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3:ハスティとモノペディ 下


「もうすぐ国境を越えます。フレア・イントマスは隣国になりますので、越えた瞬間に入国になります。」


「ありがとう、声がけ助かる。」


揺られること数分、国境までもう少しといったところらしい。

それにしてもホーシスを操る手綱捌きが、熟練の技の様な気がしてならない。荷車から顔を出してみてみると、戦争の傷跡なのか、凸凹した道が目立つ。幾度となく段差を通ってきたにも関わらず、揺れを感じさせない操縦技術は見事としか言いようがない。


「も、もうすぐです、ナガミ様。国境付近は盗賊が出没する場合がございます故、少々荒れるかもしれません…。しっかりおつかまりください。」



国境付近に盗賊が出没するという発言に理解が追い付かなそうになるが、今自分がいるこの場所は、間違いなく自分のいた世界とは違う場所…つまり、元居た世界と同じ認識でいると危険極まりないということだ。

危険そうなことを日常茶飯事の様に話されると現実味もあったもんじゃないが、危険には変わりない。いくら自分自身が強くなっていようと、ナイフのような刃物で刺突なんかされたら、最悪死ぬこともあり得る。


「わかった。荷台の骨組みにでもしがみつくよ。」


言われた通り、荷車内部側面の骨組みに手でつかむ。

不思議と手になじむ。触ったことがあるような、懐かしい感覚が手を伝って感じた。


「あぁ…本当にいました。人数は6人ですね…。少し手荒ですが突っ切ります。」


懐かしい感じを手で感じ取るも、数秒で野蛮な選択が現実となった。モウコさんは何やら口ずさむと勢いよくホーシスの手綱を動かした。

ホーシスは手綱の動きで感じ取ったのか、スピードを上げて走る。一体でしか引っ張っていないというのに、どこに荷車をひっぱりつつ速度を上げる力が残っているのか。


「隊長!まずいです!ホーシス荷車が突っ込んでくる!」

「ヤバい、あいつら突っ込んでくるぞ!!!どうにか止めろ!死ぬぞ!」

「止まれ―――!!!!」


進行方向から男達の叫びが聞こえる。

ただ、盗賊なのか…?改めて見ても盗賊に見えそうで見えない。

そもそも襲う気があるのなら、死ぬぞと叫ぶだろうか…?それともこの世界の盗賊は白昼堂々声をかけて襲う…?


「いや、違う。モウコさん、止まった方が…!」


時すでに遅し。とは…まさにこの事。

盗賊?と思わしき人物たちは、迫りくるホーシス荷車を避ける。

「さぁ、国を越え…ゴバァ!?」


そして、荷車を引っ張るホーシスは、国の境目に勢いよく侵入を試みるが、見えない強固な壁にぶつかった。

押し潰されるかのように、国境に吸い込まれたホーシス荷車はスピード故に潰れ、モウコさん共々勢いよく壁に激突した。






―――――――――――――――――――

「おい…大丈夫か!?」


先ほど聞いた男の声と共に、重たい瞼を開ける。

そこには心配そうに見つめる、大男がいた。


「ここは…」


「ここは国境付近のフレア・イントマス兵の駐屯地の救護テントだ。いきなり突っ込んで来てびっくりしたぞ。」


駐屯地…?いつの間にかテントに運ばれていたようだ。

目の前の大男は、キリっとした西洋顔で、肌が白いほりの深い顔立ちだった。叫んでいた男達の中に彼もいた気がする。


「俺はこの事態を解決するために調査に来たフレア・イントマスの近衛兵の一人で、アンザだ。訳あってここで調査をするために待機している。」


「俺は鳴上。助けてくれて感謝する。」


アンザは、気にするなと言わんばかりに、テント内にあった木の椅子に腰かけた。



「目覚めて早々悪いのだが、ナガミよ。何故我々の静止を振り切って、突っ込んできたんだ?現在、フレア・イントマス周辺の国境全てが謎の見えない壁に阻まれている状況で、あの速度は自殺行為もいいところだ。」


国境すべてが見えない壁に?そんな話はハスティ王女から聞いていない。


…ん?フレア・イントマス…?



