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3:ハスティとモノペディ 中

自分は喧嘩の要領で拳に拳をぶつけただけだった…。

のにもかかわらず、ハスティ王女の右腕が簡単に取れそうになってしまった。


慌ててハスティ王女をぶん回して力の分散をしてみたが、間に合わなかった。

でも何故、ぶん回せば力の分散ができると感じたのか理解が追い付いていない。

もしかすると、人間を辞めている存在が為せる技なのだろうか…。


泥人形を蹴った時もそうだ。確かに蹴ったのに、蹴りを泥人形に入れた感覚がまるでない。寧ろ何もない空間に蹴りを入れて空を切ったかのような感覚。

これは力の使い方を気にしなければ、不用意に人を傷つけてしまう可能性がある。注意しなければ。


「待たせたな。彼女が”フレア・イントマス”出身の侍女、モウコだ。」


「お、お初にお目にかかります…。モウコです…。」


侍女というより、黒いワンピースを着た自信無さげな女性が目の前に現れた。

彼女はモウコさんというらしい。てっきりメイドのような格好の者が出ると思っていたが…。


「む?どうしたナガミ。」


「あ、あぁ…侍女と聞いていたので、メイド服かなんかを着た人が来ると思っていたんだ。」


「メ…メイド服とは何でしょうか…?」


「なるほど、ナガミの国では侍女は…メイド服なるものを着るのが一般的なのだな。我らの国では、この格好こそが侍女を象徴する服なのだ。特にモウコは優秀でな。防衛魔法と反射魔法を上手くコントロールできる才女でもある。」


「お、おやめくださいませ…!ハスティ殿下…。私の魔法なんて、殿下の足元にも及びません…。」


なるほど…侍女=メイド服は日本での一部の認識であって、ここはそもそも世界が違うから認識も違うのか。

それにしても黒のワンピースか…。モウコの元々の褐色肌と重なって、独特な雰囲気を醸し出している。

街の人は王女と呼んでいたが、モウコさんは殿下呼びなあたり、主従関係の構築は徹底しているようだ。



「謙遜はよせ。この国で2番目に防衛魔法を上手く使えるのは事実だ。誇りに思え。

…さて話は脱線したが、モウコよ。ナガミと共に自身の故郷である”フレア・イントマス”に行ってほしい。ナガミはこちらに来て間もないのだ、お前がしっかりと道案内をするように。」



防衛魔法の使い手のナンバー2を同行させてくれるとなると…、単に友人の心配で国に確認の為に送るのとは重みが違うようだ。


「え、あ、はい…!ナガミ様の道案内含めて同行すればよいのですね…!では急ぎ準備してまいりますので、少々お待ちください!!!!」



モウコさんは、物分かりがいいみたいで、すぐに了承してくれた。深々とお辞儀をすると、白銀の髪を靡かせながら、裏庭から室内に戻った。



「おい、まて…。

…すまぬ、モウコは気が早いのだ。今は戦争中で周囲が危険で、簡単に行ける道筋ではない…。明日の明朝であれば、被弾も最小限に済むと思われるから、行くならその時にと話そうとしたのだが…。」


「彼女も、もしかしたら心配なんじゃないか?自分の故郷でもある場所を、心配しての行動力というか…。」


「だと良いんだがな…。」



すると、数分もしないうちにモウコさんが、身長よりも3倍ぐらいのデカさの荷物を軽々と持ち上げて戻ってきた。3人の中で一番身長が小さいとはいえ、こんなに荷物がいるのか?と思うほどの量が積まれていそうだった。



