の紙を出してきた。白い文字で何か書いてあるが、読むことができないので、それとなくありがとう的な感じを表情に出しておく。
「助かる。ちょっと城下町に行ってくるよ。何か進展があったらまた共有しに戻る。」
「あぁ、俺はここで吉報を待ってるよ。また会おう。」
ナガミとアンザは互いに会釈をしたうえで、救護用のテントの前で別れた。
ナガミの歩く姿を遠めに見つめつつ、アンザは胸に秘める思いを心の中でつぶやいた。
「ナガミのやつ…上手くいってくれるといいんだがな…。」
(そしてアクアパレッサ王国を、ハスティ王女を救ってくれ…。)
…
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鳴上が別の世界に足を踏み入れ奮闘している中、時同じくして、とある一派がまさに今動かんとしていた。
「ん?この感じ、適性があるみたい。」
虹色の髪の毛を持った女の子は、何か頭の中に浮かんだようで、机を挟んだ目の前の暖炉の前に座る、白い髪を持つ女性に目を向ける。
「適正…?てててて、適性!?あらあらあらあら!まぁ、お久しぶりですわ!高貴なる我々に適性を持つお方がいらして?」
白い髪を持つ女性は、やけに黒いゴシックロリータファッションを自慢げに見せつつ、虹色の髪をもつ女の子のもとに駆け寄る。
その表情は嬉しさが滲み出ているのがわかるほど、歓喜していた。
「うーん…適性はあるけど、変な感じ。あの世界で変な感じになってる。非常にまれな例」
「変な感じとは?なんですの?」
虹色の髪を持った女の子は、ローツインテールを揺らしながら虚空を見つめる。それを見た白い髪を持った女性は、同じく虚空を見つめる。
「なるほどですわ。では、このゴーデヴィッヒが直々にスカウトしてまいります!代表はお座りになってお待ちくださいまし。オホホホホホホ!!!!」
白い髪を持った女性は高笑いしつつ、近くにアイアンメイデンを召喚し、その中に入ったかと思うとアイアンメイデンごと姿を消した。
「…。あ、いっちゃった。…ゴーデヴィッヒなら大丈夫…かな?」
虹色の女の子はボーっとしつつも、目の前からいなくなった白い髪を持った女性を想いつつ、いざとなれば自分が行こうと心の中でつぶやいた。
「いやいや、一番の問題児に行かせたらまずいんじゃないんですか?代表。」
その様子を見ていた筋骨隆々な黒髪を持つ女性は、心配そうに代表…虹色の髪を持った女の子に話しかける。
「まーーーー…。メシアが…既にいるみたいだから大丈夫…大丈夫…?」
虹色の髪を持った女の子は、また虚空を見つめる。
メシアの姿をまるで目で追っているかのような…不思議な感覚を醸しつつ。
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「う、うわぁぁ!」
「バカ、気をつけろ!回復は!?」
「今やってる!」
歩くこと体感1時間ほど。
通路を右に外れた開けた場所で、1匹の黒い牛と戦う3人の武装した男女がいた。
剣やら、拳やらで上手く戦っている。…ように見えるが、大きい見た目とは裏腹に素早い動きをする黒い牛に苦戦しているようだ。
「い、いてぇ…。助かった!」
「もう!無茶ばっかして!攻撃魔法を練るから、時間作って!」
男性の2人の内、1人は拳、もう1人は剣と盾、女性は杖をもっており、女性は何か言葉をしゃべっている。これがいわゆるファンタジー的な要素というわけか…。
幸い日が暮れるまでまだ時間はありそうだ。
ゲームとかに出るRPGのリアルって目の前みたいな感じなのかと思いつつも、しばらく草の茂みに隠れて、観察することにした。
「コレット、サイン、連携だ!」
「あぁ、わかった!右から行く、レイボットは左からだ。サイン頼む!」
「よし、了解!これでもくらえ!攻撃魔法!」
動きからして、お互いへの信頼が為せる動きなのだろう。連携も完璧で、迷わず行動に移している。
黒い牛は、左右に分かれた敵に対して、どちらを狙っていいのか困惑して狼狽えている様子が伺える。
サインという子が杖から光の弾を高速で黒い牛にめがけて飛ばすと、顔に当たったようで、悲痛な叫びが周囲にこだまする。
ひるんだ姿を見て、コレットがすかさず足をけり上げる。
牛は体制を崩して、その場で転んだ。
「いまだ、レイボット!」
「うおぉおぉぉぉぉ!」
大きく振りかぶった剣で黒い牛の首元を掻っ切る。
断面からは黒い牛の血が噴き出しつつ、黒い牛は糸が切れたかのように力なく倒れた。
剣についた血を払ったレイボットが、静かにその様子を見守る。
「よっしゃ!ブラックヒュージの討伐完了!サインとコレットのおかげで何とか上手くいった…。」
「おう、お疲れ!だいぶ動けてきたな!帰ったら飯にしよう!」
「そうね…。あーもうくたくただわ…。体拭きたい…。って、討伐の証である角取ってかないとダメでしょ!」
「やべ、忘れてた!取るか…。」
どうやら無事に戦闘が終わったようだ。生き物の生き死にを間近で見たのは初めてだったが、特に何とも思わなかった。あの黒い牛が俗にいう魔物なのだろうか?
アンザが言うにはホーンラビット…?という魔物しかでないという話だったが…。
「まったくもう!しっかりしてよね…!私も手伝うか…っ!!!」
杖を持った女の子…サインって子が手をさし伸ばした瞬間、彼女の体は鈍い音と共に宙を舞い、黒い牛を飛び越えて地面に叩きつけられた。
その様子を見て、すかさず血相を変えた拳で戦う男…コレットが、戦闘態勢になるもサインを吹き飛ばした青い牛に吹き飛ばされてピクリとも動かなくなった。
「サイン!コレット!よ、よくも…!!!」
青い牛は先ほどの黒い牛よりも俊敏で、旋回力も大きくパワーアップしており、突進から旋回、突進までの流れが異様に早かった。
回避するも、レイボットは躱しきれず、右足が青い牛の突進にぶつかり、変な方向へと曲がった。
「!!!!!!!!!!!」
声にならない叫びと共に、足を引きずりながらもレイボットは青い牛に立ち向かっていた。
機動力を奪われた今、彼に勝機はほぼないだろう…。
助けに行きたいが、俺は目の前の光景を見て中々体が動かない…。
(なんでだ、動けよ…!動け…!!!)
人が死にかけているところを見て、身体が精神が緊張しているのか、はたまたハスティ王女の時の手合わせで自分の力に恐れているのか…。
どちらにせよ、体が動かない…!!!
「助けにいかないのですの?メシア様。」
ふと、自分の横から声が聞こえる。声が聞こえ…
「うわぁ!?ど、どちら様!?」
あまりにも自然に横にいたので、気配すら気づかなかった…。この白い髪を持った女性はなんだ…?
明らかにこの世のものではない風貌をしている。
首には胴体と頭を縫い付けた跡、白い目に白い舌。黒いゴスロリの格好をした…。ん?今メシアっていった?
「メシアってのはどういう…」
「早くしませんと、あの3人死にますわよ?あなたなら簡単にお助けできませんこと?」
話し方からして、貴族みたいな喋り方だがそれよりも風貌が気になりすぎる。
「わたくしのことは後で。今は目の前で散りゆかんとする若者たちをお救いくださいませ。」
白い髪を持った彼女は、自分の背中をそっと押してくれた。
不思議と体の強張りがとれていく…。
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