「当たり所が良かったのか、幸いにもナガミに傷1つはついていないようだが…。危険に極まりない。今後は慎重に行動をしてほしい。」


「すまない…。ハスティ王女の王令でフレア・イントマスへ至急向かう必要があったんだ。…そうだ、侍女のモウコさんは!?同じく馬車に乗っていた…。」


アンザは不思議そうな顔をし始める。何を言ってるんだ?と言わんばかりの顔だ。


「ナガミ、お前…何を言っている?ここはフレア・イントマスの領土で、この地そのものがフレア・イントマスの国そのものだぞ…?

衝突の後にナガミが乗っていた馬車…あぁ、ホーシス荷車か。勿論荷車も確認したが、ホーシス荷車にはナガミ一人しか乗っていなかった。ナガミが言うモウコという人物に関しては、知らないし、ハスティ王女とはいったい誰だ?」


事態は思ったより深刻なようだ…。


「これは…少し情報を整理した方がよさそうだ…。アンザさん、これまでの経緯を聞いてくれるか?」


「了解した。何やら事情がありそうだ。」


アンザにこれまでの経緯を詳しく説明した。

アンザは時折相槌を打ちつつ、話す内容全てを静かに聞いてくれた。


「なるほど…事情は分かった。つまりナガミは、王令を達成するためにフレア・イントマスへ偵察をする必要があった…と。そして、盗賊と勘違いしたモウコという女性もろとも壁にぶつかったというわけか…。にわかには信じがたいが、実際に何も知らず国境に突っ込んでくる理由として妙に納得できる。」


「信じてくれるのか?」



「あぁ、現状、今の話を仮に嘘だと解釈して、『何故国境付近にある見えない壁に突っ込んだのか』を説明できないだろう。作り話にしては、体験してきたことに現実味がある。」



端から見れば作り話にも聞こえる内容だったようだ。

体験した話を説明する中で、アンザは『アクアパレッサ王国』や『ハスティ王女』といった、今まで聞いてきた地名や人物名を何も知らなかった。

そして一番問題なのは、唯一共通している『モノペディ』を知らないことだ。

…どうしたらいいんだ、うちの代表様よ。


「それにしても”アンノーマル”か…。聞いたことはないが、今のこの現象を”アンノーマル”によるものと考えると、辻褄がある気がしている。」


「それはどうしてだ?」


「あぁ、まず前提として、話しておく。

今現在、我々が調査した限りでは、壁は一昨日の夜中を境に一気に展開され、フレア・イントマスの国境に沿って存在している。壁が出来てからは国外への連絡や交易までも遮断された。我々、フレア・イントマスの近衛兵が束になって突破する方法を調査しているのだが進展がない。

…ここまではいいか?」


「あぁ…。かなり深刻だ。」


アンザは咳ばらいを一度挟んで、なおも続ける。


「そもそも見えない壁だが、見えないだけであって存在する壁だ。強固な壁故、魔法も通さないときた。

…それだけなら良かったのだが、あの壁そのものが特殊な素材でできているようで、近くにいるだけで吸い込まれるような感覚が襲ってくる。

昨夜、壁を検証した物理系魔法の調査団によれば、重力が壁の内側でひしめき合っている兼ね合いで、近くにいる者を吸い寄せ、壁に触れた瞬間、対象の重力が分散し、消し飛ぶことが判明した。魔法が打ち消されてしまうのも、重力が影響しているらしい。」


「まじか…だから止まれって必死になってくれたんだな。」


見えない壁に重力が備わっているのか…。もしかして、ホーシスの引く力が強かったのも壁のせいなのか…?