「あ、あああ、遅くなり申し訳ございません…。荷物をお持ちしました…!」



「おい、話を最後まで聞けモウコ。出発のタイミングも何も伝えていないだろう。荷物も多すぎだ!まずは落ち着け。」


「あ…あああ!!!し、失礼しました殿下…。久々の遠征ということもあり、うれしさと楽しさがこみあげてしまいまして…。先走ってしまいました…。」


涙を浮かべながら、ハスティ王女に深々と頭を下げた。

ほらな?といわんばかりに、ハスティ王女がこちらに顎で合図してきた。どうやら自分の読みは外れたらしい。


「改めて、今回のお遣いの内容を伝える。我がアクアパレッサ王国の友好国である”フレア・イントマス”との連絡が途絶えた。”フレア・イントマス”は鉱石産業が活発で、何度も国の問題を解決に導いてくれた偉大な国だ。連絡が途絶えたということは、戦争に巻き込まれてしまった可能性がある。

翌日明朝より、モウコ、ナガミは”フレア・イントマス”に赴き、現状を視察してきてくれ。現地での行動の判断は全てモウコに任せる。

それと、ナガミ、これを持ってくれ。これは”連絡の石”と言ってな。対になる石同士で会話をすることができる。擦ると遠方であっても使えることから誰でも使えて簡単なのだ。」



ハスティ王女は、モウコと自分に対して威厳ある振る舞いで改めて話をしてくれた。

佇まいから仕草まで、先ほど組手をしていた時とはまるで違う威圧感を前に、モウコさんのこめかみから汗が滴り落ちるのが見えた。

これが王族が命令する”王令”というやつなのだろうか。


「ありがとう。これを擦れば会話ができるのか。凄い石だな。」



「これはカーチャーとドンテスがお互いの山の近況や話をするために用いていた、技術の塊のようなやつでな。どんなに遠方に離れていても会話ができる優れものだ。これを利用して、各国に派遣した人間と話していたのだ。今回の報告…場合によっては急を要する場合があるからな。モウコには入国許可書を渡しておく。」


「はい、受け取りました。ありがとうございます…。私ども二人、そろって無事に戻ってくることを誓います。」


モウコさんの手には、入国許可書のような書類が渡った。

複数枚あるように見えるのも、重要さを物語っているように感じる。


「うむ。必ず無事に戻るように。ホーシスの準備はこちらでしておこう。では、2人とも頼んだぞ。」


ハスティ王女はそう告げると、ナガミやモウコい大して深々と一礼した。

侍女に対しても一礼するあたり、国民を本当に大事にしているんだなと、改めて感心する。


ナガミとモウコは、その発言と共に同じく一礼をし、部屋をそれぞれ後にした。

その姿を見送ったハスティ王女は、裏庭から自室へと戻る。人っ子一人みえない城の廊下を歩くたびに、なにか危険なことが起きているのではないかと、底知れぬ恐ろしさを感じつつ。


「戦争中とはいえ、いつもと変わらないはずだ…。なんだこの、危険信号は…。」


ハスティ王女の防衛魔法は、人々の精神の揺らぎ、心で考えていることを”自己の防衛”と置き換えて、読み解くことができる。その為、自分自身が考えていることも客観的に読むことができる。