「あぁ、そうだ。壁に近づくにつれ速度が異常に早くなっていたのもあってな…。しかし、壁については不明な部分が多いので一旦話を置いておこう…。

改めてだ、俺が”アンノーマル”と辻褄があうといったのは、我々の国や国外で「あの壁」を聞いたことも見たことも無いからだ。

仮にも俺は近衛兵を率いる隊長の立場でな、各地を転々とすることが多いんだ。部下からの情報や、街での情報収集も仕事に入っている。…だが、この壁を説明できる情報は一切ない。

先ほどナガミの話の中で、今まで聞いたことも見たことも無い、”アンノーマル”と呼ばれる"存在してはいけない魂”が侵入していると説明してくれたこととつなげると、この壁は”アンノーマル”と呼ばれる何者かが作成したと捉えると辻褄があう。」



ふむふむ…。なるほど、”アンノーマル”が見えない壁を作成した説か…。

自分よりも情報を持っている彼が、見ず知らずの自分に対して、隊長という身分を明かした上で話してくれたとすると、こちらも誠意を見せないといけない。

色々と立て続けに起こったこともあり、頭の中は混乱していたが…仮だけど、一気に”アンノーマル”に近づいた気がする。



「”アンノーマル”が見えない壁を作成したと考えるか。今は情報が少ないから、アンザさんの考えで俺も動いてみるよ。最も、この壁を解決しないと俺も先に進めそうにない。」



「仮説だから実際は何とも言えないが…これも何かの縁だ、俺もできる限り協力しよう。

それそうと、ナガミよ、行く当てがなければしばらく駐屯地に滞在するといい。」



アンザはそう告げると、懐から出した地図を近くにあったテーブルに広げた。

重たい腰を上げて、横になっていたところから移動して地図を見る。駐屯地の見取り図のようだ。



「ナガミが眠っている間に、所持品があるか調べさせてもらった。何ももっていなかったから、もしかしてと思ったんだが、寝泊りする場所があるか?」



「いや、無いから助かった。」



暫く地図を見ていると、自分の頭が冴えてきたのか地図の内容とは別の考えが頭をよぎった。

この世界に入る前にオミングさんが話していたこと。忘れもしないあの話。


------------------------


「すみません。大事なことをお話していませんでした。こちら側に戻るタイミングは世界を救えたか救えなかったかの2択のみです。言い方を変えますと、ここで鳴上様が『アクアパレッサ王国』に向かった場合、しばらく戻ってこれないうえに、我々とコンタクトができません。

なので、今のうちに質問があればお答えします。大丈夫ですか?」


------------------------


もし、フレア・イントマスの周囲にある壁が狭まってしまったら?もし…世界を救えなかったらどうなる?

様々な可能性が頭の中でせめぎあい、額に汗を浮かべる。


「アンザさん…もし、もしですよ?”アンノーマル”を追い出せなかった場合、世界が抹消されるとして、その運命を受け入れられるか?」


アンザさんは何かを悟ったのか、近くの腰掛に改めて座りなおして、鳴上に向き合う。


「受け入れられるかはわからない。ただ一つ言えるのは、受け入れなきゃいけないのであれば受け入れるしかない。世界の抹消なんて考えたことも無いから正直どう転ぶかは分からんがな。

間違いなく言えるのは、最後まで諦めなず抗うとは思う。」


「そう…ですか…。」


思えば例え話にしてもおかしな話だ。突然、世界が抹消されるかもしれないから受け入れられるかって、なかなか酷な質問だった。

世界を救えるか救えないかは、自分の選択がカギになっていく…。世界を救えなかったら、世界が抹消するのかしないのかはわからないが、そうならないためにも今後は慎重に行動する必要がある。


「た、隊長!!!朗報です!この書状を見てくだせぇ!」


すると突然、救護テントの入り口から勢いよく兵士の一人が入ってきた。

中肉中背の髭を生やした兵士だ。その表情には微笑みが混じっている。


「客人の前で大声を出すんじゃない。」


「すまないです、隊長!で、でもすごいいい話なんですよ!」


兵士は隊長であるアンザに対し、押し付けるかのように書状を突き付けた。

そんなにいい話なのか、早く見てくださいという雰囲気が見てわかる。


「お前が突き付けるほどとは…そんなにか?なになに…?

ほぉ…なるほど…。鳴上、これは少し厄介なことになっていそうだ。見てくれ。」



アンザは書状を見るや、びっくりしたかのような表情をし、そのまま複雑そうな目線を鳴上に向けつつ、書状を鳴上の前へ差し出した。


そこに書いてあったのは、想像を斜め上に行く内容だった。


「まじかよ…。どうなってるんだ…。」



【祝!フレア・モンパディ女王陛下、第一王女出産!名はフレア・モノペディ第一王女】




・・・・


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