「むむ…。読み取れるからこそ、この胸騒ぎが加速する…。何か良からぬことが起きているのか…。」


危機感に苛まれること数分後。ハスティ王女の元へ従者の一人である、セリオスがハスティ王女の部屋のドアを叩いた。


「殿下、ご報告がございます。」


「ん、セリオスか。入れ。」



「はッ!早急に確認していただきたいことがございます。殿下、こちらの書状と、これを。」


セリオスは部屋に入るなり、自身の懐から、紐で丸く纏めた1枚の紙と赤く光る宝石のような石を差し出してきた。

ハスティ王女はそれを受け取ると、興味深く石を見る。


「これは…”マイカス帝国”原産の魔鉱石…。このような純度の高いものが何故…。」


赤く光る宝石のような石を手に取ってみると、その石の重大さを改めて痛感する。

”マイカス帝国”で生産、管理されている魔鉱石そのもの。それも多少魔力を込めるだけで高度な魔法を誰でも打てるほどの精巧さと純度を誇る代物だ。

その魔鉱石が今目の前にあるということ…。即ちこの書状は、半端なことは書かれていない。


恐る恐る、紙を広げて中身を見る…。


「ははは…なんてことだ…。そんな…まさか…。」


受け取った紙に書いてあったことは、全てを否定されたような文章だった。

これが本当だとしたら、全てが終わりを迎えてしまう。


「……私が今までやっていたことはなんだったのだ。」


崩れ落ちるハスティ王女に駆け寄るセリオスは


「今はお休みくださいませ、ハスティ王女殿下。」


そう一言を添えるだけだった。



―――――――――――


翌日早朝、ナガミとモウコは、王令を実行すべく、城の裏庭に赴いた。

裏庭には、ホーシスという馬みたいな動物が引っ張る馬車のようなものが用意されている。

しかし、肝心のハスティ王女の姿が見えない。


「どこで集合するかわからなかったから、とりあえず裏庭に来てみたが…

モウコさんがいるところを見ると、間違いではなかったか」


「え、えぇ…。ホーシスは何故か裏庭に用意されていましたし、なんとなくですが裏庭が集合場所なのでは?と思いこちらに着た次第です。」


「そういえば、モウコさん。ハスティ王女は?」


「殿下…昨日の夜から連絡が付かないのです…。最年長の従者であるセリオス様が言うには、日々の激務で疲労がたまり、体調を崩されお休みになられておるとのこと…。現に殿下の部屋には50ほどの綿密な防衛魔法の気配を感じました。”フレア・イントマス”へは、予定通り出発してほしいと、セリオス様経由で伺っております。」


「そうか…。なら仕方ない。」


ハスティ王女は防衛魔法を国に張る大事な役目を担っている。そう考えると、体調を崩してしまうのも妙に納得してしまった。

本当は体調が悪い中、自分との会話の場を設けてくれたのでは?と考えると申し訳ない気持ちになってくる。


「い、行きましょう…。私たち二人を”フレア・イントマス”に行かせるのは何か別の理由もある気がします…!殿下の為にも、ここはまず殿下のいうお遣いを遂行しなければ…!」


モウコは、ハスティ王女が休んでいるであろう方向を見ながら口を開くと、勢いよくホーシスの背に乗った。ホーシスは嫌がる素振りもみせず、ただ冷静に前だけを見据えていた。


「後ろの荷車にお乗りください。道中戦争の火種が襲ってくるかもしれません。私の防衛魔法で必ずや安全に”フレア・イントマス”にお連れします。」


「わかった、頼む。」


言われるがままナガミは後ろの荷台に乗り込む。荷車の中は人が3人ほどは入れる簡素な内装だった。

荷車の奥を見ると、荷車を引っ張るホーシスと、背中に乗り込んだモウコさんが見える。


「では、出発します…。ホーシスは、引っ張る物を大切にする習性がある為、道中揺れることはないでしょうが、万が一揺れてしまった場合は私の操縦ミスなので申し付けください。」


ホーシスは静かに歩みを進めていく。驚くべきことに、一切揺れを感じない。

まるで移動していないかのような、乗り心地の良さ。操っているモウコさんの技術も相まってのことだろう。

一歩、また一歩と歩みを進める荷車からの眺めは、何とも言えぬ大草原が広がっており、

後ろを振り向けば、近くにあったはずのアクアパレッサ王国が小さく見えてきた。



…考えれば、ここにきて数日。

命を落とした後、謎の世界に連れてこられ、挙句にはアンノーマルを追い出すために、別の世界から別の世界へと渡る…といった異常な体験を立て続けにしている。

心が許容できる範囲をとっくに過ぎているのだが…不思議と受け入れている自分が恐ろしい。


「はぁ…。どうしたらいいんだろうか…。」


アンノーマルは未だに姿どころか、話に出ることすらない。

俺は何を見つけて追い出せばいいのか。はたまた、どうすればこの世界から追い出せるのかがわからない…。



「いかがされました?」


おっと、つい心の声が漏れていたようだ。

気づけば、モウコさんがホーシスを操りつつ、器用に振り向いていた。


「いや、なんでもない。ちょっと色々と考え込んでいたんだ。」


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